第5話 クリスマス
今日はクリスマス。
昨日は沢山の事があった。
「今日はクリスマスだねっ。ふふふーん」
今右腕に抱き着きながら頬ずりをしているのが
ポニーテールが特徴だが、デートの時は髪を下ろし、制服姿からは想像も出来ない多彩で可愛らしい洋服。
デートを本当に楽しみにしてくれる彼女を愛おしく、大切したいと思う。
向日葵のような眩しい笑顔を向けてくるそんな陽菜を見ていると、沢山の元気がもらえる。
「ねえねえ~、今日はなに、しよっか?」
上目遣いでそんな質問をしてくるのはずるい。かわいい。
ピロンッ。
スマホの通知音が鳴った。
どうせ、
俄かには信じ難いが、連絡を入れて来たのは咲優だ。あの後で連絡をしてくるなんてどんな強靭な精神を持っているんだ。
「ねえ、今家に居るよね?ケーキ作ったから、持っていくねー」
と。まるで夢の中にいるような気持ちになってきた。
だが俺もしっかりと、
「用事があるから、今日は会えない」
断りの返信をした。
既読が付かない。生きた心地がしない。
ピーンポーン。
ま、まさかさっきの連絡って、嘘だろ。
ピーンポーン。
そ、そうだ、きっと配達員が来てるだけだ。
「ちょっと出てくるから何かして待っててくれ」
快く頷き、マグカップに淹れたカフェオレを啜りながら、笑みを浮かべて「早く帰って来てね~」と送り出してくれた。
階段を降りながら、どんどんと鼓動がバクバクと音を立て早くなる。
手に汗握る思いをしながら心の中で、「大丈夫、大丈夫」と唱えながら、玄関の取っ手へ指を掛ける。
「はーい、お待たせしました」と扉を開け、そこに立っていたのは――
「こんにちわー、ゆうくん。今年もケーキ作って来たから、一緒に食べてクリスマス過ごそー」
そこに立っていたのは、いつも通りの優しい微笑みを浮かべている
嫌な予感が見事に的中してしまった。どうして咲優が居るのか理解が出来ない。
しっかり断ったはず、しかもどうして俺が家に居るとわかったのだろうか……?
昨日の出来事で思い当たる節があった。そう、きっとあの時。
綺麗に並べて置いてある女性物の靴に目線を運び、何かを察した様子だ。
「お邪魔しまーす。ここで話しをしててもあれだし、ゆうくんの部屋に行こー」
「お、おい!ちょっと待てよ!」
俺の言葉を聞き入れず、咲優は間髪入れずに階段を登り始める。
慌ただしい声を聞いて、部屋の中から陽菜が「ゆうくーん、どうかしたのー?」と声が聞こえてくる。
追いついた頃には既に遅かった。
二人は顔を合わせていた。
「えっ」
心配して部屋から出てこようと立ち上がったところだったみたいだ。だが、扉の前に立っていたのは俺ではなく咲優だった。
陽菜は突然の出来事で、金縛りにあっているかのように身動き一つせずにいた。唇が小刻みに動いているのを見て察するに、何かを口に出したそうだが言葉にできないみたいだ。
――全員の時間が止まっているのかと錯覚するほど、この場が凍り付いた。
止まっていた時間を動かしたのは咲優の行動だった。
ガードが甘かったわけではない。が、完全に警戒心に欠けていたと思う。
横に立ってる咲優が俺の襟を掴み、姿勢が崩れ前かがみになった。
その隙を突かれ、唇を奪われた。
誰が、想像できただろう。昨日、しっかりと断った。
同時に口付けを迫られたが、これも拒んだ。
なのに、どうしてこうなっている?
束の間の口付けだったが、どんな言葉を並べるより強力な一撃であった。
咲優は潤んだ瞳で目線を俺に合わせ、吐息を漏らしつつ恥じらいの表情を浮かべながら「ファーストキス、しちゃった、ね」と口元を手で覆いながらそう言葉にした。
更に、深呼吸をしてから俺らの行為をまじまじと目の前で見せられ、状況が理解できずに思考回路がパンクし、硬直している陽菜に向かいこう言い放った。
「私、あなたに絶対負けないから。ゆうくんは私と結ばれるの」
陽菜は膝から崩れ落ち、体から空気がプシューっと抜けたように放心状態になっていたが、パッと意識を取り戻し、立ち上がって異論を唱え始める。
「あ、あなた、いきなり来て、なんてことしてるのよ!ゆうくんとキ、キ、キスなんてしちゃって!!!私だってまだなのに!!!」
「あれ?もしかして、恋人関係なのにまだキスもしてなかったのー?」
もちろん咲優は俺達がまだキスをしていないことを分かったいたのだろう。幼馴染ながら、良い性格をしている。
「は、はあ!?いい度胸してるじゃない。現彼女の私が負けるわけないじゃない。あなたが何をしたって、平気よ。ねえ?ゆうくんの"元"想い人さん?」
「は、はい???言ってくれるじゃない。あなたが負けたって、後から言いがかり付けてこないでね。これからは真向勝負だからね」
俺は二人の啖呵合戦をただ傍聴することしかできなかった。二人の視線がぶつかり合い、バチバチと火花が飛び散っているかのようだ。
こうして想定不可能な方向に、日常は非日常へと移り変わっていくのであった――
キミからもらったもの 椿紅 颯 @Tsubai_Hayato
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