お化け屋敷で、ブヒる姫

 お化け屋敷は、迷路状に改造した教室を回る仕組みだ。狭いが作りは本格的らしい。俺たちと入れ替わりで出てきたカップルが、わずかに青ざめていた。


「では、お入りください」


 受付でミミちゃんに、入場料代わりのトークンを払う。


 中へ入ると、病院をモデルにしているらしかった。机などにもシーツを敷いて、手術室っぽく作ってある。シートや壁についた血のりは、たぶん絵の具だろう。


 そろりそろりと、音更さんと一緒にゆっくりと進む。


「なるほど。パネルに絵を描いて、立体的に仕上げているんだな」

「絵のうまい子がいると、こういうことができるよね」


 怖さより、作りの巧みさに感心した。


「見てコレ。日の光を利用して、窓にレントゲン写真を浮かべてるよ!」


 音更さんが窓を指さした瞬間、レントゲンの心臓が破裂する。水風船で、心臓を模したらしい。


「いや、ビックリしたぁ」


 気を取り直して先へ。


「っごおおおおおお!」


 マスクを付けたマッド医者が、背後から襲ってくる。といっても、驚かしに来るだけだが。


 内股の看護師がデカイ注射器を抱きながらワーッと出てきたり、人体模型が道を塞いだり。


「凝ってるねぇ」


 音更さんはビックリはするが、感嘆の声の方が多い。


「怖くない?」

「出来がよすぎて、怖さを感じるどころじゃないね」


 さすが、美術スタッフがいい仕事をしている。


「もうゴールだね。楽しかった」

「最後が怖いみたいだから、油断しないで音更さん」


 鏡張りの、ゴール地点が見えてきた。


「大丈夫だいじょぎゃああああ!」

「わああああ!」


 腰を抜かした音更さんを起こす。

 なんだったんだ、今のは……。


「最後怖かったでしょぉ」


 ゴール地点で、ミミちゃんがケラケラ笑う。


「棗くんの首から上が、なくなってたんだもん!」

「音更さんだって!」


 種明かしをすると、ゴール地点にいたスタッフが単に鏡を動かしただけだ。相手の顔を映らなくしたに過ぎない。シンプルだが、効果的な演出だった。


「最後は、マジで怖かったね」

「いやあ、これ考えた人はすごいな。人の心理を知り尽くしてる」


 凝ったモノを見せて脳を疲れさせておいて、最後に子供だましで攻めるとは。


 その後、俺たちはイートインでくつろぐ。屋台で買ってきた焼きそばでお昼にした。


「最後の棗くん、超ビビってたね!」

「あれは声上げるって!」


 音更さんがめちゃくちゃ楽しそうなのが、悔しい。


「正直さぁ、学校って楽しいね。面白い人って、ちゃんと学校にもいるんだね」


 音更さんの言葉は、どこか意味深である。


「そう、だな」


 どう言い返せばよかったのか、俺には答えが出せなかった。

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