第4話、ヴァルプルギスの亡霊たち。(終わりの始まり)
神聖帝国『ёシェーカーёワルド』の最前線部隊が、魔女側の軍艦擬人化少女たちの急襲を受けてから、およそ一時間後、魔導大陸『エイジア』東方、『ブロッケン海』上空。
総数百機は優に超える、多数の戦闘機と大型爆撃機等からなる編隊が、もはや動く者はただの一人もおらず、わずかに高射砲等の残骸から立ち
──まさにその大小様々の軍用機の、主翼と垂直尾翼とに赤々と描かれている、真紅の『
そう、それは紛う方なく、かの誉れ高き『日出ずる処』の軍隊たる、大日本帝国軍の証しであった。
そんな大編隊のほぼ中央を飛行中の、司令機として使われている、超大型戦略爆撃機『
それらはすぐさま、機長席にゆったりと身を預けている、黒髪黒瞳の絶世の美女である、当代の魔女族の族長の許へと報告されていった。(※己自身のことを『絶世の美女』などと言うのも何だが、ある意味『本物の自分』
「……そうか、
「はっ! 敵最前線部隊の掃討はすでに完了し、『
「ふっ、軍艦を少女の姿に
「彼女たちの事前の予想を遙かに超える活躍によって、すでに敵帝都防衛隊は壊滅状態となり、対空兵器も完全に沈黙したとのことです!」
「うむ、彼女たちの『量産計画』を、直ちに実行に移すか。──よし、我々爆撃部隊も急ぎ進軍し、夜明け前に帝都を焼け野原にしてくれようぞ! 地上にて動いている者は、猫の子一匹に至るまで、すべて根絶やしにしろ! これより、『クラリオン作戦』を開始する!」
「「「──はっ、大日本第三帝国『ブロッケン』、万歳!」」」
一斉に敬礼して、持ち場へと着く、頼もしきクルーたち。
全員いかにも『生前通り』の、日本軍人調の口振りに身振りであったが、司令官である私こと、
──まさかあの時、太平洋上の大激戦で戦死したと思ったら、よりによって御伽噺そのものの異世界に転生して、しかも何と全員が全員、『魔女』なんかになってしまうとは。
誇り高き日本軍人としては、到底耐えきれるはずが無く、最初は屈辱のあまり潔く自害しようとした者すら、いたほどであったが、
これぞまさに、『天啓』であったのだ。
いくら割腹自殺しようが、手首を掻き切ろうが、痛みを感じる間もなく、アッと言う間に修復されて、傷一つ残さないのだ。
生まれたばかりの魔女の幼体『魔法少女』である我らの行動を見かねて、一応は『母親』に当たる『創造主』である成人魔女たちが、教えてくれたところによると、何と魔女は万物の祖である『ショゴス』の『
──すべてを変形できると言うことは、まさにこの世の
ただ単に『変形能力』と聞くと、別に大したことは無いようにも思えるが、『周囲の空気を炎でも氷雪でも、好きな物に変えることができる』と言い換えれば、考えられ得る限りの『魔法』の類いを、すべて実現できると言うことなのだからして、もはや『神様同等』と言っても過言では無いであろう。
軍人としての『戦術&戦略的視点』から申せば、広大なる敵の重要都市を、一瞬にして見渡す限り火の海に変えることができるのであれば、まさしく『核兵器並みの大量破壊兵器』を手に入れたも同然というわけなのである。
しかも、この『
──我らはその時、心から神に感謝した。
これで、志半ばで頓挫しかけた、『大願』を成就させることができるぞ、と。
『大東亜共栄圏』建設の最大の目標──それは、アジアの植民地諸国を、白人勢力から解放することによる、すべての人種が平等に生きていける、『真の王道楽土』の実現であった。
それなのに、白人種の連合軍に阻まれて命を落とした挙げ句、事もあろうに別の世界に転生なぞしでかして、もう少しで絶望してしまうところであったが、何とこの世界は、そもそも人間だけでは無く、現在の我らのような魔女を始め、エルフやドワーフや獣人や吸血鬼や魔人や竜人等々といった、高度の知性を有した人型の種族が多数群雄割拠しており、お互いにお互いを差別し合っていたのだ。
そのような生前よりも更に混沌極まる異世界において、最強種族として生まれ変わったことは、おそらくはこの世界の全種族を束ね上げて、あらゆる差別を無くすことこそが、かつて最も高潔なる
もはや、外見上女性であることなんて、何の問題も無かった。
我々はすぐさま、魔術の鍛錬に励みつつ、魔女ならではの『
そんな我々の、ファンタジー世界の住人にしては異常すぎる行動を見ても、親代わりの魔女たちは何も言わなかった。
何せそもそも魔女自身が、生涯島国であるこのブロッケンから出ることを許されないという、神から差別された種族なのである。年に一度大陸に攻め込むことのできる、『ヴァルプルギスの夜』のための兵器作りならば、むしろ大歓迎であろう。
そうなのである、あまりにも強すぎる『
しかしそれも、魔女が通常使っている魔法に、我々転生者独自の魔法技術を付け加えることで、あっさりと解決した。
魔女による物理的あるいは魔法的攻撃が、外界に及ぶのは、『ヴァルプルギスの夜』だけであり、本来なら魔女自身の飛行可能範囲である、エイジア大陸東部に限定されるところであろう。
しかし、我々が生きていた時代においてもすでに開発が進んでいた、日本の理化学研究所の原子爆弾を、ドイツ第三帝国で開発中であったかの高名なるV2ロケットの改良型である、超長距離用多段式大陸間弾道弾『アメーリカ・ラケーテ』に搭載すれば、『ヴァルプルギスの夜』だけとはいえ、世界中を標的にできるので、この武器を脅しに使うことによって、あらゆる国家や種族に言うことを聞かせることも、十分可能かと思われた。
