映画撮影で、ブヒる姫

「私が主役なの!?」


 突然映研から告げられて、音更さんが目を丸くする。

 交渉自体は、うまくいっていた。こちらが撮影に協力すると説明すると、映研も手が欲しかったらしい。

 ただ、問題は映研側にあった。


「ごめんなさい。役者がインフルエンザで、撮影ができなくなったのよ」


 映研の部室で手を合わせるのは、ウチのクラス副委員長だ。


彩月さつきちゃんがやりなよ。かわいいんだから」

「あたしはカメラを回す係なのよ」


 副委員長の加納かのう 彩月さつきさんは、映研の撮影係を務めるという。


「演劇部からは?」

「その演劇部から借りた子が、熱を出したのよ」

「他の女子は?」

「見栄えがするのは、音更さんだけで」


 加納さんが首を振る。


「彩月ちゃんもかわいいよ?」

「ありがとう。でも、あたしは裏方志望だから」

「私だって」

「音更さんを撮りたいって子は、多いのよ」


 ここまで請われては、音更さんも無碍むげにできない。


「台本とか、覚えられないんだけど?」

「大丈夫。サイレント映画だから」


 ひと夏の思い出を切り取って、そこにポエム調の字幕を添えた映画になるらしい。


「じゃあ、効果音とか、いらないじゃん」

「音が重要なの。それで、音更さんに協力してもらおうと」


 なのに、急遽出演が決まってしまったのだ。


「あと悪いんだけど、棗くんにも出てもらうから」


 まさか、音更さんと共演とは。


「そうなのか。何があった?」

「共演する男子にも、インフルがうつっちゃって……」


 なるほど。そういう関係同士が、病気になったと。


 代役を立ててもいいが、今から募集しても撮影が間に合うかわからないとのこと。


「台本見せて」


 やる気を見せたのか、音更さんが台本を読みあさる。


 俺も読ませてもらった。


「ふむふむ。つまり音更さんが幽霊の役で、俺は田舎にやってきた学生だと。それで、幽霊の少女とのふれあいを通して、自分を取り戻すわけだな?」

「そうよ。事故で死んでしまった彼女の分まで、生きようとするラストなの」 


 ネタは切ないが、うまくやれば前向きな話が作れそうだ。


「なおさら彩月ちゃんの方がよくない? 黒髪ロングで細くて。私だと幽霊っぽくならない」

「あたしが幽霊をやると、本格ホラーになっちゃうのよ。前向きな子が幽霊じゃないと」


 音更さんの方が、適役だと。


「欲しい音は、ポルターガイスト的なラップ音? 違うよね?」

「そうよ違うわ。それだとホラーになっちゃう。貝殻から聞こえる波の音や、砂を踏みしめる音などで、彼女がその場にいるんだって確認できる、存在感を示す音が欲しいわね」


 怖い音ではなく、切ない音を要求してきた。

 音更さんは、あくまでも少年にしか見えていない。


「難しいな」

「でも、やりがいはあるかもっ」

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