第3話、ヴァルプルギスの亡霊たち。(Q転直下編)
──帝国暦2681年、4月最終日深夜、魔導大陸東岸、特設臨時最前進基地。
現在ここには、万を超える神聖帝国『ёシェーカーёワルド』の誇る精鋭部隊たる、帝都近衛師団より抜きの、魔導兵部隊が集結していた。
大海原の遙か東方の、『ブロッケン列島』方面上空を見張っていた、遠視能力を誇る偵察兵たちが、黒々と立ちこめた雲海の中に、こちらへと迫り来る多数の飛行体を捉えた。
「──来ました! 目標を肉眼で確認!」
「──先遣隊の、『ブロッケン幼女団』の模様!」
「──数、少なくとも50以上!」
「──総員、迎撃準備!」
「──魔導高射砲部隊、前へ!」
途端に、全部隊の魔導師たちに、緊張が走る。
それは俺たち、今年初参加の
……大丈夫だ、今日この日のために、転生者である部隊員の全員で、猛特訓を繰り返してきたんだ。
各自携帯の小火器から、今回初配備の高射砲に至るまでの、現代日本の最先端の科学技術と、このファンタジーワールドならではの魔法技術とを融合させた、『ハイブリッド魔導兵器』の調子も万全だ。
必ず魔女どもに目に物を見せて、俺たち転生者部隊の、初陣を飾ってやるぜ!
それにはまずは、
「──距離、百を切ったぞ!」
「そろそろ、速度を落として、爆撃行動に移るはずだ!」
「高射砲隊、よく狙えよ!」
「来るぞ!」
「──各砲門、放てええええ!!!」
魔法少女たちが飛行速度を落とした瞬間に合わせようと、数十門もの対空砲が火を噴くものの、
「「「……あ、あれえ?」」」
夜空を埋め尽くかのように咲き誇る無数の砲火を置き去りにして、夜の闇を切り裂くごとき速度をわずかに緩めること無く、あっと言う間に飛び去っていく、色とりどりのバトルコスチュームに小柄で華奢な肢体を包み込んだ、魔法少女たち。
初陣と言うこともあって、気張りに気張っていたところで、完全に肩すかしを食らってしまい、呆気にとられて彼女たちを飛んでいった方を言葉も無く見送り続けるばかりの、俺たち『theエイ隊』を始めとする師団員たち。
……待てよ、あいつらの飛んで行った、方角って。
「──まさか、あの魔法少女たち、直接帝都の市街地を、爆撃するつもりか⁉」
「まさか! 『ブロッケン幼女隊』はあくまでも、本隊である成人の魔女たちの露払いであり、俺たち最前線部隊への攻撃が主任務のはずだろうが⁉」
「──おいっ、まさにそういった『思い込み』を利用して、油断している帝都の守備隊を、先に叩くつもりなのでは?」
「馬鹿な! 帝都を防衛しているのは、全帝国軍の中でも、精鋭中の精鋭なんだぞ? 魔女ならともかく、魔法少女の攻撃魔法くらいじゃ、ビクともするもんか!」
「いいから、至急、帝都の防衛隊に、連絡を──」
「………あ?」
「ちょ、ちょっと、待て!」
「な、何だ、あの光は?」
「「「──っ‼」」」
いきなり、広大なる帝都一帯がまばゆい閃光に包み込まれたかと思えば、次の瞬間、多数の爆炎が舞い上がり、遙かこちらまで響き渡るほどの大轟音と大振動とともに、巨大なキノコ雲が幾筋も立て続けにわき起こった。
「……帝都が、燃えている?」
「今のは、あの、魔法少女たちが?」
「そんな、考えられん! あのような戦略級の攻撃魔法は、成人の魔女でも、できるかどうか──」
「ちょっと、待て!」
「あいつらって、ここを通過した後も、どんどんとスピードを上げるばかりだったよな?」
「しかも、あいつらが飛び去ってから、そんなに時間は経っていないし……」
「そのまま加速を続けながら、帝都に飛び込んだわけか?」
「ま、まさか、それじゃ帝都上空で速度を緩めて攻撃に移ることなぞできず、減速している間に、帝国の領土から飛び出てしまうぞ!」
「……だとしたら」
「まさか」
「まさか」
「まさか」
「まさか」
「まさか」
「「「──むしろスピードを落とすこと無く、そのまま文字通りに、帝都の市街地へと
「馬鹿な! 魔法少女が、全員揃って、自爆テロだと⁉」
「いくらあいつらが、魔女にとっては『創造物』に過ぎないとはいえ、そんなことがあり得るのか⁉」
「しかし、あんな特大の爆撃効果なんて、肉体がショゴスそのもので出来ている魔法少女が、
「──くっ、このままこんなところで、ちんたら話し合ってても仕方ない!」
「そうだ、帝都に向かおう!」
「おそらくは、今の大爆発で、守備隊はほとんど潰滅したはずだ!」
「本隊の魔女たちが本格的に侵攻してくる前に、せめて俺たちが守りにつかないと、もはや帝都どころか、帝国そのものが陥落しかねないぞ!」
「よし、全隊、隊列を整え次第、帝都へと転進を──」
「──こちら偵察班! 新たなる敵影を肉眼で確認! 海上スレスレを、こちらへと急接近中!」
「「「なっ、何だと⁉」」」
その聞き捨てならぬ『急報』に、全員揃って180度転回して、ブロッケン列島のほうを見やれば──
「「「………………………ふへ?」」」
「あ、あれって」
「ひょっとして?」
「いやいや、そんな!」
「ここは、
「「「こんなことが、あり得るはずは、無いだろうが⁉」」」
口を揃えて、驚愕の声を上げる、
そう、それは一人の例外も無く、日本からの転生者だけに限られていた。
その視線の先には、どこか懐かしさすら感じさせる、『少女』たち。
……そうなのである、水兵服を彷彿させる女学生の制服に、十代半ばのいまだ華奢な肢体を包み込んだ、それぞれにまるで『作り物』であるかのごとき、絶世の美少女たちが、あたかも『水上スキー』でもしているみたいに、海面上を滑走して迫り来ていたのだ。
──まさしく、かつて現代日本において、パソコンの画面を通して見ていた時と、同様に。
「……軍艦、擬人化、少女?」
思わず俺の口を突いて出る、忘我のつぶやき声。
それが聞こえたわけでも無かろうが、100メートルほど手前で速度を緩めて、横一列にずらりと並んで停止する少女たち。
そして──
『『『──集合的無意識と、アクセス! 各
彼女たちが一斉に叫んだのは、間違いなく、このファンタジー世界独特の『魔法の呪文』──自分自身や周囲の物質の形態情報を書き換えることによる、『
夜の闇のごとき漆黒の
「──総員、伏せろおおおおおおお!!!」
次の瞬間、
この海域一帯のすべてが、盛大なる爆炎と轟音とに、包み込まれてしまったのであった。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
それからおよそ一時間後、魔導大陸『エイジア』東方、『ブロッケン海』上空。
総数百機は優に超える、多数の戦闘機と大型爆撃機等からなる編隊が、もはや動く者はただの一人もおらず、わずかに高射砲等の残骸から立ち
──まさにその大小様々な軍用機の、主翼と垂直尾翼とに赤々と描かれている、真紅の『
それは紛う方なく、かの誉れ高き『日出ずる処』の軍隊たる、大日本帝国軍の証しであった。
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