第23話、202×年、GINZA〜『令和事変』その19
「──それで、そのゲンダイニッポンのジエイカンであられる、ミヤマエさんという方は、ギンザでの武装蜂起を、ちゃんとやる気になられたのですか?」
その時、この世界において最も神聖にして高貴なる女性は、玉座にしどけなく玉体を預けながら、おっとりとそう言った。
十代半ばの華奢な白磁の肢体を、ゲンダイニッポンと呼ばれる
──
ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の有り様を、すべて『過去のもの』として視ることができるという、生きた(全知ならぬ)『
そんな文字通りの『生き神様』と、全異世界横断的宗教組織『聖レーン転生教団』の総本山の最深部、人呼んで『女神の座』にて、現在
「……さすがは、巫女姫様、すでにそこまで、ゲンダイニッポンの情勢を、把握なされておられるとは」
「まあ、そんなに畏まらないでください、私とあなたの仲ではありませんか? もっとこう、例えば血の繋がった『姉妹』であるかのように、ざっくばらんな対応で、構いませんのよ?」
──そんなこと、できるか⁉
確かに私たちは同様に、聖レーン転生教団の御本尊であられる『なろうの女神』様の、全異世界における
……とはいえ、その尊き方から訊かれたことには、ちゃんと答えを返さねばなるまい。
「ミヤマエ氏においては、ジエイタイ反乱部隊のリーダーとしての役目をきちんと果たしてもらわねば困りますので、今一度『悪夢』を見せて、ゲンダイニッポンからの転生者に対する憎悪を募らせましたので、心配ないかと存じます」
「ああ、確か彼には、『ゲンダイニッポンからの転生者の意識に乗っ取られたゴブリンが率いるモンスターの大群によって、生まれ故郷の村を襲われて親兄弟を皆殺しにされた異世界人』の意識が、転生
まるで、実際に見てきたかのように、身振り手振りで宣う、生き神様。
教団上層部が、信仰の象徴である彼女を、この『女神の座』から連れ出すことなぞ、絶対にあり得ないのに。
「……巫女姫様、あなたにとっては『夢』のようなものに過ぎないでしょうが、俗世の者たちにとってはあくまでも『現実』でありますので、そのようなおっしゃりようは、少々不謹慎なのでは? つい先日も、ゲンダイニッポンからの転生者の意識を宿した大蜘蛛に率いられたモンスターの大群の侵攻によって、村が一つ壊滅したばかりですし」
「あ、あら、ごめんなさい! 何かいかにも非現実的な設定の物語を、のべつ幕無しに夢として見せられているものだから、それこそゲンダイニッポンの『うぇぶ小説』でも見ている気になってしまって。──そうそう、蜘蛛のモンスター……ええと、確か『タラ子』さんでしたっけ? あの子の暴走の際には、被害を最小限に抑えていただいて、ご足労をおかけしました」
「あ、いえ、それもこれも巫女姫様が、事件を事前に予言してくだされた、お陰ですので」
……『タラ子』って、名前までわかっているのかよ?
ゲンダイニッポン人が転生しているとはいえ、蜘蛛がしゃべるわけがないから、この人が見ている夢って、それこそ『うぇぶ小説』みたいに、『地の文』的なパートでもあるんじゃないだろうな?
「──そういえば、時間の前後関係を問わず、すべての世界の出来事を夢としてご覧になっている巫女姫様だったら、ゲンダイニッポンのギンザにおける武装蜂起が成功するかどうかも、ある意味『未来視』的に把握なされているのではありませんか?」
そんな私の至極当然な疑問の言葉に対して、いかにもあきれ果てたかのようにして、深々と溜息をつかれる生き神様。
「私と同じ『なろうの女神』様の使徒であられながら、何を今更なことを。お忘れになっては困ります、ゲンダイニッポンの量子論に則れば、『未来というものには無限の可能性があり得る』のですよ?」
……そういえば、そうでした。
「よって、ゲンダイニッポンのジエイタイが異世界転生や転移と関わるという、いかにも非常識かつ突飛な出来事についても、今回のようにジエイカンに異世界人の魂が転生してきて乗っ取って武装蜂起をやらせるといったパターンはもちろん、もっと直接的に、異世界の軍隊が実際にギンザに攻め込むといった、物理法則を完全に無視したとんでもないパターンすらもあり得るのであって、侵攻の成否の行方も様々な
……はあ~、『ジエイタイ×異世界転生』のストーリーラインだけでも、いろいろなパターンがあるんだなあ。
それを夢の中で好きなだけ視るができるなんて、まさしくうぇぶ小説そのものじゃん。
そのように完全に感服してしまう私であったが、それを見た
「……まったく、あなただって、それがわかっていたからこそ、ゲンダイニッポンの一般市民やケイシチョウのキドウタイインの方々はともかくとして、ジエイタイの皆様に限っては、当日のギンザでいきなり転生化するのでは無く、あらかじめ『前世の記憶』に目覚めていたという風に、
──っ。
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