第2話 虐めていた、犯人は ■


 急に様変わりした私の様子に、周りが動揺にざわめいた。


 しかしそんなものは気にしない。

 純然たる『悪役』ならばきっと、それさえも賞賛の声と受け取る筈だから。


「――殿下」


 そんなに大きな声は出さなかった。


 しかしそれでも私の声は、人々のざわめきを掻き消すだけの存在感を放っていたのだろう。

 誰が号令をした訳でもないというのに、周りがシンと静まり返る。



 周りのそんな反応を、頭の端で「まぁ順当だな」と思った。


 私だって、曲がりなりにも王太子の婚約者だった身だ。

 貴族や平民に向けた演説の方法も練習も、それなりには積んできている。


 イレギュラーな演説なので、原稿は手元に無いが、それでも自身の中の事実や想いを言葉にするくらいならば、即興で十分事足りる。


「おそらく最も殿下が気にされているだろう『どこかしらの御令嬢を虐めた件』についてですが……犯人は私ではありませんよ?」


 公衆の面前では初披露となる自身のスキルを全面に押し出して、私はあくまでも『悪役』になり切る。


 まるで自信の塊であるかのように。

 高慢さえ、見えるように。


 そう自身に唱えながら、言葉尻でニヤリと彼に笑って見せた。


 するとそんな私に、殿下はフンッと鼻を鳴らす。


「今更そんな戯言を言ったところで、言い逃れはもう出来ん。実際に嫌がらせをされた物品に目撃証言、証拠は既に出揃っているのだからな!」


 勝ち誇った様な顔で、彼は高らかにそう告げた。

  すると、それに周りの貴族達が賛同の空気を醸し出す。


 しかし。


(自らがひどく不安定な足場の上に立っている事に、貴方は気づいていないのですね)


 私は静かにそう思った。


 

 これが冤罪である事は、私自身が1番よく知っている。


 だからこそ気になっていた。

 一体どうやって、その『言い逃れのできない理由』とやらが作られたのか、と。

 だから私は調べたのである。


 そしてついに、真実を手に入れたのだ。


「その証言、教会派の方々から得たのではないですか?」


 私がしたそんな指摘に、彼は訝しげな表情を浮かべた。


 なぜ知っている。

 聞かなくても、そう思っているのは明白だ。



 彼の訝しみ顔に、私はサラリとこう応じた。


「その御令嬢を虐めていたのは教会派の重鎮・エイロー公爵家の御令嬢、エリーゼ様です」


 殿下そう告げると、私は視線をスイっと後ろにずらした。


 そして視界に入った貴族達の中から目当ての人を見つけ、「ねぇ? エリーゼ様」と尋ねる。



 教会相手ならば、虚偽の報告をさせる事もさぞかし簡単だってでしょうね?


 そう言って微笑めば、つい今し方までほくそ笑んでいた彼女の表情が劇的に凪いだ。

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