第18話、202×年、GINZA〜『令和事変』その14

「……もし、この現実世界を、あくまでも偶然の一致とはいえ、そっくりそのまま描いた小説が存在していたとしたら──それこそ、あえてメタ的言えば、まさしく『ヴァルプルギスの旭光』ということになるのだが、その作者である881374が、実は『異世界人』だと?」




「何その、いきなりのカミングアウト⁉」


「……いや、カミングアウトと言うよりも、まさしく『中二病的電波発言』そのものじゃないのか?」


「一体何がやりたいんだ、この作者は……」


「とにかくもうこれって、ホラー小説でも何でもねえよ!」


 あまりと言えばあまりの『暴言』に、戸惑いを隠せない、我が国の誇る首脳陣であったが、当の発言者である、この会議の司会者兼解説役のマッドサイエンティスト風白衣男は、むしろその反応を楽しむように言ってのける。




「おやおや皆さん、これはまた異なことを。確かにこの世界は我々にとっては唯一絶対の現実世界ですが、たとえ偶然の一致とはいえ、この世界を小説として作成している人物が、どうして彼にとっては、この世界の中にいると思ったのです? それってとんち話や禅問答において良く例に取り上げられる、『世界を夢見ている存在がいたとして、そいつは一体どこで眠っているんだ? そいつも何らかの世界の中にいるとしたら、そいつは自分で自分自身を夢見ているわけなのか?』というやつと同様に、もしも881374なるWeb作家が、この現実世界の中にいるとしたら、彼(彼女?)は自分で自分自身を、小説の登場人物として創造していることになってしまうものの、そんな根源的な矛盾なぞあり得るはずは無く、彼(彼女?)はこことは異なる世界──文字通りの『異世界』に、存在していることになるのです」




「「「──おおっ、まさにその通りじゃん、すげえ納得!」」」


 解説役の蘊蓄大好きマッドサイエンティストの、理路整然とした説明に、納得しきりのお歴々は、今度は一転して、次々に賛同の声を上げていく。


「そうか、ここで言う世界とは、『別の世界』という意味だったのか⁉」


「異世界と言うと無条件で、『剣と魔法のファンタジーワールド』だと思い込むのは、すでに『なろう系』に毒されきった、悪しき考え方ですよね」


「それに確かに、たとえ偶然の一致とはいえ、作者が自分の作品とそっくりそのままの世界の中にいるなんて、どう考えてもおかしいよな」


「特に今回の場合のように、ぎんで自衛隊同士が武力衝突してしまう作品を、事前に書いていたとしたら、それはもう『予言書』そのものでしょう」


「──そうなると、もし仮にあくまでも現実のものであるこの世界を、小説として作成している者がいたとすると、それは何よりも『偶然によるもの』であるはずであり、しかも『この世界とは別の世界にいる』ということになるわけか」


「その『別の世界』というのも、いわゆる『なろう系的ファンタジー異世界』に限らず、むしろ多世界解釈量子論的な『別の可能性の世界』であるところの、『この世界に似たり寄ったりのパラレルワールド』でもあり得るというわけですな」


 そのように一応の結論を出すことで、どうにか騒ぎが静まった大会議場であったが、そこで新たに燃料をくべて『炎上』を再発しようとするところが、確信犯的『煽り司会者』の悪質極まる手口であった。




「ええ、基本的には、その認識で正しいと思いますよ? ──ただし、今回の件に関してのみは、もしもこの現実世界にとっての『作者』とも呼び得る者が存在しているとすれば、その者はむしろ、『なろう系』のWeb小説に登場してくるようなファンタジー的異世界にいて、この世界の存在を自覚的に認識していながら、今回の騒動を盛り込んだ作品を作成したと思われるのです」




「「「──はあああああああああああああ⁉」」」




「何その、これまでの前提を一気に覆す、ちゃぶ台返しは⁉」


「普通『世界の作者』と言っても、本人はあくまでも無自覚に小説を書いているだけなのであり、ただ単にそれについて量子論や確率論に基づいて考察を加えれば、その小説が別の世界の現実的有り様を描いていることが、偶然にあり得るかも知れないという、レベルの話にすぎないんだろうが?」


「もし仮にそのことを自覚していたとしたら、それはつまり、『自覚的に世界を創っている』ことになって、もはや小説家なんかじゃなく、『神様』そのものになってしまうのではないか⁉」


「しかもそんな神様みたいな存在が、Web小説に出てくるような、ファンタジーワールドにいるだと⁉」


「本当にそうなら、もはやそこには、『現実性リアリティ』なんて一切無いよ! まさしくこれぞ典型的テンプレな、『なろう系』の小説に過ぎないよ!」


 またまた手のひらを返すようにして、非難囂々となる首脳陣であったが、もちろんそのくらいで動揺することなぞ微塵もない、面の皮が厚いことで定評のある司会者殿であった。




「皆さんてば、お忘れになっては困りますよ? 今回の騒動を起こした、憎き『異世界人』どもが、あれほど何度も口にしていたではありませんか? 『我々は「逆転生の秘術」を用いて、この世界に来た』と」




「「「あ」」」




「──そうなのです、今回異世界人たちは、本来現実的には偶然でしかあり得ないはずの『異世界転生』を、我々現代日本人に対する復讐心のみを原動力にして、まさしく禁忌の秘術とも呼び得る、『自覚的な異世界転生』を、実現したのですよ」

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