流しそうめんで、ブヒる姫
夏休みも、終盤を迎える。
俺たちは、図書館で読書感想文を書いていた。夏休みの宿題も、これを残せばあとは絵日記くらいである。
ミミちゃんはアニメ化されたラノベで。
進藤はタレントが書いた小説を。
オレはビジネス書である。
音更さんのチョイスが、不思議だった。
「フォーリー・アーティスト?」
なんと、彼女が選んだのは図鑑である。
「映画とかで効果音を作る仕事だよ」
そんな世界に興味を持っていたのか。
感想文を書く音更さんは、話しかけられるような状態ではない。
音更さんの音への関心は、もはや楽しむとかいう次元を超えていた。彼女は将来を見越して、音と接しているのかもしれない。
図書館の近所にあるデパートに入って、フードコートでお昼にした。
多聞先生から、「町内会で、流しそうめんをやるから」とメールが。
これに反応しない音更さんではない。さっそくデパートで浴衣を買うという。
「いえーい。揃えてみましたー」
音更さんもミミちゃんも、花火大会とは違うミニ浴衣スタイルだ。スカート状になっていて、裾にも襟にもフリルが付いている。
「気合いが入ってるなー。そうめんを食いに行くだけだってのに」
Tシャツ短パンという気合いゼロの進藤が、呆れた。オレも同じ格好なのだが。
「だって、夏ですよ。楽しみましょう」
「そうそう。おそうめんなんて食べ飽きていると思うけど、流しそうめんと普通のそうめんは別腹だよきっと」
女子二人はノリがいい。
実はオレも、流しそうめんは初めてだ。期待している。
「おーい。こっちだ」
竹を組み立てているスタッフの中に、多聞先生を見つけた。
「お手伝いしましょうか?」
「いや、さっき完成した。キミらは楽しんでいってくれ」
お椀とお箸を持たされ、つゆと薬味を入れる。
音更さんが、隣に立つようにオレを立たせた。
「これで棗くんが食べる音を、至近距離で聴けるね」
それが目当てだったのかー。
そうめんが、竹から流れてきた。
「お先にどうぞ、音更さん」
音更さんに、順番をゆずる。
「ありがと。いただきます」
ちゅるっと、音更さんがカワイイ音を出す。
「次食べるね」
「どうぞどうぞ」
「いただきます。ズウウウウッ」
豪快に、オレはそうめんをすすった。音更さんが言っていたこと、なんだかわかってくる。確かに、家で食べるそうめんとは雰囲気が違った。
薬味のネギも、シャクシャクと歯ごたえがある。
「やっぱ神! 真夏に舞い降りた天使! サイッコー」
この上なくハイテンションで、音更さんははしゃぎだす。
「神ってんなら、音更さんのほうがよっぽど女神で……って」
音更さんの目が、グルグルしていた。
「ななななんのことかな棗くん。冗談でもそんなこと言っちゃダメさぁ」
こうして俺たちの夏は、そうめんのような早さであっという間に流れていった。
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