第6話、202×年、GINZA〜『令和事変』その2
「──ジエイタイ並びに、ニッポン国政府高官に告ぐ、トウキョウ都チュウオウ区ギンザは、現時点をもって、我ら神聖帝国『ёシェーカーёワルド』が占拠した! これは我々からニッポン国への、『復讐』の第一歩である! これまでの貴様らの我々ёワルドに対する、『異世界転生』や『異世界転移』の名を借りた、文化的かつ政治的かつ軍事的な『侵略』行為は、もはや看過できぬ状態にあり、即刻の全面停止を要請する! 断っておくが、我が部隊へのこれ以上の攻撃は無意味であるぞ。たとえ我ら先遣隊が全滅しようと、何度でも『逆転生の秘術』を繰り返すだけで、いたずらにニッポン国の軍人や一般市民を犠牲にするだけだからな!」
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「……
「いきなり部下の自衛隊員たちに向かって発砲したかと思えば、賛同する多数の隊員を従えて、完全に支配下においた機甲師団の全力をもって、大勢の一般市民ごと銀座の街並みを瓦礫の山にしたあげくの果てに、自分たちのことを『神聖帝国軍』などと、世迷い言を言い出しおって!」
「しかも、『異世界転生」とか『異世界転移」とかって、一体何のことだ⁉」
「──そんなことは、どうでもいい! どうせ狂人のたわ言だ!」
「しかし、精神異常者が、このような大規模なクーデターを、用意周到に実行することができるのか?」
「今も騒動はどんどんと広がっていき、新たに鎮圧に向かった自衛隊員や警察官の一部の者が、いきなり『神聖帝国軍人』を名乗りだして、味方や市民に対して攻撃し始めるという、悪循環が続いていくばかりだぞ!」
「おいっ、そんなことよりも、このままでは暴動が、『千代田区』に飛び火するのも、時間の問題ではないのか⁉」
「かといって、これ以上部隊を投入しても、ミイラ取りがミイラ取りになるだけだし……」
「……やむを得ん。『我々』の最大の使命は、何よりもこの日本の『国体の護持』だ。暴徒どもが一歩でも千代田区に足を踏み入れることなぞ、断じて赦すことはできぬ。巡航ミサイルや長距離ロケット砲や対地ドローン機等、無人兵器を一気に大量投入して、銀座を中央区ごと消滅させよう」
「──なっ、馬鹿な⁉」
「大問題になるぞ!」
「マスコミや国民には、どう言い訳をするつもりだ⁉」
「選挙も近いんだぞ!」
「日本の軍隊に、日本の国土を攻撃させるなんて、正気か⁉」
「──黙れ! こんな時まで、保身に走るんじゃない! これは単に、銀座や中央区や東京のみの問題では無く、今まさに日本国そのものが、存続の危機に瀕しているのだ! これ以上対応が後手に回ると、収拾がつかなくなるぞ! マスコミや一般国民なぞ、情報操作をすれば何とでもなる! それよりも中央区を始めとする、23区内の市民の避難を急がせろ!」
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──上記の通り、内閣秘密会議より半日後、自衛隊による長距離飽和攻撃により、中央区全域が日本の地図上から、当地を占拠中だった自衛官や警察官からなる『反乱部隊』とともに、すべて消滅。
──しかし、それとほぼ時を同じくして、全国の自衛隊駐屯地並びに米軍基地において、大規模反乱が一斉に発生。
──瞬く間に基地内の全兵力を掌握するとともに、周辺地域に向かって侵攻を開始。
──住民の避難誘導に当たっていた、機動隊を中心にする警察官たちの中も、次々に『神聖帝国軍人』を名乗る者が現れて、同僚の警察官や市民を攻撃した後で、全員反乱軍に合流。
──そのようにどんどんと戦力を増強していき、すでに市民の避難が完了していた東京都心部を始めとする、全国の主要都市をすべて完璧に占拠。
──この段階においてようやく、『もはや日本政府に、事件の処理能力無し』との判断を下した米国政府は、陸海空三軍に新設の宇宙軍をも併せた四軍の、持ち得る長距離攻撃手段のすべてを使って、日本国内の反乱部隊占領地を、無数の民間人が犠牲になることすら構わずに徹底的に爆撃することによって、ついに反乱部隊の根絶を達成。
──しかし、日本国内に軍政による臨時政府を設置しようと進駐した、米国の軍人や軍属のうち少なからぬ者たちが、上陸と同時に自分のことを『神聖帝国軍人』だと名乗りだしたために、何と同じ米軍同士で攻撃し合い、進駐軍自体が壊滅する結果となった。
──よって米国側としては、これ以上の日本への進出を諦め、一部の監視部隊を周辺地域に残した他は、ほとんどの部隊を本国に撤収させた。
──その後日本国内においては、一般市民や公僕が『神聖帝国軍人化』することは無くなったが、『民主主義からなるかつての日本国』は事実上終焉を迎えてしまい、代わりに『反神聖帝国』や『反異世界転生』を標榜する、過激な国粋主義勢力の手によって、『大日本第三帝国』の樹立が宣言される。
──そして、まるでそれに示し合わせるようにして、東アジアの某大国内において、高位の政治局員たちが自らのことを、『異世界人の生まれ変わり』などと名乗り始めて、同調する政治局員や軍人たちを率いて、大規模なクーデターを起こしたのであった。
──それは数年間にもわたる大動乱へと発展していき、数十億の犠牲者と引き換えに、アジア大陸東部全域が、自称『異世界人』たちの領土となってしまったのである。
【以上、新帝国隷下、内務省警視庁衛生部直轄、『転生病監察医務院』警務課文書係作成、『令和事変』総括報告書より】
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