「……ふふふ、まさにこれぞ『科学と魔術のハイブリッド』だな。同じアイディアで実現した、『軍艦擬人化少女』たちのほうも順調のようだし、我ら『大日本第三帝国』の初陣も、大成功というところか」
そのようにつぶやいたまさにその時、富嶽のコクピットのキャノピー越しに、戦火に燃え上がる神聖帝国『ёシェーカーёワルド』の帝都の姿を、視界に捉えたのであった。
──まさしく、『白き悪魔』どもの本拠地を。
そうなのである、『元いた世界』で言えば、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』の上級市民どもこそが、まさしくアジアの多くの国々を植民地にして、有色人種を不当に搾取していた、欧米人そのままの容姿をしていて、その性格も傲慢かつ横暴極まりなく、知的種族の中でも最も数が多く魔法能力も高いのをいいことに、事あるごとに周辺諸国に
この世界において、すべての種族が皆平等に笑顔で暮らせるようにするには、まず何と言っても、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』による不当極まるエイジア大陸支配を、打倒しなければならなかった。
かつて大東亜共栄圏建設を目指して、アジア全土の解放を掲げて戦った、大日本帝国の軍人である我らが、この世界において最も差別の対象となっている魔族の女性限定種である、『魔女』として転生したのは、神様が今度こそ『万民平等の理想的な新世界』を実現することを、お命じになったに違いなかった。
必ずや、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』に、今回の出撃によって致命的なダメージを与えて、他の種族の自立を促さなければ。
魔女ならではの『集合的無意識』とのアクセス能力で得た知識では、大日本帝国は第二次世界大戦において残念ながら敗北したとのことだが、大戦初期にはアジアの白人種の軍隊を追い払い、一時期とはいえ開放に成功していた短い間において、白人勢力の弱体化はもちろん、アジア人たちに黄色人種国家日本の雄姿を見せつけて奮い立たせるのを始めとして、併せて文化的教育や軍事訓練を施すことによって、大戦終結後に数多くの国において独立を成し遂げるのに、多大なる貢献を果たしたと言う。
同様にこの世界においても、年に一度とはいえ『ヴァルプルギスの夜』ごとに、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』に尋常ならぬ打撃を与え続ければ、現在虐げられている各種族の者たちの独立のための
そうだ、この世界においてこれまでずっと忌み嫌われてきた、我々魔女こそが、新たなる理想的な国作りのための、真の救世主となるのだ!
──そのような決意を胸に、我々魔女の戦爆大編隊は、悪徳の都へと、一路飛び続けていった。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
明けて、帝国暦2681年5月1日、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』。
ブロッケン軍の先遣隊の第二派である、軍艦擬人化少女たちとの圧倒的に不利な戦闘を終えた後で、わずかに生き残った現代日本からの転生者からなる秘匿部隊、『theエイ隊』所属の俺たち新兵たちは、やっとのことでたどり着いた帝都の有り様に、ただ呆然と立ちつくすことしかできなかった。
ほとんどが瓦礫と化してしまった、ほんの数時間前までは天を衝くような高層ビルばかりであった、摩天楼街。
いまだ消火活動も及ばぬままに、燃えさかり続ける紅蓮の炎に、立ちこめる黒煙。
──そして、これ幸いにと暴徒と化して、略奪や暴行や殺人等を行っている、有色人種やエルフ族や獣人族等の、奴隷ども。
そのせいで、魔女たちによる空爆だけでは無く、あらゆる手段で殺害された、白人種の人々の死体が、あちこちに散乱していた。
それらは二度と言葉をしゃべることは無かったが、皆一様に恨みに満ちた表情をしていた。
──俺の腕の中の、『彼女』同様に。
「……エリカ、どうして、おまえまで」
遠縁の親戚同士として、俺の父の領内で一緒に育った幼なじみで、その後に恋人同士になり、俺が正式に軍人となってからは、共にこの帝都で暮らすようになった、最も大切な人。
日本人の転生者として、この世界への憎しみに葛藤し続けていた、思春期の少年時代においても常に側にいて、いつしか俺の頑なな心を溶かしてくれて──
彼女がいたからこそ、俺は『
「それなのに、まさかこいつが、自分と同じ日本からの転生者に、殺されてしまうなんて………ッ!」
魔女どもが乗っていた軍用機の、主翼や尾翼に描かれていた、鮮やかな紅い丸印。
あれは間違い無く、大日本帝国軍の証しである、『日の丸』であった。
「……魔女どもめ、けして許さない、絶対に一人残らず、殺してやる!」
そうだ、俺はもう、日本人なんかじゃ無い、この世界の人間なのだ!
絶対に、薄汚い『侵略者』に過ぎない、日本人の転生者どもを、皆殺しにしてやる!
──俺はその時、最愛の人を亡骸をいつまでも抱きしめながら、歯を食いしばり血の涙を流しつつ、そのように誓ったのであった。
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