第26話、202×年、GINZA〜『令和事変』その22

「──とはいえ、確かに大臣の御懸念も、ごもっともと言えるのですけどね」




「もしも、私の自説が正しくて、小説に描いた異世界転生が、すべて現実のものとなるとしたら、数多の異世界が、現代日本からの転生者たちで、溢れ返ってしまいますからねえ」




「異世界転生というイベントに限定しようと、たった一度起こっただけでも、十分に奇異なのに、それがなぜか判で押したように、『現代日本』という、特定の未知の世界──つまりは『異世界』から転生してくるなんて、あまりにも不自然でしょう」


「いかな異世界人とはいえ、『なろう系』の小説の登場人物みたいに、『ただの馬鹿』ではないのだから、当然その不自然さに、何らかの『作意』を感じ取るに違いありません」




「──例えば、『ひょっとして、現代日本という世界においては、異世界転生を扱った小説が大流行していて、猫も杓子も異世界転生系の作品を作成しているからこそ、それが現実のものとなってしまって、我々の世界のへと、無数の現代日本人たちが、異世界転生してきているのではないのか?』と」




「……え? 『いくら何でも、それは無いだろう?』ですって?」


「それに、『論理が飛躍し過ぎているし』、『そもそも、何で異世界にいる人物が、現代日本にいる素人作家の手によって、異世界転生系のWeb小説が作成されていることに、気づいたりできるんだよ』ですか? ……ふうむ」




「やれやれ、だから『なろう系』は、駄目だと言われるのですよ。あなたたちは、異世界人というものを、舐めすぎなのです」




「現代日本人──特に、『なろう系』Web小説関係者の皆さんは、中世ヨーロッパ程度の文化レベルの異世界を、とにかくsageることによって、最先端の科学技術を誇る現代日本(からの転生者)側を、相対的にageようとしますが、忘れてもらっちゃ困ります、小説に書いたことが現実のものとなって、異世界が本当に存在していることが確定して、現代日本から転生者がわんさか現れるなんていう、摩訶不思議な現象なんて、むしろ剣と魔法のファンタジーワールドである異世界の人たちのほうが、より慣れ親しんでいて、理解度が深いということを!」




「例えばですねえ、異世界においては、人間族か魔族か魔物かを問わずに、歴史の開闢以来長きにわたって、『魔法』なるものに慣れ親しんできたとしましょう、そうするとですねえ、いつまでたっても『神様が与えてくださった奇跡的なもの』として、単に『あって当然のもの』と見なして使用し続けたりせずに、そこに何らかの『論理付け』を行おうとするはずなんですよ。それこそこの世界の人間が、『物が上から下へと落ちるなんて、単なる当たり前のこと』などと決めつけられていた、各種の物理現象を、一つ一つ論理付けていって、この世から『不思議現象』をただの一つすらも無くしてしまったようにね。──それと同様に、『異世界転生なんて、異世界を司っている女神様によって引き起こされる、超不思議現象なのであって、そこに論理や法則なんてありゃしない』なんて思っているのは、『なろう系』の主人公(&作者自身)だけなのであって、それに対して異世界側の人々のほうは、それこそテンプレの『なろう系』のWeb小説のように、のべつ幕無しに異世界転生が行われるようになるにつれて、『この現代日本人による異世界転生って、どんな仕組みで行われているんだろう?』と疑問を感じ始めて、何らかの形で論理付けようと模索していくはずなんですよ」




「それでは、どうして現代日本人による小説こそが異世界転生の原因であることを、現に異世界にいる人々が気づくことができたかについて、具体的かつ詳細に述べれば、まさしく今回国防大臣に申し上げたことはもちろん、先日の厚生労働省において、『令和事変』に関する公式報告書として述べたことに尽きるのですよ」


「現代物理学の中核をなす量子論に則れば、物質的にも精神的にも、けして複数の世界間の転移や転生なんてあり得ません。──しかしその一方で、ユング心理学に則れば、何らかの切っ掛けでありとあらゆる世界の人々の『記憶や知識』が集まってくるとされている、いわゆる『集合的無意識』とアクセスすることによって、他の世界の人物の『記憶や知識』を己の脳みそに刷り込まれて、それを『前世の記憶』と勘違いすることで、実質上の異世界転生を実現することが可能となります」




「──つまり、他人を自由自在に集合的無意識にアクセスさせることを為し得れば、異世界転生を実現できるわけなのです」




「この理論に立てば、ついさっき申しました、『異世界転生系のWeb小説を作成することは、あくまでも最初から存在していた異世界を、本当に存在しているものとして改めて認識させて、当然その世界の中で(小説の内容ストーリーと同様に)、現代日本からの転生も行われることになる』わけですが、異世界転生が行われるということは、その世界の住人を集合的無意識にアクセスさせて、(当該小説の主人公キャラに相当する)現代日本人の『記憶と知識』を、脳みそに刷り込まれることになるからして、途中経過を省略して端的に申せば、現代日本のWeb作家が小説を書くことで、本物の異世界人を集合的無意識にアクセスさせて、擬似的な転生状態にさせることによって、各種の『なろう系』作品に記されているような、様々な異世界転生イベントを実現しているようなものなのですよ」




