第48話、『北方領土の日』ですので、極東ロシアを丸ごとぶんどってみました⁉

「……世界同時多発テロだって? ははは、まさか。そんなこと、できるはずがあるものか!」




 何と、自分たちの王国を攻め滅ぼした相手が、単にブロッケン皇国の魔女たちだというわけでは無く、この世界の至る所に潜んでいる、別の世界の帝国の軍人たちの『転生者』であることを聞かされた女王陛下は、堪りかねて声を荒げた。




 しかしそれに対して、相変わらず飄々とした態度を貫くばかりの、自称『大日本帝国からの転生者』である青年。


「おや、何かご不審な点でも?」


「むしろ、不審な点ばかりだよ⁉」


「ほう、具体的には?」




「確かに国や地域や種族を問わず、誰にでも転生できる貴様らは、潜入工作や洗脳工作に極地テロから同時多発テロ等々と、軍隊レベルの破壊工作が可能であるのはもちろん、人々の中に紛れ込んでいる貴様たちを見つけ出すことも、突発的な暴挙を未然に防ぐことも、ほとんど不可能であろう。──しかし、そんなことなぞ『本物の戦争』に比べれば、文字通りに『テロリスト』レベルの『小細工』に過ぎぬ。今回はたまたま我が王国が実質上、北半島のダークエルフ人民共和国と継戦状態だったから、その介入を呼び込んで敗北を喫してしまい、このような屈辱的な占領状態になっているが、もし貴様ら転生者の後ろ盾が、ブロッケン皇国だけだったとしたら、どうだ? 国力や戦闘員の数や個々の魔女の強大なる魔力については、確かに我が南半島ライトエルフ王国に攻め込み、勝利を掴み取るに十分であろう。──しかし、現実はどうだ? ブロッケンの魔女たちは、年に一度の『ヴァルプルギスの夜』にしか島外に出ることができず、今回の我が国への侵略行為にも、魔女はただの一人も参加していないではないか? これで本当に、『戦争』と言えるのか? いいか、、戦争と言うものは、ただ極地的な戦闘において勝てばいいわけでは無いのだ。目標とする地域を完全に支配し、すべての敵戦力を無力化し、更に戦後に至っては、敵人民をすべて統治しなければならないのだ。貴様ら『転生者』が、世界各地で散発的に、『不意討ち』まがいなことをしでかしたところで、相手の人民に混乱をもたらし、一時的な勝利を得られるかもしれんが、ブロッケン皇国本国の助力を得られない状況下であれば、敵国内のわずかな占領地においても、支配を継続することなぞ不可能であろう!」




 ──おおっ!


 まさに、言い得て妙である。


 さすがは女王陛下、仮にも一国の指導者。


 ようやくここに来て、本領発揮か?




 ──と、思われたのだが、




「……ほんと、アホですか、あなたは? 一体どこに、目玉めんたまを付けておられるのでしょうねえ?」




 それは何と、自他共に認める『裏切り者』とはいえ、ほんの数時間前までは、彼女にとっての忠実なる部下であった、目の前の青年の唇から発せられていた。




「へ?………………いやいやいやいや、何その罵詈雑言⁉ 私、何か間違ったことを言った?」


「間違ったことと言うか、その前に是非とも、『間違い探し』をしてもらいたいんですけど! 今この部屋にいる面々に対して、何か疑問を抱かれないでしょうか?」


「……今ここにいる面々て、私たち以外だと、ダークエルフ人民解放軍の指揮官と、その関係者と思われる熊型獣人族たちだけではないか? それのどこに問題が有るのだ?」


 そうなのである。


 さっきからずっと沈黙を守っていたので、その存在感は皆無であったが、


 この『降伏条件交渉の場』には、主要交戦国の代表として当然のごとく、南半島ライトエルフ王国とブロッケン皇国の代表者である、女王陛下と外務大臣以外にも、北半島ダークエルフ人民共和国軍の総指揮官と、その侵攻に携わっていた熊型獣人族(ただしただ今人型ヴァージョンに変身中)が、勢揃いしていたのだ。


「はあ? あなた今、熊型獣人族の方々を、『北』の関係者とおっしゃいました?」


「そ、そうだろう? 現に『北』の今回の侵攻において、この者たちが『戦車』として従軍していたではないか? それが証拠に、彼らの横っ腹には、『Tー14』という文字が記されていて………………はあっ⁉ 『Tー14』だとお? 北半島軍が使用している、ユーラシア連邦製の戦車は、現在最新型の『Tー34』では無かったのか⁉ 『Tー14』なんて、聞いたことは無いぞ?」


 何をそんなに驚いたのか、突然目をむき大声を発する女王様。




 ──そもそも『熊型獣人族』とは、何かと言うと、




 実は、かつての『異世界からの転生者』の血を引く、特殊な獣人族で、ただ単に人間か熊かの二形態だけでは無く、何と『戦車』にも変化メタモルフォーゼできたのだ。


 そのため、その身体の脇腹の部分には、『転生者』の末裔の証しとして、黒々と大きく『Tー34』の文字が刻み込まれていた。


 ……しかし、この2月始めの冬の真っ最中に、何もまとわずさらけ出された、筋骨隆々とした上半身に記されていたのは、『Tー14』の文字であったのだ。


「……え、何でこの人たち、この季節なのに裸なの? もしかして、露出狂か筋肉崇拝者だったりするわけ?」


「──ツッコミどころが、違うだろうが⁉ それに熊型獣人族が、常に上半身裸なのは、民族的風習なのだから、ヘイト発言は慎んでもらおう!」


「貴様、女王に対して、やけにぞんざいな口調になってきたな⁉」


「……そりゃあ、いい加減あきれ果てますよ、その馬鹿さ加減にね。──『Tー34』以外の刻印を刻みつけている熊型獣人族を見て、その重大なる意味を、何もわかっちゃいないんですからね」


「──ッ、まさか⁉」




「そうです、彼らは『末裔』なんかでは無く、最近新たにこの世界に転生してきた、『最新型戦車に変化メタモルフォーゼする能力を有する』熊型獣人族のニューフェースであり、『北』の関係者なんかでは無く、れっきとしたユーラシア連邦共和国の高級軍人の皆様なのです!」




「なっ⁉ 今回の交戦に、ユーラシア軍まで参戦していたと言うのか⁉」




「いえいえ、彼らが戦ったのはあくまでも、ユーラシア連邦領での『内戦』であり、晴れて独立を勝ち取った旧『極東ユーラシア自治区政府』は、ブロッケン皇国と正式に同盟を結び、このたび『大東亜共栄圏』に加盟なされる運びとなったので、この場には『ブロッケン皇国の名代』である私の後ろ盾として、列席なされていると言った次第なのです」




「……え、それってつまり、極東ユーラシアが、そっくりそのまま、ブロッケンの物になったというわけなのか⁉」




「──そうです、『あちらの世界』においては『北方領土の日』に当たる、まさに本日2月7日において、我々大日本帝国軍の転生者は、北方四島なんてケチくさいことを言わずに、この世界においては旧ソビエト連邦の極東部に当たる広大な領地を、丸ごといただいたというわけなのですよ」

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