第11話、202×年、GINZA〜『令和事変』その7
「……『
「ええ、今回の、
凄惨極まる大騒擾が、中央区そのものを地図上から消去させるといった、世界中で物議をかもした非人道的な手段によって、強引に解決させられてから、およそ一週間後。
厚生労働省の大会議室にて、揃いも揃った
「び、病気って……」
「君は、あのような大規模なテロが起こった原因が、何らかの疾患によるものだと言うつもりなのか?」
「そんな、馬鹿な!」
「……いや、待ちたまえ、諸君」
「そうだ、まずは、詳しい説明をしてもらおうではないか」
「
あまりに思いがけない、事件の原因についての『調査結果』に、一斉に疑問を呈するお歴々であったが、当の発言者のほうは、相変わらずひょうひょうとした笑みをたたえたままで、あっさりと言い放つ。
「読んで字のごとしですよ、今回の騒動のように、普通に暮らしていた人たちが、突然己自身のことを、『実は自分はこの世に
「「「──なっ⁉」」」
いかにも予想外の言葉に、もはや堪えきれず、口々に騒ぎ立て始めるお偉方たち。
「前世の記憶とか、異世界からの転生者とか、一体何を言い出しているのかね⁉」
「それってもしかして、中二病とか邪気眼とかと、呼ばれるやつじゃないのか?」
「──おい、待てっ、それってつまり、単に『妄想癖』だと言うことでは⁉」
「ま、まさか君、あの大規模な同時多発テロを起こした者たち全員が、単なる『妄想癖』だと、言い出すんじゃないだろうな?」
「ええ、そうですけど、それが何か?」
「「「『何か』、じゃ、なーい!!!」」」
「ほう、『妄想』では無いとしたら、何だというのですか?」
「「「うっ⁉」」」
あくまでも世間一般的な常識に基づいて、抗議の声を上げたつもりの首脳陣であったが、それに対して同じく『ごもっとも』な言葉を返されて、途端にトーンダウンてしまう。
「そ、それはそのう、やはりアレだ、政治信条とか、宗教的理由とかじゃないのかね?」
「すでに警察等司法機関や病院等医療機関に収容されている、破壊活動の参加者たちは、一般人どころか、所属を同じくする、自衛隊員や警察官に至るまで、極一部の例外を除いて、何らかの政治団体や宗教組織の類いとは、まったく関連性が見られなかったことについては、すでに捜査陣の綿密な調査で判明しているのでは?」
「だったら、あくまでも偶然によるものとして、社会に不満を持つ者たちが何らかの原因で、まさにその不満を当日の同じ時刻に爆発させてしまい、それが広範囲に伝播していき、元々同じような不満を抱えていた者たちが感化されていって、あれほどの大規模な騒動へと発展したとか?」
「……いや、そんなこと、いくら何でも、あり得ないのでしょう? 百万歩譲って、一般人がいわゆる『大衆心理』的に、いかにも示し合わせたようにして暴動を起こしたというのなら、まだ理解できますが、鎮圧に出動してきた自衛官や警察官までもが、影響を受けたりするわけがないでしょうが?」
「うぐっ! そ、そりゃ、そうだけど、常識的に原因を探ろうとしたら、それくらいしか考えられんぞ? まさか君は、彼ら自身が言っていたように、本当に『異世界転生』とやらが実行されたとか、言うつもりじゃないだろうな⁉」
「ええ、言うつもりですけど? ──だからこそ、彼らは全員、単なる妄想癖であるわけなんですよ」
「えっ、妄想癖だからこそ、本物の『異世界転生者』であり得るって、何だそりゃ?」
「『異世界転生』なんてものを、実際に実現しようとしたら、『妄想』以外には、あり得ないんですよ。『質量保存の法則』等物理学的に考えれば、肉体丸ごとの異世界転移があり得ないのは当然として、魂が世界の境界線を越えていく異世界転生のほうも、常識的に考えればあり得ないでしょう。──だとしたら、あくまでも本人がそれこそ妄想癖的に、『私は異世界人の生まれ変わりなのだ!』と言い張るパターンくらいしか無いんじゃないですか? ──なぜなら、ほぼ100%単なる妄想に違いないとはいえ、実際に異世界転生が行われていることもまた、けして否定はできないのですからね」
「「「──‼」」」
「……妄想癖であるからこそ、本物の異世界転生であることを、否定できないだと?」
「た、確かに、人の内面について、肯定できる証拠はもちろん、否定できる確たる材料なぞ、けしてありはしないしな!」
「そうか、異世界転生者って、みんながみんな、単なる妄想癖だったのか!」
「──いや、待て待て待て! そんなに簡単に、結論づけては駄目だろうが⁉」
「これって、ある意味、『異世界転生という概念』に対して、『答え』を確定したようなものじゃないか⁉」
「『りゅう○うのおしごと!』で言えば、『将棋を終わらせた』ようなもので、このままでは、異世界系Web小説そのものが、『終焉』を迎えてしまうぞ⁉」
「「「あ」」」
「おやおや、よくぞ気がつきましたね、それこそが今回の話の『キモ』だったのですよ」
「……何だと?」
「テーマが『ホラー』だからって、普通に普通の『ホラー小説』を書いただけでは、あまりにも能が無いではありませんか? やはりWeb小説家ともなれば、チャレンジ精神旺盛でなくてはね♡」
「いや、何を言い出してんの、君い⁉」
「つまり、『異世界転生なぞ、実のところは、ただの妄想でしかない』という、今回の
「「「──ちょっと、いくら何でも、それはマズいだろ⁉」」」
「ほう、何か反論でも、あると言うのですか?」
「あるよ、いっぱいあるよ!」
「もしなかったとしても、無理やりひねり出すよ!」
「確かにWeb作家にとっては、この上なき恐怖かも知れないが、そんなホラー小説が、あって堪るか!」
「いや、そもそも、『単なる妄想』でしかないということ自体、おかしいではないか⁉」
「そうとも、何でただの妄想癖でありながら、あれほどの大人数の者が、『神聖帝国ёシェーカーёワルド』に所属しているなどと言い張ることができるように、意思の統一が図られているのだ⁉」
「おお、さすがにそこに気づかれましたか、感心感心」
「何い!」
「君、我々のことを、馬鹿にしているのかね⁉」
「いい加減にしろ!」
「これ以上の無礼は、許さんぞ!」
「……ああ、失礼、そんなつもりは無かったんですが、少々こちらの言葉が足りなかったようですね」
「言葉が、足りなかっただと?」
そしてその研究者はここに来て、驚天動地の台詞をぶちかました。
「確かに単なる妄想癖に過ぎないとは申しましたが、本物の異世界転生であるということは、その『前世の記憶』自体も、彼らが言う『神聖帝国ёシェーカーёワルド』が実在していることも、れっきとした『真実』であることに相違は無いのです」
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