第2話 クリスマスイブ
月日は流れ、疎遠になっていた
その日は特に用事も無かったので、少し躊躇したが「用事は無いけど、どうかした?」と平然を装い返信をした。
「14時に駅前の噴水広場で待ち合わせで!」と続いて連絡が入った。
要件は伝えられなかったが、聞くに聞けない。だが、俺達は二人で出かけることになった。
俺は咲優との待ち合わせするときは、15分前に待つようにしている。
この時間に来たのは、彼女が10分前行動を徹底していることを知っているからだ。
ここは待ち合わせ場所としてよく使われている。
大きな目印になるだけではなく、周りを見渡せるため相手を見つけやすいからだろう。
「ゆうくん、お待たせ。待たせちゃった?」
後ろから覗き込むように、横に飛び出してきたのは待ち人だった。
想定通りに、集合時間の10分前に来たのだ。
「いや俺もさっき着たとこだよ」
「時間になってないけど、行こっか」
本日は特に何かする予定もなく、時間まで話をしたりぶらぶらするものだった。
休日や長期休暇の時は二人で出かけたりしていたことから、ここら辺のことは良く知っている。
だけど、あれ以来二人で出かける事はなくなり、会話する頻度もかなり減った。ましてや一緒に通学したり、下校する事はなくなっていた。
現に二人しかいないのに、何を話したら良いのかが全く分からないでいた。
二人が目を合わせる事はないまま、覚束ない会話をしながら歩いている。初々しいカップルのように、ぎこちない空気を漂わせつつ、クリスマスムードで賑わう街中へと歩き出した。今日は平日ということもあってか、行き交う人々はさほど多くない。
「明日はクリスマスだね~。どこかに出かけたりするの?」
「いいや。家かなー」
「ふ~ん、そうなんだ。……毎年クリスマスは、私がケーキを作って一緒に食べてるよねー」
「そうだったな」
買い物をするわけではないが、洋服のお店に入って「ねえ、ねえ!この服似合うと思うんだけど、どうかな?」と服の意見を聞かれたり、アクセサリーショップに寄って、「昔は誕生日プレゼントでこういうの買ってもらったよね」と昔話をしたり、立ち寄った飲食店では、二人の望むものを注文するゲームをし、注文した商品が互いの好物だった時はむず痒い感覚を覚えた。
外を歩き出すと、振り出しに戻ってしまった。話を繋ごうと好きになった人について聞いてみた。
「えっとね。その人は、すっごく頼りになる人かな。困ってる時は助けてくれたりして、これから先ずっと隣に居たいなって思える人なの」
頬を赤く染め、小恥ずかしそうに相手の話をする。
その表情を今まで見たことがなかった。
楽しそうに話しをている容姿は恋する乙女そのままの風情だった。
頷き、相槌を打つことしかできなかった。話を耳にする程、喪失感に苛まれる。
「それでね、笑顔で挨拶してくれて、その笑顔を見ると暗い気持ちもどこかに飛んでいっちゃうの」
胸の奥がぐっと締め付けられる。
「私、その人のおかげで変わろうって思えたの。誰かの後ろに居るのはもうやめようって。がんばろうって」
やはりそうだったのか。
最近の行動を見ればわかる。一歩踏み出し、新しい自分になろうとしている。
隠れていた咲優はもう居ない。知らぬ間に前へ進み始めてていたんだ。
辺りが薄暗くなり時間を確認しようとしたが、スマホの充電が切れていた。間が悪い。
「さやごめん、今何時?」
「ん?まだ時間まで余裕あるよ。けど、暗くなってきちゃうね」
「そっか、まだ大丈夫か」
「あ!喉渇いちゃった、飲み物お願いしちゃってもいいかな」
「わかった。買ってくるから待っててくれ」
日が高い時とは比較にならない程行き交う人々が増えて来た。
近い自販機には、冷め切った体を温めたい人々が行列を成している。
少し離れた自販機は並んでは居たものの、比較的人数は少なくすぐに飲み物を購入できそうだ。
時間に余裕があると言っても、この光景を見られては誤解が生じてしまう。
ごーん、ごーん。
ごーん、ごーん。
一時間毎に鳴る鐘の音が、駅の方向から聞こえてくる。それが合図になったかのように、羽がふわりふわりと舞い落ちるように、だが傘は要らないぐらいの雪が降り始めた。
辺りはすっかり暗くなり、街中の明かりが暗い夜道を照らし出している。約束の時間になる頃だろう。時間を確認できないのが苛立たしい。早急に渡し、帰路へ着くことにしよう。
「ごめん!そろそろ時間だよな!ほら、これ、俺帰るから!」
「待って!」
「何だよ。もう行くよ」
駆け出そうとする俺のコートを引っ掴んでいた。急ぎ離脱しないといけないのに、どういうつもりだ。
「おい、何してんだよ。相手が来ちゃうだろ」
そう言い放ちながら、振り返る。
――そこには普段は見せない真っすぐな眼差しをこちらに向けている咲優がいた。
「えっとね、聞いてほしい話があるの」
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