第9話、202×年、GINZA〜『令和事変』その5

【西暦202×年、とうきょう都中ちゅうおう区、セント=ローリング(通称『センロリ』)国際病院】




『──すべての医師、看護婦、その他医療スタッフ及び、事務方の皆さんに、ご連絡いたします。ただ今中央区ぎんにて、非常に大規模な暴動が発生して、かなり多数の死傷者が出た模様です。これに付随して、東京都衛生局並びに厚生労働省より、中央区の全病院に負傷者の受け入れの要請あり。直ちに各員とも、搬入準備に取りかかってください』




 突然の院内一斉放送に、医務課、看護科、医事課、その他のスタッフ待機ルームは、時ならぬ喧噪に包み込まれた。




「──銀座で、暴動だと?」


「テロだって、噂があるぞ!」


「……何この、現場からの、ツイ○ターの画像⁉」


「暴動? 嘘つけ!」


「まるで、『戦争』そのものじゃないか⁉」


「何で、同じ自衛隊同士で、闘っているのよ⁉」


「……これ、負傷者の受け入れとかの話ではなく、俺たちこそ、避難しなければならないんじゃないか?」


「そうだよな、銀座からだったら下手したら、ここにも砲弾とかミサイルとかが、届くかも知れないからな!」




「「「よしみんな、仕事なんかほっぽり出して、私たちも避難しましょう!」」」




「「「──静まれ! 静まりなさああああい!」」」




「あれ? 院長に看護部長に事務局長さん」


「我が院の最高首脳が全員揃って、どうしたのですか?」


「──どうしたも、こうしたも、あるか!」


「何を、医療従事者が、仕事を──特に、現在も院内の外来や病棟におられる患者さんたちを、ほっぽり出して逃げ出そうとしているんだ⁉」


「敵前逃亡は、銃殺ですよ!」


「……銃殺って」


「私たちは医師や看護婦であって、軍人では無いのですよ?」


「もはや、戦場も同然のこの中央区においては、ここも『野戦病院』そのものであり、我々も軍医や軍属同様なのである!」


「……いや、自衛隊にだって、昔で言う、軍医に相当するスタッフは、ちゃんとおられるのでは?」


「そりゃあ、普通の状態だったら、私たちも逃げたりしませんがねえ」


「うちなんか病院なのに高層ビルだから、中低層部に砲弾やミサイルを一発食らえば、それから上のすべてが、お陀仏になりかねないんですよ?」


「……くううう、このSNS全盛時代において、このようにあらゆる事件が映像その他として、リアルタイムに伝達されてしまったのでは、ホラー小説やパニック映画なぞ、成り立ちはしないではないか⁉」


「確かに、廃病院なんかを探検中に、幽霊とかが出て来ても、『ハーイ、オバケ、発見。ワロスワロスw』とかのコメント付きで、拡散されるだけだったりしてね」


「今回の『夏のホ○ー2019』の参加作品のほとんどが、それで終わってしまうんじゃないですか?」


「……それなのに、いまだに『この作品は実体験です』とか、ほらを吹いている輩がいるのだから、あきれて物が言えんわ」


「実話と言うのなら、証拠を見せてみろってもんですよね」


静止映像インスタだろうが動画だろうが、拡散し放題でしょうに」


「まさかこの御時世に、スマホ一つ携帯していなかったとでも、ほざくつもりですかあ?」


「──やめー! やめなさーい! ここは病院です! それ以上『毒を吐く』のは、禁止でーす!!!」


 あまりに思いがけない恐怖のためか、全員がメタメタな状態となってしまっていた、まさにその刹那であった。




「──だったら、この私が、本物のホラーというやつを、お見せしようではありませんか」




「「「は?」」」




「……じ、事務局長、いきなりどうしたのかね?」


「あのう、もう『ホラー小説』がどうのこうのといった、メタ的発言は、やめておいたほうがいいかと思うんですけど?」


「何をおっしゃるのです、院長に、看護部長。むしろメタとしての本番は、これからではありませんか?」


「いやだから、君は一体何を言っているのかね?」


「つまり、こういうことですよ。──それでは、『同志』の諸君は、全員ご起立を!」


 事務局長の謎めく言葉を受けて、すっくと立ち上がる、医者や看護婦や事務員を問わない、数名の病院職員たち。




 その手に、メスやハサミやトンカチ等の、武器になりそうなものを携えて。




「な、何だね、君たちは⁉」


「事務局長、これは一体、どういうことかね?」


「説明したまえ!」




「……まだわからないのですか、愚鈍なニッポン人の皆さん?」




「「「なっ⁉」」」




「この病院は、現時点をもって、我々神聖帝国『ёシェーカーёワルド』騎士団が、占領いたします。医者、その他の職員、患者を問わず、全員『あの世』という異世界に送って差し上げますので、お覚悟なさいませ♡」




 ──そして、一方的な殺戮ショウが、始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る