第7話、202×年、GINZA〜『令和事変』その3
【内務省警視庁衛生部直轄『転生病監察医務院』、
「──近寄るな! それ以上俺に、近寄るんじゃない! 何が、医者だ! 看護婦だ! どうせおまえらも、『異世界人』なんだろう? いかにも親切な振りして近づいて、俺のことを殺そうとしているんだろうが⁉ 騙されないぞ、おまえらは、いつだってそうだ! あの
──その刹那、だった。
脇腹に、熱いほどの、激痛を感じたのは。
思わず見やると、俺の戦闘服の腹部には、一本の包丁が突き刺さっていた。
これまでまったく見たことも無いような、無表情で冷たい目をした少女が、嘲るようにささやきかける。
「──忌まわしき、ジエイタイ員めが。我ら神聖帝国の『逆転生の秘術』に踊らされて、その鮮血で真っ赤に染まった手で、無数の同胞どもを殺した気分は、どうだい?」
そして、完全に茫然自失となり、硬直し続ける俺の肩に提げてあった、自動小銃を奪い取るや、ゆっくりと出口へと向かう。
「この周辺のニッポン人どもを殺せるだけ殺して、おまえの後を追わせてやろう、大人しく地獄で待っているがいい」
そのセリフを聞くや否や、ようやく『呪縛』が解かれ、俺は慌てて駆け寄り、その『娘だったモノ』を、後ろから羽交い締めにした。
「──なっ、馬鹿な? 確かに致命傷だったはずなのに⁉」
自衛隊員が出動するに当たって、ある程度以上の防弾防刃効果のある衣服を着用しているのは、常識中の常識であり、それは俺の娘も熟知していることであった。
……つまりこの子は、もはやまったくの『別物』と、成り果てているということだ。
「うぐっ⁉ き、貴様、何をする!」
俺が首の骨が折れんばかりの勢いで締めつければ、堪らず叫び声を上げる少女。
「──や、やめて、お父さん! 私よ、あなたの娘よ! さっきまで私の中にいた『異世界人』は、もうどこかに行ってしまったわ! お願い、私のことを、殺さないで!」
突然娘そのものの声音となって、必死に哀願し始める、腕の中の少女。
──しかし俺は、滂沱の涙を流しながら、右腕に力を込めた。
「うぎゃあああああああああああああああああああああっ!!!」
狭い安アパートの一室に響き渡る、少女の姿をした『侵略者』の絶叫。
だかそれでも、俺自身も泣きわめきながら、最後まで力を抜かなかった。
──なぜならこれは、『異世界人』どもの、常套手段、なのだから。
銀座の『地獄絵図』の中においても、何度この手を使った『異世界人』どもに、殺されかかったものか。
そしてそのたび、同僚や一般市民たちを、この手で殺すことになってしまったのだ。
……つまりは、このまま放置しておけば、この『娘の皮を被った異世界人』も、何の罪も無い人々を、殺し回るに違いなかった。
それに、たとえ今や完全に、意識を乗っ取られてしまっており、元の彼女に戻ることは無いとはいえ、この子は俺のたった一人の娘なのである。
だったら父親である俺こそが、この子の手をけして他人の血で汚させないように、今この場で引導を渡してやるべきなのだ。
──俺はそのように、自分に向かって言い聞かせながら、必死に抗う少女に対して、とどめを刺した。
……許さない。
『異世界転生』だか『逆転生の秘術』だか知らないが、卑怯極まりない手段を使って、俺に娘や同僚や名も無き市民を殺させた、『異世界人』どもも。
──それに何よりも、そもそもの発端として、専守防衛を尊び、あくまでも平和の軍隊であるはずの、我が誇り高き自衛隊を、勝手に自分の創作のネタにして、異世界なぞというふざけた舞台で、まるで大昔の忌まわしき旧日本軍やナチスドイツ軍でもあるかのように、一方的に無双させて、こちらは頼みもしないのに勝手にヒーローに祭り上げて、結局本物の異世界人を怒らせることになって、このような惨憺たる事態を招いてしまった、頭のイカれた異世界系のWeb作家どもも!」
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