ガナタイト
浅草氏(•×•)
ガナタイト
~宇宙に散った戦士たち~
ドォンという振動で戦闘に集中していた頭が呼び戻される。しかし、油断は禁物だ。今も、自分が操縦している小型宇宙船のすぐ横を大量のビームが飛び交っている。まぁ、ビームとはいえ、指向性エネルギー兵器であるため、色、というものはついていないし、また、光速で移動するため、仮に色があったとしても見える訳がない。
「さっきのはキブルの機体か…また仲間がやられた…」
宇宙の塵となった彼に思いをはせ、カナタは操縦桿を右に倒して機体を右へと移動させる。刹那、さっきまで機体があった場所の前方のデブリが木っ端微塵に砕け散る。
「危なかったな…」
カナタがこうして目に見えないビームを避けることが出来たのは、予測レーダー、というものの力だ。
ビーム砲は、発射前に、少しの揺れを起こす。それをレーダーが感知して操縦桿に少し、力をはたらかせ、操縦者が助かるようにする、というのが予測レーダーの大まかなメカニズムだ。カナタがこれに何度助けられたかなんて、数えられる訳がない。
そのとき、カナタの視界に何かが移った。敵の大型母艦だ。船首に何か飛び出ている。どんどん伸びてくるようだ。それが何か分からないままカナタは、Uの字になっている操縦桿の両端についているタッチパネルをタップし、ビームを発射する。すぐにその大型母艦の一部が砕け散る。母艦内部で誘爆を起こしたのか、今度は母艦全体が一瞬爆発を起こし、あとは母艦の残骸があたりに飛散した。あとはデブリとなるのみだ。
カナタのスマホが震える。
スマホのメッセージアプリを開くと、ライムからメッセージが来ている。
《今すぐ俺の部屋に来てくれないか?》
カナタは了解と返信し、敬礼している形の絵文字もくわえて送る。
カナタは、1人、ポット22第8区画5番地の一軒家に住んでおり、ライムは同じく一人暮らしでポット22、第8区画の19番地のマンションに住んでいる。カナタの家の斜め向かいだ。
スマホを持って、ライムの住んでいるマンションの6階にエレベーターで上がり、タッチパネル式のインターホンを鳴らす。程なくしてライムが出てきた。
「よう、相変わらず背が低いなw」
「いうなよ。僕だって気にしてるんだよ。」
そう、カナタは背が低い。154センチ。14歳でもこれは低い。対してライムは23歳で176センチ。低いと言われて当然だ。
時に、なぜカナタが14歳にして、兵士なのか、それは簡単、士官学校を飛び級して卒業したからだ。
「わざわざメッセージアプリで話さなかったのには、何か訳があるんだろ?」
「ああ、実はな…」
カナタには予想がついていた。このあとライムが何を言い出すか。何度もこのシチュエーションがあったからだ。お金を貸して欲しいとかいう、内容だろう。貸すつもりはないけ…
「お前が昨日潰した大型母艦だけど、あれ、新型の粒子レールガンが積んであったらしいぞ。噂になってる。」
「へあ?」
度重なる経験に基づいたカナタの予想は砕かれ、新型粒子レールガンを破壊したという事実が頭を一気に占領してしまった。
「何でそんなこと分かったんだ?」
一応確認しておく。
「軍が内密に兵士に伝えたんだ。お前、今日の朝礼でなかったろ、」
カナタは大型母艦を破壊した、という功績のお陰で、少し休暇をもらったのだ。
「まじかよ…てことは…?」
「たぶん給料が増えるだろうな。」
「よし!」
給料が上がる、と言われて喜ばない者はいないだろう。
「そこで、お願いしたいんだが…」
いやな予感がした。
「金貸してくれ…」
やはり、ライムはこういう人間なのだ。そう言うところがライムの憎めないポイントなのだ。
「うん、まあいいよ。給料上がることだし、そろそろボーナスでるし、」
「しゃッ!」
新型粒子レールガンを船ごと破壊したのだ。功績は多大だろう。階級上昇もするだろう。
侵略してくる敵国に対する抑止力にもなるだろう。
とりあえず、今日は帰ってゲームでもしよう、そう考えながら、カナタはライムにお金をどれだけ貸すか、という交渉をした。
交渉を終え、家に帰ると、午後2時だ。カナタはのびをし、シャワールームに入っていった。湯船につかり、体を癒やしながら考えにふける。
