第45話、休戦中のザコ国家のくせに、外国にケンカを売る愚かな国。

「──一番の問題はですね、あなたのようなトップを始めとして、この南半島ライトエルフ王国の為政者や軍人等の統率者が、『危機リスク管理』というものを、完全におざなりにしていたことなのです」




「……危機リスク管理、ですって?」


 まるで大企業の経営者に対する『マネジメント講座』みたいなことを急に言い出されて、当然のようにして面食らう女王様。


 それに対して、もはや侮蔑の表情を隠そうとせず言上する、一応は『臣下』と言うことになっている青年。




「『ヴァルプルギスの夜』以外には国外に出られなかったり、『平和憲法』を制定していたりするからって、自分の国に攻めてこないものと舐め腐って、相手の国民感情を『国辱レベル』で逆なでし続けるなんて、為政者だろうが軍人だろうが一般市民だろうが、『万が一の不測の事態の可能性』を考えることのできない、単なる『能無し』ってことですよ。たとえ国民全体が、『九条の結界』や『平和憲法』の呪縛のために、外国を攻撃できないとしても、傭兵やテロリストを秘密裏に雇って、敵国の都市部における同時多発テロ等を起こさせることで、戦争レベルの大打撃を与えることくらい十分可能ではありませんか? ──しかも『痴呆症』並みに救いようが無いのが、自分たちが北半島のダークエルフ人民共和国と『休戦状態』──実質上は、『戦争状態』にあると言う事実を、すっかり忘れていることなのです。…………ほんと、アホか? そんな危なっかしい状態にあるくせに、第三国に喧嘩をふっかけるような真似ばかりして。その第三国の堪忍袋の緒が切れて、『宣戦布告』をしてきた暁には、『北』が喜び勇んで38度線を越えて攻め込んでくるのは、子供でも思いつく『当然の仕儀』ではありませんか? しかも『北』においては、『同じエルフとして同胞を保護しに来た』と、もっともらしい理由をこじつけることによって、全世界に対して『侵略行為』を正当化することすら十分可能なのであり、我が国の無様な『危機リスク管理上の失態』によるブロッケン皇国の『宣戦布告』に対しては、『好機到来』と言わんばかりに見逃すはずはありませんよ。──まあ、一言で要約すると、すべては我が国の、『自業自得』に過ぎないってことですな」




 自分たちの王国が、実は非常に危ういバランスの上に成り立っていたことを、今更になって外交の最高責任者から聞かされて、自分の愚かさを白日の下にさらされてしまう、南半島の女性指導者。


 ──まったくもって、『正論』であった。


 しかし権力者にとって、『正論で責められる』ことほど、我慢ならぬことは無く、半島エルフならではの不治の病、『ファイアーシック』を拗らせて逆ギレする、女王様。




「ふざけるんじゃないわよ! あなたこそ外務大臣という国家の要職を担いながら、今回のブロッケン皇国の『宣戦布告』と呼応しての、国内同時多発テロを指揮して、しかも『北』の侵攻を自ら招き入れて、全主要都市の完全掌握を手助けして、挙げ句の果てには、何とブロッケン皇国の『全権大使』として、私の目の前にぬけぬけと現れて、『無条件降伏』を迫るとは、一体どういう了見よ⁉ この『裏切り者』めが!」




 普段の余裕綽々な物腰から想像できないほどに、かんばせどころか全身を怒りのあまり真っ赤に染め上げながら、もはや恥も外聞も無くわめき立てる、この国で最も高貴なる女性。


 しかし、目の前のいかにも『心外そうな』顔をした、他称『裏切り者』の青年が返してきたのは、あまりにも予想外の言葉であった。




「──え? 別に裏切ってなんかいませんよ。だって私はそもそも自分のことを、この王国の人間などとは思っていなかったし」




「……は?」




 王国の屋台骨を支える大貴族の現当主の口から飛び出してきた、あまりにも驚愕の言葉に、完全に機能停止してしまい、馬鹿面を晒す美女王陛下。


 しかし、そのあまりに聞き捨てならない内容に、すぐに再起動を果たして、勢いよく食ってかかっていく。


「あ、あなたまさか、ダークエルフの血を引いていたとか? それとも最近王国内に密かに蔓延しているという、『魔女教』の信者とか⁉」


『魔女教』とは読んで字のごとし、九条列島に閉じ込められている、世界にとっての災厄の具現たる魔女を崇拝している、背徳極まる邪教集団のことDEATH!……………では無くて、




 何と、そのいかにも邪悪そうな『字面』と相反して、この数多くの種族が混在している剣と魔法のファンタジーワールドにおいて、全種族の平等の実現を目指している、非常に人道主義極まる宗教組織であったのだ!




 ──とはいえ、その手段として、『武力行使も厭わない』と言うのが、いかにも物騒ではあったが。


 そう、まさしく今回、超人種差別国家である南半島ライトエルフ王国に対して、ブロッケン皇国が宣戦布告をするとともに、何ら躊躇無く同時多発テロを仕掛けたように。




「ええ、私は敬虔なる『魔女教教徒』なのです、それも、、その瞬間からね」




「ほれ、見ろ! やはり貴様は、『北』やブロッケン皇国の血筋か、一族揃って洗脳でもかけられていて…………………いや、ちょっと待て。今何と言った? 『生まれたその瞬間』では無く、『生まれ変わったその瞬間から』だと?」




 それはあくまでも、ほんのチョッピリの、『誤差』に過ぎなかった。


 しかしそれはとても捨て置くことなぞできない、『大いなる違い』であったのだ。



 ──そして、目の前の青年の唇が、いかにも不気味な形に、笑み歪んでいく。




「そうです、私は『北』でも皇国でも無く、こことはにおける、『大日本帝国』の軍人のであり、この世界において、すべての種族が皆平等に手を携えて繁栄していける、真の理想郷たる『大東亜共栄圏』を打ち立てることこそを、使命としているのです!」

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