第49話、何でおまえらは台湾のほうから武力侵攻しないと思い込んでいるわけ?

『九条の結界』に閉じ込められて、軍備を完全に放棄しているはずの、『ブロッケン皇国』に『宣戦布告』をされたかと思えば、


 それと呼応するかのように、突然休戦ラインを超えて、『北半島』のダークエルフ軍に侵攻されて、


 更には南半島国内においても、王国一等市民のライトエルフや、その他奴隷階級の下位種族どもが、各地で反乱を起こして、


 挙げ句の果てには北の大国ユーラシア連邦においても内乱が起こり、新たに独立した『極東自治解放区』までが攻め込んできて、


 しかも何と自分の補佐役であった、外務大臣にまで裏切られてしまった、この国の女王陛下は、




 ──当然のごとく、失意のどん底にいるかと思われたのだが、




「……ふっ」


「……ふふっ」


「……ふふふふっ」


「……ふふふふふふふふっ」


「……ふふふふふふふふふふふふふふふふっ」




「──ふははははははははははははははははははははははははっ!!!」




 突如として、広大なる最高会議室に響き渡る、高貴なる女性の哄笑の渦。


 さては逆境のあまり狂ったのかとドン引きする、自治解放区のシロクマ獣人族たちをよそに、一人怪訝そうにまゆをひそめる外務大臣殿。


「……あなたとは長いつき合いなのでわかるのですが、この時点でそのように笑われると言うことは、やけくそになったわけでは無く、まだまだ余裕が有るってことですか?」


「そりゃそうであろう? 確かに我がライトエルフ王国は、そなたら不届き者どもに完全に占拠されてしまったが、まさかこれで終わりと言うことも有るまい?」


「ほお?」




「──そうだ、この東エイジア大陸の覇者である、『中つ国』こと神聖帝国『ёシェーカーёワルド』が黙ってはいるものか! 何よりも『階級制』を国是とする覇権国家であるからには、同盟国であり、東エイジア最高種族である我々ライトエルフ族が、ダークエルフやシロクマ風情の支配下に下ることなぞ、見過ごすわけにはいかず、必ず救援の軍隊を差し向けてくだされよう!」




「ふむ、いかな大国中つ国であろうとも、我々を相手取ってまともに戦える兵力を、早々に準備できるとでも?」


「外務大臣であるそなたが知らぬはずがあるまい? 元々中つ国は、現在独立状態にあるかつての領地『タイヴァーン』の再統治を目論み、すでに侵攻準備段階に入っておるのだ。そのために動員された軍隊を、我が国に差し向ければ十分であろう」


「なるほどなるほど、『タイヴァーン侵攻』ですか? それなら確かに、中つ国としても全力で事に当たるだろうし、さぞかし大勢の軍隊が一箇所に集められ、即応体制がとられていることでしょうなあ」


「わかっているでは無いか? 実はすでに中つ国神聖皇帝陛下に対しては、救援要請をしておるのだ。そなたらの命運は、すでに尽きていたのじゃ」




「……残念ですね、そちらこそそこまでわかっているのなら、どうして『逆のパターン』に気づかれないのでしょうか?」




「は? 『逆のパターン』、だと?」




 唐突に突きつけられた、あまりに謎めくセリフに、完全に戸惑ってしまう女王陛下。


 まさに、その刹那であった。


「──お話し中、失礼します!」


 息せき切って飛び込んでくる、伝令の兵士。


「何事じゃ⁉ まさに今、停戦交渉の真っ最中なのだぞ!」




「侵攻開始です! 陛下、『タイヴァーン武力侵攻』が、ついに始まりました!」




「へ?………………………………いやいや、ちょっと待て⁉ このタイミングで中つ国が、タイヴァーンに攻め込んだと言うことは、我々の救援はしてくれないと言うことか⁉」







「違います! 中つ国では無く、タイヴァーンのほうが、武力侵攻を開始したのです!」







 その瞬間、まるで時間が止まったかのように、すべてが静止した。


 もはや思考をすべて放棄せんとする誘惑に必死に抗いつつ、やっとのことで言葉を発する女王陛下。


「……何だと、タイヴァーンのほうから、武力行使を開始しただと?」


「は、はいっ!」


「──そんな馬鹿な⁉ タイヴァーンに、中つ国を侵攻するほどの兵力が、有ったとでも言うのか⁉」


「現在すでに、タイヴァーンに面する大陸東岸地域はほとんど壊滅状態となり、神聖帝都『北の京』さえも、火の海となっておるとのことです!」


「──完全に、『ワンサイドゲーム』じゃんか⁉ 一体何が起こっているのだ⁉ タイヴァーン側は、どんな『秘密兵器』を使ったと言うのだ!」




「──『魔法少女』です! 箒に跨がった無数の魔法少女がタイヴァーン全土から飛び立って、中つ国の各要衝へと自爆特攻して、体内の莫大な魔導力を暴走させて、都市そのものを破壊し尽くしているのです!」