どれだけ収入が増えるだろうか、どのくらい階級が上がるだろうか、そんなことをぼんやりと考えて、5分ほどたってからシャワールームをでて、タオルで髪をタオルで拭きながらPCの電源を入れて、Bluetoothでテレビにつなぎ、ブライトスピリッツを開く。このゲームは、自分の軍を作って、何人かと共有し、ほかのプレーヤーの軍と戦う、というものだ。カナタは、この軍の突撃隊長をになっている。ライムは総指揮を任されている。ライムは指揮能力に長けていて、小型宇宙船の操縦には向かない。しかし、現実の軍ではそうはいかない。実績をあげなければならないのだ。実績、結果が全て、これがガナタイト軍の暗黙のルール。コネなどを取り締まる部署も存在するほどだ。
ブライトスピリッツのロードが始まったところで、スマホが震えていることに気づいた。開くと、メッセージアプリで宇宙軍総司令部からメッセージが届いていた。
《明日、総司令本部より、辞令が下る。朝9時にモニターを総司令本部につなぐこと。》
辞令、それは階級昇進を意味する言葉。やめさせる方はガナタイト軍では解雇辞令とよんでいる。カナタの心が喜びで満ちあふれていく。ちょうどロードが終わった。すぐさまチャットで他のプレーヤーに報告する。
《昇進が決まった!》
どんどんハートマークが集まってくる。
そうして、みんなと喜びを分かち合ったあと、ブライトスピリッツで武器生産、拠点攻撃などなど、ゲームを夜まで楽しんだカナタはファーストフード店のハンバーガーを食事として食べ、眠りについた。
翌日、朝6時。
カナタはむくりとベッドから起き上がり、歯を磨くと餅を焼いた。焼き方にもこだわりがあるようで、焼いたとき、餅がプクッと膨れ上がる直前に止めるのがカナタ流だ。カナタは餅が好きで、一年中食べている。従って、現在が正月、というわけではない。ポット、とは、コロニーのようなもので、今は地球でいう8月に当たるが、気候は年中春や秋、といった感じである。
餅を食べると、緑茶を入れて飲む。これは静岡という、日本の地域でとれたお茶だ。カナタには日本人の血が混ざっている。
緑茶を飲んだらシャワーを浴びて、軍服に着替える。準備だ。家から通信するとはいえ、総司令本部との通信である。軍服は必須だ。
スマホを見ると8時50分だ。そろそろ接続を始めなければと思いモニターを起動する。
接続準備が整った。あとは総司令本部からの通信を待つのみ。
カナタはスマホでニュースを見る。するとそこに載っていたのは、
《敵軍の新型粒子レールガン、破壊されるも、予備発見か》
「まだあったのか…」
直後、通信が始まった。
『やあ、カナタ少尉。』
相手はガナタイト宇宙軍総司令本部長、グラナダ•レイルだ。でっぷりと太っていているが、その顔には有無を言わせない何かがある。いかにも本部長と言った感じだ。
「は!グラナダ本部長!」
カナタは最敬礼の姿勢をとり、敬意を表す。
『今日は君にいい知らせを持ってきた。まあ、簡単に言えば昇格だ。大尉。』
「二階級特進…ありがたいことです。」
相手は顔に笑みを浮かべて、
『では読み上げる。カナタ•ムガル少尉に辞令を交付し、代わって大尉の階級を与える。』
「はっ!ありがたき幸せ!」
『よし、略式は終わりだ。ではまた、カナタ大尉。』
カナタが再び最敬礼をするとモニターからグラナダの姿が消える。気づくと額に少し汗をかいている。やはり本部長に合うとなると緊張するようだ。
「少し寝るか…」
軍服を脱ぎ、私服に着替えてからベッドに寝ころび、眠りにつく。
再び目を覚ますといつもの光景が広がっている。いつもと違うのは光だろうか…
「日光装置が壊れたか…?」
そこで思い直した。
「そうか、今夕方か…」
スマホを見て夕方と確認する。
メッセージが2件届いている。
1つ目はライムからだ。
《昇進おめでとう!二階級特進だって?》
《ああ、緊張したから略式が終わったあと寝てたよ》と返信し、2つめのメッセージを開く。
母からだ。カナタの母は日本人で静岡に暮らしている。カナタがいつも飲んでいるお茶は、母ヒカリ•ムガルが送ってくれるものだ。
《元気にしてるけ?体調に気をつけて暮らさないと軍で戦えないよ?》
母はいつも気遣いのメッセージを送ってくれるカナタの心強い味方だ。
《うん、いつも気遣いありがとう<(_ _)>》
と返信して、スマホを置く。そしてPCの電源を入れ、さっきのネットニュースを調べる。
《敵軍の新型粒子レールガン、予備見つかる》
“発見か”から“見つかる”になっている。
少々驚きながらも読み進めていく。
《昨日未明、宇宙軍の攻撃によって破壊された母艦。その中には新型粒子レールガンが搭載されていた模様で、かなり大きな戦果といえる。しかし、他艦にも新型粒子レールガンが搭載されている模様で、現在、工作員が調査を進めている。》
「むむ…量産化されちゃったってことか…」
