世界はもふもふすればいい

ユウグレムシ

 

「みなさん!!“無料で小説を書ける、読める”って、ずいぶん上から目線だと思いませんか!?小説は本来、怪しげな日本語で書かれた廃品回収の片面チラシの裏側に己の血文字で好きなだけ執筆できるものです!!やる気さえあればいつでも誰でも始められる自己満足をスーパーマーケットのタイムセールみたいに言いやがるおせっかいヤローはどこのどいつでしょう!?世界は実体を失い、付加価値という名の虚無だけが株式市場を日々飛び交っています!!煽るだけ煽って知らんぷり!やらせるだけやらせておいて横取り!わずかでも隙があれば袋叩き!こんな血も涙もないクソったれた現実を、私はこれからやさしい世界に変えようと思います!!」

 ドゥームズデイ博士が革靴のかかとで128ビートを刻みながら言った。足元のドクロマークを押下するたびに、“さようなら人類”“ALL YOU NEED IS DEATH”などとペイントされた無数の大陸間弾道ミサイルがサイロからシュポポポポーンと出て雲を引く光の点となり、猛スピードで大気圏を突破して対蹠点へ向かって飛んでゆく。“対蹠点”とは博士の現在位置から見て地球の反対側のことだ。

「やさしい世界!!そう、やさしい世界を作るんです!!やさしい世界に生命は不要!!なぜなら生きることは本質的に戦いであり、社会性のあるなしに関わらず、どんな生き物も生命である以上はやさしさと真逆の存在にほかならないからです!!地球を守るためには地球を滅ぼすのが一番!!みんなで存在をやめて恒久平和を実現しましょう!!チャンネル登録よろしくね!!」


 ケモミミ、ウロコ、複乳、TFトランスファー、デブ専、ケモ脚、両性具有。ひとくちにケモナーといっても、ケモ度をはじめこだわるポイントはじつにいろいろだ。そんな中で嗜好の同じ(あるいは妥協できる)仲間に出会えるというのは奇跡に近い。デッドエンド博士とドゥームズデイ博士は同じケモ絵を“いいね”したことがきっかけで意気投合したのだが、ネットでやりとりしていた間は、デッドエンド博士はドゥームズデイ博士がこんなヤバい奴だとは思わなかった。

「ケモナーは大きく分けて二種類いる。たまたまケモノも好きなだけの変態と、人類憎しでケモナーをやっている奴だ。僕は両方だが、まさかきみは、世界さえ滅べばあとはどうでもいいと……!?」

「いいやデッドエンド博士、私もケモノを愛しているよ。だが人はなぜケモノを求めると思う?ケモノとは何だ?」

「もふもふだ!!」

「そうだ。ケモノとはもふもふの化身、具象化されたやさしさだ。ケモノは実在しない。実在しないからこそいいのだよ。そう思わないか?理想はあくまでも理想であり、理想であるがゆえに決して我々の手が届くことはない。誰もやさしくなれないのなら、すべての生命が存在という呪いを捨てるしかない。ところでさすがに足が疲れてきたな……。ちょっと代わってくれる?だめ?そりゃそうだよな。連打ツールで自動化しておけばよかった……。というわけで、あらかじめ滅ぼしておいた地球がこちらになります」


 ドゥームズデイ博士はコアまでまっすぐ竪穴の空いた地球に千切りキャベツとプチトマトを添えた。彼は弾道ミサイルで穴を掘っていただけだったのだ。ドクロマークの最後の一押しで、かのニコラ・テスラの発案による共振爆弾を搭載した本命のミサイルを発射すると、おもむろにデッドエンド博士を蹴飛ばして弾頭に叩きつけた。

「ハッハッハーァ!!愚かな人間ども!!授業中『はい二人組になってー』と言われても相手がいないやるせなさに耐えかね、小・中・高と毎日くまちゃんを抱いて登校した怨念を思い知るがいいー!!」

「よだかは醜い鳥でしたああああアアアアアイルビーバアアアアァァァァァァァァァァァァァック!!」

 こうして地球は破壊された。


 ――数十億年後――


 世界は粉々にされても滅びはしなかった。月が衝突したときでさえ、なんやかやあって結局元の球体に戻ってしまった地球である。長い目で見れば破壊など不可能だった。しかし新たな地球は、ドゥームズデイ博士やデッドエンド博士や、ケモノを愛するすべての魂と混ざり合い、海も大地も雲も、もふもふの姿に生まれ変わった。そして、もふもふの地球のコアから波動が拡散するにつれ、月が、火星が、金星が、水星が、木星が、太陽が、モコッ、モコッ、と脈打ち、たちまち太陽系のぬいぐるみが完成した。銀河は、もふもふしていた。ブラックホールは、もふもふしていた。宇宙に満ちるやさしさを乱すものなど、もはやなにもなかった。

 もふもふインフィニティ。もふもふフォーエバー。もふもふさえあればなにもいらない。生きよと命じられながら死する定めの矛盾を救うものがあるとしたら、それはきっともふもふなのだ。


おわり

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