第3話 沢山のありがとう。そして……

「私って小さい頃から臆病だったよね。いつも誰かの後ろに隠れてて、人とちゃんと話すなんて無理だった。いつも怯えて生活をしていた私の心の扉をキミはあっさりと開けちゃったんだよ?でもキミは私を後ろに居させてくれなかったよね。


出会った頃はこいつは鬼か悪魔だと思ってたよ。だって、小さな世界に閉じこもって頑張って生きてたのに、強引に引きずり出したんだもん。見たこと無い世界で不安が一杯で怖かったんだよ。


でもね、不思議と嫌じゃなかった……かな。いつも隣にキミが居てくれたから。


こんな私じゃキミに迷惑を掛けてるんじゃないかって何回も悩んだけど、暗い顔をしてると私を引っ張ってくれたよね。普通ならめんどくさいって見放すのが普通だよ。でもキミは見捨てなかった。


一人で不安な時はキミを思い浮かべると、不思議となんでも出来る気がした。一つ一つ頑張っていたら、自然と自分から人に話しかけれるようになってた。それでも落ち込んだり、立ち止まる事があったけど、その度にキミを思い出して頑張れた。


私が変われたのは全部キミのおかげだよ。出会えて本当に良かったと思ってる。


顔を見てると沢山元気が湧き出て、声を聞くと安心できて、前向きになれた。沢山話せた日にはもっと頑張ろうって思えたの」






「頑張ろうって気持ちを一杯くれてありがとう!本当に、本当に、今までありがとう!」






 出会ってから沢山の出来事があった気がする。

 最初は自分から話しかけることが出来るようになるなんて想像も出来なかった。こいつには俺が居ないとダメなんだって思っていた。

 だけど、いつの間にか咲優は変わっていた。

 感謝の気持ちを伝えてくれたけど変われたのは、きっと自分で努力し得られた成果だ。


「うん。これからは一人で大丈夫だな。頑張れよ」


 そう言葉を伝え、立ち去ろうとした時、突然何かに引っ張られ駆け出しそうになっていた足が止まる。


「ねえ待って。……まだ、まだ終わりじゃないよ」


 振り返ると、咲優が少し俯いて上着を掴んだまま立っていた。


「何してるんだよ。相手が来ちゃうだろ」



「――――まだわからないの?」


 表情が見えない彼女は、そう呟いた。




 空は薄暗い闇に染まり、ふわりふわりと音もなく雪は降り続いている、視界に入る建物に飾り付けられているイルミネーションに煌びやかな明かりが点いている。仕事終わりの会社員やこれからデートであろう人々が行き交い、親子がプレゼントやケーキを買いに来て居るのが目立ち始める。辺りはより一層クリスマスイブムードに包まれ始めている。



 発せられた言葉の意味を俺は理解できずに固まっていた。だが、咲優は気にせずに話を続けた。


「今日ゆうくんを呼んだのは、告白する踏ん切りがつかないから、元気付けてほしいだけだと思ってるでしょ?……それは、正解なんだけど、感謝の気持ちをしっかり伝えておきたかったんだよ」




「――それから、本当の気持ちを伝えるため」






「私は、勇気くんが好きです」


「大好きです」


「大、大、大好きですっ」




「っ!――」




「――私、変なこと言ってる、よね」


「聞いてくれ、咲優。俺、好きな人がいるんだ」


 うん、知ってる。私だもんね。











「俺、付き合ってる人が居る」

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