レンチンで、ブヒる姫
文化祭当日、俺たちの教室はじゃがバターの製造場所と化していた。電子レンジを数個稼働させ、ひっきりなしにジャガイモを温める。
窓をカウンターにして販売している他に、イートインを設けていた。
「はい、おまちどう。進藤、こっちマヨ二個追加。あっちの子ども連れは味噌だれ三個ねっ!」
教室にしつらえたイートインは、戦場になっている。向こうがチンと鳴れば、俺と進藤で器を運んだ。もう何周したかわからない。
「やべえよ、棗。うちのクラスだけでヒューズが飛ぶんじゃね?」
「ありえるな。この売れ行きなら」
それもこれも、クラス委員の腕がいいためである。彼の用意したじゃがバター用のタレが、好評を博している。
「ささ、こちらの壺が味噌だれだ。こっちは辛子マヨ、たまりしょうゆもあるぞ。オススメは柚子コショウだ」
クラス委員長が、各種の壺に入った調味料を紹介する。しかも、ほぼ家で作ってきたという。
地味な料理に一手間加えて提供するとは、さすが料理部のエースだ。
お客さんも、じゃがバターよりタレが目当てらしい。タマゴせんべいやたこ焼きに塗って、食べ歩いていた。
「見事な手腕だな、委員長」
「そうでもないな!」
俺が絶賛すると、「自分はまだまだだ」と委員長は謙遜する。
「タイだとチーズを載せガスバーナーで炙るんだ。トローッとしてうまいぞ」
確かにうまそうだが、教室では無理だな。火を扱えないから。
また、この売り上げには、とある仕掛けをしていた。
俺たちが撮った映画に、このじゃがバターを登場させたのである。音更さんがフーフー言いながら、屋台のじゃがバターを食べるシーンを挿入した。
品物を運んでいる音更さんを見て、どれだけの人が「映画の子だ」と指さしたか。
これが見事にハマったのである。
映画の出来も相まって、我がクラスが全学年で最もはやく売り切れた。早くも、追加のジャガイモを仕入れているところである。
「沙和、棗くん。もう販売はいいわ。お疲れさま。あとは交代するから、他のクラスも見て回りなさいな」
副会長の加納さんから、交代するよう声が掛かった。
「わーい。ありがとー」
音更さんが、エプロンを外す。
「行きたいところがあったんだー。棗くん、ついてきて」
俺は音更さんに引かれて、一年の教室へ。
「お化け屋敷」と、看板には書かれている。
そこには、おかっぱに赤いワンピースを着た「花子さん」風のミミちゃんがいた。
「いらっしゃいませ。お化け屋敷へようこそ」
「ミミちゃん、めっちゃ似合ってる」
「あまりうれしくないですよ、沙和ちゃん先輩」
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