第3話


 ダウンロードしたアプリは、何の変哲もないただのカメラアプリでした。何か面白い機能があるのかな、と少なからず期待してアプリをダウンロードした私は少しガッカリしましたが、とにかく試してみないと何の判断も出来ないので、私はとにかく写真を撮りまくりました。


 実際にそのカメラアプリを使い続けてみると、このアプリは何の変哲もないと言っても、色調調整や簡単な特殊加工といったカメラアプリには必須とも言える機能はついているし、何より今までダウンロードして使ってみたカメラアプリに比べて無駄なものがないので、ただ単に写真を撮るだけならとてもシンプルで扱いやすく、使えば使うほど私はこのアプリを気に入っていきました。


 来る日も来る日も、自分が気になったものをそのアプリで写真に撮っていきました。もしかしなくても、この頃が一番、写真を撮っていた時期だと思います。

 そんな風に毎日一心不乱に写真を撮っていたとき、ふと気が付きました。そのカメラアプリの端っこのほうに、不思議なマークが出ていることに。


(こんなマーク、使い始めたときにあったっけ?)


 私はそう思いながら、そのマークをタッチしてみました。そしてそれが、あの体験の始まりだったのです。



 タッチして出てきたのは、色んな写真の一覧です。それは私が知らない景色、私でも知っているような場所、いろいろな写真がありました。


 この機能に気づいたとき、私は公園で写真を撮っていたので、近くのベンチに座ってそれらの写真を見ることにしました。ベンチに座りながらそれらの写真を見て、私は感動しました。まるで私の理想としたような写真が、いくつかそこにはありました。


 私はそれらの写真を見て、スゴイと思う反面、とても悔しいと感じました。私にはこんな写真撮れなかったのに、誰がどうやってこんなスゴイ写真を撮ったんだろう――そんな嫉妬に近い感情が湧いてきます。


 そんな写真をいくつか見て私は気付きました。それら写真には、撮影者と思われる名前(それは本名に思えるものだったり、仮名に見えるものだったり、ユーザーIDに見えるものなどバラバラでした)が掲載されていることに。そして、どうやらその名前をタッチすることで、メッセージボードのようなものが出てくるということに私は気づきました。きっと、この写真を撮った人にメッセージを送ることが出来るのでしょう。


 私は悩みました。メッセージを送るべきか、メッセージを送るとして、どんなメッセージを送るのか。素直に「素晴らしい写真ですね^_^」とか送ればいいんでしょうか? それとも「そんな写真、私だって撮れる(#^ω^)」とか送ればいいんでしょうか? わかりません、だって私は、今まで他人が撮った写真にここまで感動と嫉妬を覚えたことがないのですから。


 悩みました。とても悩みました。悩んだ末、こんなメッセージを送ることにしました。


「悔しいです」


 そう、この一言だけです。今思えば、自分でも馬鹿なメッセージを送ったもんだなと思います。だけれども、この一言がその時の私の感情を一番的確に表現していたので、それ以外の言葉を送りようがなかったのです。

 他にも感動的で、見ているだけで何故か悔しくなる写真はいくつかありまあしたが、結局メッセージを送った写真は一つだけになりました。

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