「そう、蜘蛛やスライムやドラゴンに、狡猾なる現代日本人の精神が宿ってしまうことによって、異世界人たちの生活や領土を脅かすようになったのも、地位の低い人間に、最先端の科学的知識が宿ってしまうことによって、『NAISEI』とか『読書の一般化』とか『兵器や戦術の現代化』とか『居酒屋の出店』等々といった、本来じっくりと時間をかけて行うべきパラダイムシフトを、考え無しに急激に行ったために、異世界そのものに取り返しの付かない悪影響を与えることになったのも、すべては現代日本のテンプレ『なろう系』作家たちによる、異世界転生系作品ののべつ幕無しの量産こそが元凶なのです」




「……まさか、現代日本の皆様は、こんな一方的な暴虐的行為の数々を、異世界に行っておいて、異世界人がまったく気づかないとでも思ったのですか?」


「何度も言うようですが、『剣と魔法』を売り物にしている、ファンタジーワールドなんですよ? それこそデフォルトで、『小説に記述することで、他人の精神を操作することのできる』とかが存在するとは、思わないんですか?」


「つまり、異世界においては、魔法的的な特殊な力を使って、人を集合的無意識にアクセスさせることによって、実質上の異世界転生を、実現することだってできるわけなのです」


「だったら、最近やけに増加した、『現代日本』という名の異世界からの転生の原因が、まさにその現代日本において、異世界転生を扱った小説がワンパターン的に大量生産されているからだと気づいても、何らおかしくはないでしょう」


「となると、当然異世界人側は、現代日本に『復讐』しようと思いますよね?」


「だって、現代日本人たちの、軽はずみなWeb上の創作行為によって、大量のモンスターが暴動を起こしたり、政治経済システムが大ダメージを被ったりしているのですからね」


「復讐の手段はもちろん、『小説に書くことによって、他人の精神を操作する魔法』に決まっています」




「これぞまさに、他者を集合的無意識に強制的にアクセスさせて、別の世界の人物の『記憶と知識』を刷り込むことで、事実上の異世界転生を実現するわけですから、物理法則等の現実性リアリティを微塵も損なうことなく、世界の境界線をまたいで実際に、現代日本のぎんにおいて、自衛隊員等を突然異世界人化させて、武装蜂起を起こさせたりもできるわけなのですよ」




「──そこで、国防大臣殿、『取引』と参りましょう」


「もはや隠す必要も無いですが、すでに私は異世界人として、『転生化』を果たしております」


「先にも述べたように、異世界に関する知識が豊富な者ほど、異世界転生をしがちなのですからね」




「つまり、あなたの目の前には現在、紛う方なき『異世界人』がいるわけですよ」




「──おっと、だからって、人を呼ぶのはよしてくださいよ? 言ったでしょう、『取引』をしたいと」


「私は別に、今回この世界で武装蜂起を起こした、『神聖帝国ёシェーカーёワルド』の人間なんかではなく、全異世界横断的宗教組織、『聖レーン転生教団』の現代日本派遣員にて、司教のルイスと申す者です、以降お見知りおきを」


「ところで大臣、今回の転生化──特に初期段階における、一般民衆の、『ゴブリン』や『オーク』等の、『知能は低いが戦闘力の高いモンスター化』については、どう思われました?」




「これって、敵国に対する、軍事行動やテロ活動に、大いに利用できるとは思いませんか?」




「例えば、今回の銀座のように、敵国の人口密集地において、突然ゴブリンやオークとして転生化させて、周囲の人々に対して無差別殺戮を行わせたりしてね」


「しかもこれって、基本的に何の証拠も残さないところが、ミソでしてね」


「更には、今回『神聖帝国ёシェーカーёワルド』側が行ったように、すでに戦争状態になっている段階において、会戦中の敵軍の一部に、味方の兵士の精神を多数インストールすれば、大規模な反乱軍の出来上がりってわけですよ」


「どうです、異世界側の高位の魔術師たちが、我々転生教団のアドバイスに従って編み出した、この『逆転生の秘術』って、いろいろと使い出があるでしょう?」


「……いえねえ、異世界転生の専門家としては、おそらくこれからこの地球においては、他の世界からの『逆転生』という名の侵略が多発していき、まさに群雄割拠の戦国時代になるかと思われるんですよ?」


「──えっ、嫌だなあ。『それもすべて、おまえら教団の、差し金だろう』ですって? 証拠も無いのに、変な言いがかりは、やめてくださいよお(棒)」


「まあ、『逆転生の秘術』が無いと、どんどんと不利になっていくのは、間違いないでしょうがね♫」




「さあ、どうなさいます? 総理等の首脳陣とも、ようく話し合って、早めにご返答くださいな。──早くしないと、大陸や半島の国々のほうに、話を持って行ってしまいますよ?」

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