第2話

 そして現代の国立劇場にて……

「思ったんだけど……新しい台本を今から作るってかなり大変だよな」

「お兄ちゃん……そんなに待てないよ?」

「あ、ああ……分かってる」

 フィーネの強い眼差しにアルドは少しうろたえた。

「では、今ある脚本を良くするのはどうでござるか?」

 ゲコゲコ、という音にアルドが笑う。

「今ある脚本……そうか!あ、でも……どれがいいんだ?」

「ふっ……俺たちがやるならアレしかないだろう」

「そうだね、兄さん。アレなら何人かご本人様がいるもんね」

「アレ……?……あ!」

 ギルドナとアルテナの言葉に少し考えたアルドがハッと目を見開く。相応しい脚本は……

『名探偵ハウスと消えた瞳』

「……うちに探偵なんていたか?そうじゃなくて……」

『銀の楽園』

「駄目だ!生贄を取るような神様なんて仲間にいないぞ!」

『ミグランス城の戦い』

「そうか!あれならギルドナと俺がいるな!魔獣王とさすらいの剣士はいいとして、あとは王様と騎士か……」

 見事に正解したアルドだが、腕を組んで考え込んでしまったのでギルドナも腕を組んで応える。

「王なら宿屋にいるな。誘ってみたらどうだ」

「ええ!?い、いくらなんでも不敬じゃないのか!?」

「……貴様、俺はいいのか」

 アルドの不敬な発言に魔王が牙を見せる。

「ギルドナは仲間だし……」

「出んぞ」

「わ、分かったよ……聞いてみるだけだぞ」

 このままでは出てもらえないどころか剣を抜かれそうだ。そうなればセバスちゃんから借りた機械も使えずにそっちからも怒られるだろう。アルドはあたふたとギルドナを宥めつつ、迷いを抱いたまま王様に会いに行くことにした。


 宿屋の一室に移動すると、王様は騎士団長のラキシスから報告を受けている最中だった。そろそろ終わるというので少し待つ。

 今から話す内容を考えると、王様よりも「こやつにも何か力になれることがあるかもしれん」とその場に残されたラキシスの方に怒られそうだ……と、アルドは及び腰で話した。

「あ、あの……実は……その、劇場でやってる俺たちの芝居がかなり酷くて……とにかく酷いんです」

 自分で言ってて悲しくなる。珍しくしょんぼりするアルドに王様は片眉を上げた。

「ふむ。私はまだ観たことがないがそんなに酷いのか」

「……一度娘と共に観劇しました。が……靴を投げました」

「投げたのか……まあ、そうだよな……」

 茶化しもしない無表情のラキシスにアルドはさらに悲しそうな顔をした。

「それで、一回ちゃんとした芝居をしたいと思って、本物のキャストを集めてるんです」

 凹んだアルドに変わってエイミが続ける。

「本物のキャスト……?」

「それで……俺たち、『ミグランス城の戦い』をやるので王様に出て欲しいんです!」

「ふむ、面白い。私で良ければ舞台に立とう」

 二つ返事の快諾にアルド一行全員がのけぞって驚いた。

「……えっ!?い、いいんですか!?」

「ああ、構わない。今のこの国には気持ちが明るくなる娯楽が必要だ。辛い現実に立ち向かうばかりでは人は疲れてしまう。カーテンコールは遠慮させて頂くが、民の笑顔に一役買えるなら私は喜んで舞台に立とう」

 快活に笑う上司に、膨大な仕事量の増加を察知したラキシスが低い声を出す。

「……王よ」

「何も言うな、ラキシス。たとえ私を狙うものがあってもまさか本人役で国王が出演しているとは思うまい。アルドもいるし、騎士役をお前がやれば万全だ」

「…………厄介な話を持ち込んでくれたものだな、アルド」

 この手の話に苦言を呈して止まってくれた試しがないのか、ラキシスは仕方なくアルドを睨む……が、

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺たちはリアルな芝居をやりたいんだ!あの芝居だと騎士はやられ役なんだ。せっかく王様に出てもらえるのに、兵を指揮してるはずの騎士団長が王を守って倒れたらおかしなことになっちゃうんだ!」

 アルドが妙なところにこだわり更なる要求を出してきたので流石に妹がその腕を引っ張る。

「お、お兄ちゃん!何言ってるの!?王様に出てもらえるだけですごい事なんだよ!?これ以上のことを望むなんて……!」

「う、そ、そうだよな……これ以上の高望みは不敬だよな……」

 妹に怒られてまたションボリするアルドを見て王がラキシスに目配せをする。

「ふむ……誰かいるか」

「……それならうってつけの人材がいます。演技力もお墨付きかと。手配しましょう」

 膨大な仕事量の減少を察知してすぐさまラキシスが部屋を出ようと立ち上がった。

「……あいつか?」

「ええ、あいつです」

 真顔を崩さなかったラキシスの頬が少し上がるのを見て王がとても愉快そうに笑う。

「ははは!これは面白いものが見れそうだ!アルド、良いものを作るぞ!」

「はい!」

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