第17話、202×年、GINZA〜『令和事変』その13

「……証拠が、無いだと?」


「そ、そういえば、確かにそうだな!」


「我々読者は、常に『主人公視点』で小説を読んでいるから、タイムトラベルも異世界転生も、当然起こり得るべきイベントと思い込まされているけど、常識的に考えれば、そんな非現実的なことが、あり得るわけが無いんだ!」


「つまりそれが、『過去の世界の人間や異世界人の視点』でこそ──すなわち、『虚構メタフィクションの存在の視点』でこそ、考えろってことか……」




「──言わば我々自身も、たとえほぼ100%、現在パソコンやスマホのディスプレイ越しに読者の皆様がご覧になっている、Web小説の登場人物に過ぎなかったとしても、自分自身ではあくまでも、現実の存在であると──ひいては、この世界そのものも現実の世界だと、見なすべきというわけなのだな」




「……考えてみればこれって、かのデカルトの『我思う、ゆえに我あり』そのものであって、基本中の基本の考え方に過ぎないよな」


「結局私たちは、余計なことを考えすぎて、思索の迷路にはまっていたってわけか」




 このように、ようやくお偉方に理解が行き届いたたのを見て取って、いよいよ『とどめ』の蘊蓄パートへと突入する、この最高首脳会議の司会兼解説役の白衣男。




「そうなのですよ、テンプレ極まるWeb小説の登場人物たちときたら、過去へのタイムトラベルや異世界転生を、『戦国転生』や『ゲーム転生』なんかとはき違えて、歴史学や戦国シミュレーションゲームや乙女ゲーム等の知識に基づけば、何でも自分の思い通りになるものと思い込み、更には現代日本の最先端の科学技術や神様からもらったチートスキル等との合わせ技によって、まさしく『主人公面』してイキり倒していますが、実はそんなことは絶対に不可能なのです。なぜなら何度も何度も申しておりますように、たとえ自分のことを『現代日本人』と思い込んでいる(可哀想な妄想癖の)主人公であっても、一度過去の世界や異世界に赴けば、その瞬間にそここそが自分のにとっての唯一の現実世界となってしまうのであり、そして現実世界であったとしたら、量子論なぞを持ち出すまでも無く、小学生の幼子でも知っている通りに、『未来には無限の可能性があり得る』ことになるので、歴史学やゲームの知識通りに推移することなぞ断じてあり得ず、予測不可能なことばかり起こっていくことになり、現代日本人(w)としての記憶や知識なぞ、屁のつっぱりにもならないのです。──ていうか、本当にその世界が、歴史シミュレーションゲームや乙女ゲームの世界であったとすれば、主人公だってゲームのキャラクター──すなわち、単なるデジタルデータとなってしまわなければおかしく、そこには『小説の主人公』としての自由な意志なぞあり得ず、単なる『ゲームのキャラクター』として、最初から定められたシナリオ通りに演じていくのみであって、もしも『のぶなが』や『悪役令嬢』のように、『破滅の未来』が約束されたキャラであれば、これまでのテンプレWeb小説みたいに、現代人の浅知恵なんかによって回避することなぞできず、当然のように破滅の運命を演じていくのみなのですよ。──とにかく、Web作家の皆様には何よりも、『主人公を特別扱いすること』こそを、おやめになっていただきたいものです。ほら、むやみやたらと『主人公ageage』イベントばかり展開させておいて、それをハーレムメンバーの美少女たちが『マンセーよいしょ』し倒す作品って、せっかく長年の夢が叶ってアニメ化したところで、アンチが湧いてくるのみで、いいこと一つ無いではありませんか?」




「「「──いやだから、どうして君は、そんな『危険球的発言』ばかりして、むやみやたらと各方面に、敵を作ろうとするんだよ⁉」」」




 大会議室中に響き渡る、渾身のツッコミ。


 確かに、彼の知らずの暴言癖は、もはやいかなるホラー小説であろうと、けして太刀打ちできないであろう。


 そのように、いまだ八月頭の時点でありながら、今回の『夏のホラー2019』における、(悪い意味で)最も恐ろしい作品が、決定しようとしていた、




 ──まさに、その刹那であった。




「……いや、ちょっと、待てよ」


「そうだ、諸君、結論を出すのは、まだ早いぞ」


「確かにこの世界が現実であるのは間違い無かろうが、だったらこの世界を小説として作成しているという、881374なるWeb作家の存在する世界のほうは、どうなんだ?」


「どんな世界でも、その者がいる世界こそが、現実世界ということは、881374がいる世界も現実世界ということになるが、こっちの世界も当然現実世界ということになると、『唯一の現実世界』が、ことになって、矛盾してしまうぞ⁉」


「──おい君、そこら辺のところは、一体どうなっているのかね⁉」


 至極当然な疑問に思い当たり、再び騒ぎ始めるお歴々。


 それに対して、もはやデフォルトと言っていいまでに、落ち着き払った表情で、飄々と答えを返す、白衣の蘊蓄スキー。


「おお、いいところに気がつかれましたね、さすがは我が国の首脳陣! そうです、そうなのです、世界の現実性とは、けして客観的なものではなく、あくまでも主観的──すなわち、『相対的』なものでしかないのです!」


「「「へ? 世界の現実性が、相対的だって?」」」




「まさしくこれ以上に、今回の騒動の特殊性を説明するに、ふさわしい言葉は無いでしょう。──というか、今から明らかにする『驚愕の事実』によってこそ、今回の事件のすべてを、真に論理的に説明することが可能となるのです!」




「「「……驚愕の、事実だと?」」」




「この場に直接お集まりの皆様のみならず、現在ディスプレイ越しに『ヴァルプルギスの旭光』をご覧の読者の皆様、そして何よりも、創作サイト『小説家になろう』の運営様、あなたたちは一体いつから、をなされていました? 本作の作者である881374が、現代日本人であるなんて。──そう、実は彼(彼女)こそは、この我々の現実世界にとっては、純然たる意味における、『異世界人』だったのです」

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