腕を組み、少し考える。
「量産化された、ということはガナタイト宇宙軍の艦隊に損害を受けやすくなる、というより当たれば艦隊ごと吹っ飛んでしまう。困ったものだ。これがわが同盟国内で作られたものだったら即禁止兵器確定だ。しかし、そう言ったって自分に出来ることはない。軍が対策を考えてくれるといいが…」
そのとき、スマホがけたたましく鳴り出した。この音は、緊急召集の合図だ。急いでスマホを確認。メッセージアプリを開く。
《第6艦隊壊滅の知らせあり、直ちに基地に集合せよ。》
急いで服を着替えながら考える。
「壊滅なんてこれまでほとんどなかった。…例のレールガンか…ライムも呼ばれているはずだ。急がなきゃ。」
基地までそこまで距離はない。しかしできるだけ早く行かねばならない。カナタはエアボードを出し、発進させながら飛び乗る。
エアボードがものすごいスピードで夕日モードに切り替わった日光装置に照らされた道を進んでいった。
時を同じくして、基地。
「いそげ!準備出来た者から宇宙船に乗り込め!」
隊員、及び戦闘員たちがめまぐるしく基地内を走り回っている。「2番艦はあれか!」
ライムは自分の乗機である第2セルタリナ級艦に向かっていく。
「急がなきゃ、カナタはまだか…」
そこへカナタが到着する。
「やっときた!」
「すまん遅れた」
急いで2人で宇宙船に乗り込む
宇宙船内部をしばらく走ると司令室につく。
2人で声を揃える
「遅れて申し訳ありません!艦長!」
「よし、みんなそろった!いくぞ!」
ブリッジに集まった乗員たちが次々に敬礼する。
「セルタリナ級グライド、発艦します!」
ガクンと揺れて、機体が宇宙港から発進する。
「第6艦隊壊滅か…各員、気を引き締めていこう!」
艦長が活を入れる
少し進んだところでレーダーに複数の影が映る。
「レーダーが不明艦艇を複数補足!敵艦と思われます!」
「きたな!全艦主砲、副砲を敵艦にむけてうつぞ! 一斉射撃!」
機体が揺れて、敵艦が崩れていく。
「続けてブリッジを戦闘態勢に移行!小型宇宙船を発艦させろ!」
そのとき既にカナタとライムはブリッジで機体の準備を待っていた。
機体内部の予測レーダーをいじっていた整備員が作業を終えて顔をあげる。
「整備は終わりました。どうぞ。」
「ありがとう。死なないように頑張るよ。」
「ええ、健闘を祈ります」
丸っこいが、エイのような形の小型宇宙船に飛び乗り、機体を起動する。
ライムも同じように機体を起動させて発進準備を整えたようだ。
『いくか…』
『あぁ!死ぬんじゃないぜ!』
『それぐらい分かってるよ。』
これから戦いをする。戦闘をする前はいつも不安に駆られる。でもそれはみんな同じだし、死んでしまえば元も子もない。ここでは死ねない。死ぬわけにはいかない。
『グライド2番隊カナタムガル、でます!』
『同じくライムガルフ、でる!』
2機の小型宇宙船が同時にブリッジから射出される。
ものすごい速さで小型宇宙船が宇宙を駆けていく。やがて、小さな点のような敵戦艦を発見した。
『あれが第6艦隊を壊滅させた艦隊か…』
『粒子レールガンに気をつけろよ!』
『分かってるよ』
敵艦がどんどん大きく見えてきた。
『よし、当たれ!』
ライムの機体の銃口が震えて敵艦の横をかすってその部分が砕け散る。
『だめか、』
続けてカナタがビームを放つ
ライムがかすった機体の正面が大破した。内部で誘爆したようだ。その艦は動きを停止した。
『よし、』
『うらやましいぜ』
そのとき、撃沈した艦の両隣の機体から前方に向かって筒のようなものが伸びてきた。
『やばい!レールガンだ!よけるぞ!』
しかし間に合わなかった。振動すらせずに発射された高エネルギー弾はライムの機体を包み込んでいた。
『ライム!!』
応答なし。あまりにもあっけなかった。ライムと、ライムの機体はもじどうり宇宙の藻くずになったのだ。
『ライム!ライム!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
カナタは操縦桿を握りしめ、アクセルを踏んで最高速で敵艦隊に突撃していった。
「ライム、みんな、ありがとう。」
カナタの意識はそこで途切れた。
ガナタイト 浅草氏(•×•) @asakusasi2525
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ガナタイトの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます