第21話、202×年、GINZA〜『令和事変』その17

 ──思い出せ。




 おまえは本当は、現代日本の、自衛官なんかじゃ、無い。




『来たるべき日』に備えて、異世界から送り込まれた、工作員なのだ。




 決行の時は、近い。




 ……ゆめゆめ、我ら異世界人が、現代日本からの転生者に受けた屈辱を、忘れるでは無いぞ。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──というわけで、決行日は、きたる7月11日正午と決まったぞ!」




 ………………………………は?




「おお、ちょうど『なろう』サイト恒例の、『夏のホラー』の開始日ではないですか!」


「我々、自衛隊『異世界転生系Web小説愛好会』の、晴れの門出にふさわしいですな!」


「テンプレホラー小説しか書けない、時代遅れの素人作家どもに、『本物の恐怖ホラー』というものを、教えしてやりましょうぞ!」


「「「おおー!!!」」」




 一応私的な集まりということで、場所は国防省でも自衛隊駐屯地でもなく、某ホテル内の秘匿性セキュリティが万全な会議室であり、年齢や階級もバラバラな参加者たちも、制服姿の者なぞ一人もいないとはいえ、とても我が国の防衛を担っている、唯一の公的組織の高官とは思えない怪気炎ぶりに、末席の若輩者とはいえ、とても黙っていることなぞできなかった。


「──ちょっ、一佐! 『決行日』──つまりは、我々が『異世界帝国先遣派遣軍』として、武装蜂起することが決定したって、本気ですか⁉」


「……ど、どうした、みやまえ一尉、いきなり大声を上げたりして、びっくりしたではないか?」


 びっくりしたのは、むしろこっちだよ⁉


「本気も何も、君だってここ最近、『あの夢』を見ているんだろ?」


「見てますよ、しっかりと、毎晩のように、『異世界からの工作員としての、本分を忘れるな』って、繰り返し言い聞かせ続けている内容のやつを、もううんざりするほどにね!」


「だったら、何が疑問なんだね?」


「いや、夢はあくまでも、夢でしかないでしょうが? 確かに我々は元から、国防省や自衛隊において、それぞれ様々な地位や任務に就いていながらも、たまたま異世界系のWeb小説マニアという共通点があったために、同好会的な繋がりを持っていたところ、そのうち何と、メンバーの全員が、まったく同様の異世界人としての『前世の夢』を見るようになったことは、非常に運命的だと思いますが、だからといって、単なる夢ごときのために現職の自衛隊員が、軽々しく武装蜂起なんて起こしちゃ駄目じゃないですか⁉」




「「「何が、軽々しいかっ!!!」」」




 ──うおっ⁉


 私の至極当然の指摘に対して、血相を変えて口々に反駁する、お歴々。




「──君は忘れたのかね、あの屈辱を!」


「新人騎士の頃から修行に明け暮れていたというのに、ポッと出のチート転生者なんぞに、近衛騎士の座を奪われてしまったことを!」


「宰相としてそれなりに国家に貢献していたのに、転生者の成り上がり者による『NAISEI』によって、地位も名誉も奪われてしまい、能無しの烙印を押されて追放されたことを!」


「癇癪持ちの武闘派主君に仕えながら、何とか功績を重ねて信頼を得て、ついに念願叶って側近に取り立てられようとしていたところ、猿にそっくりなジャパニーズチート転生足軽野郎に、小賢しくも戦国シミュレーションゲームの知識を巧みに利用することによって、出世街道を邪魔されたあげくの果てに、天下を盗られてしまったことを!」


「貧民の出身ながらも、身売り同然の商人の家での丁稚奉公を懸命にこなし、独立して小さいながらも自分の店を持ち、それを数十年かけて大規模なグループへと育て上げて、ついには大陸中に販路を獲得して、世界の商業界に覇を唱えんとしたまさにその時、チート転生者による『現代日本の商品SUGEEE!』が引き起こした大ブームのために、あっさりと栄光の座から追われてしまったことを!」


「大陸最強の軍事力を誇り、群雄割拠する戦乱の世にあって、勝ち戦に次ぐ勝ち戦を続けていたところ、完全に見下していた某弱小国がミリオタの転生者の指導によって、現代日本由来の超兵器で完全武装していたのも知らず、ちょっかいをかけたところ大敗を喫し、それからケチが付いて連敗に連敗を重ねて、ついには国そのものが滅び去ってしまったことを!」


「凶暴であるが知能レベルが極度に低く、恐れぬに足らぬと見くびっていた、コボルトやゴブリン等の弱小モンスターどもが、それぞれのリーダーに現代日本人が転生することよって、いっぱしの軍隊並みの統率を実現するとともに、異世界マニアの現代日本人ならではの狡猾な策略を巡らせていって、多数の村や町を壊滅させられたあげくの果てに、ついには国そのものを乗っ取られてしまったことを!」




 ──以上あたかも、Web小説におけるテンプレ異世界転生作品モノの展示会そのものであったが、何とこれはすべて我々がかつて暮らしていた、ある一つの異世界で実際に行われたことなのであって、私自身も直接見聞きしたり、伝聞で知っていたりするものばかりであった。




 かくのごとき仕儀により、かつての我々の世界における国々のほとんどは、現代日本からの転生者によって滅ぼされるか、あるいは完全に乗っ取られるか──といった運命をたどってしまい、それに対抗するために、生き残った生粋の異世界人たちは、聖レーン転生教団と名乗る、一大新興宗教団体の助力の下に、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』という、新たな国家を築き上げたのであった。




 ……まあ、そうは言っても、すべては、『そんな夢を見ただけ』、の話に過ぎないんだけどね。

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