「魔法少女だと⁉ 何でブロッケン皇国内に閉じ込められているはずの魔法少女が、タイヴァーンに無数にいて、しかもそれが中つ国に特攻したりしているのだ⁉」




 もはや何が何やらわけがわからず、ただわめき立てるばかりの女王様。




 それに対して、今や侮蔑の笑みを隠そうともせず、冷ややかな声音で告げる外務大臣。




「そのように、『ブロッケン皇国は宣戦布告したりしない』とか、『タイヴァーンのほうから武力侵攻するはずが無い』とか、『魔法少女がブロッケン以外にいるはずが無い』とか言った、『思い込み』こそが、一国を統べるリーダーとしての致命的な欠点であり、あんたの敗因そのものなんだよ。──どうだ、少しは自分と言うものを、省みることができたか?」




 もはや以前の部下とは思えない面罵の数々に、本来なら怒りのあまりに怒鳴り返していたところであろうが、


 ──辛うじてこの時は、『疑問』のほうがまさったのであった。




「いやいやいや、タイヴァーンのほうから中つ国を武力侵攻するなんて、予想すること自体が不可能でしょう⁉ 兵力を始めとする国力に圧倒的に差が有るんだし、たとえ奇襲によって少々の戦果が有ったところで、すぐに物量で押し返されてしまうだけだし、そもそも奇襲をしようと思わないのでは⁉ しかもそれを、魔法少女による自爆特攻で成し遂げるなんて、どうしてタイヴァーンに、魔法少女がいるのよ⁉ 魔女や魔法少女はブロッケン皇国のみの存在であり、『九条の結界』に隔てられて、『ヴァルプルギスの夜』以外は島外に出られなかったんじゃ無かったの⁉」




「ですから、仮にも為政者なら、下手な『先入観』なぞ捨てるべきなのですよ。──何せこの世には、『例外』なんてごまんと有るのですからね」




「……例外、ですって?」




「そもそも、タイヴァーンはブロッケン領であった時も有るのだから、魔女や魔法少女が存在していても、おかしくは無いでしょう? もちろん彼女らには『九条の結界』は何ら影響しませんから、中つ国でもどこでも、攻撃し放題だと言うわけですよ」




「ブロッケン皇国以外にも、魔女や魔法少女が存在しているですってえ⁉ そんな話聞いたこと無いし、もしそうなら、他の部族による文字通りの『魔女狩り』が行われているはずでしょう⁉」




「そりゃあもちろん、彼女たちだって馬鹿じゃ無いんだから、魔女や魔法少女であることを隠して生きてきたに決まっているでしょう? 黙っていれば、外見はほぼ人間と変わりないんだし、特徴的な髪や瞳の色だって、どうにでもごまかしようが有りますからね」




「だったらどうしてこのタイミングで、魔法少女であることを明かして、中つ国に攻め込んだりするのよ⁉ しかも、いかにもブロッケン皇国と示し合わせるようにして、自分の命さえも省みずに、自爆特攻までして。親世代はともかく、子供世代の魔法少女たちは、それ程ブロッケンに帰属意識なんて無いでしょうが?」




「……やれやれ、何度同じことを言えばいいのです? 今回この東エイジア大陸で戦争を引き起こしたのは、正確にはブロッケンの魔女たちでは無く、我々『魔女教教徒』──すなわち、『大日本帝国の転生者』だと」




「──それって、まさか⁉」




「そうです、タイヴァーンの魔法少女たちも、『大日本帝国軍人』としての前世に目覚めたからこそ、中つ国侵攻に参戦したのです。──しかも、事実上『精神体タマシイ』のみの存在と言える転生者なら、何度肉体を失おうとも、また別の魔法少女の身に転生すればいいのだから、無限に自爆特攻を繰り返せると言った次第なのですよ★」




「──‼」

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