第3話 カトリの街
『カトリの街』あの村から暫く飛び続けた先に、そう書かれた看板と大きく丈夫そうな門がそびえ立っていました。
羽をしまい、門の中を潜った先には思わず「わぁ」と声を出してしまうほど露店がひしめき合っていて、人間が大勢行き交いしていました。
人の多さに酔ってしまいそうです。
ユーリさんからこの先に大きな街があると言う事は聞いていたのですが、ここまで大きいとは思っていませんでした。先程、都会に初めて出てきた田舎者みたいな反応をしてしまったのが癪ですね。
「あ、ありました」
私の視線の先には、教会が幾つかありました。聞いた話によると、この街は神や天使に対する信仰心がとても強いらしく、至る所に教会が建てられているのだとか。
「本当に必要以上にあるんですね。そんなにいるんですかね」
なんだか信仰されている身としてはグレーゾーンな発言をしてしまった気がします。
初めは人に酔いそうなんて思っていましたが、よくよく見ると人間界の知らない物がたくさん露店に陳列されていて、なんだか少し興味が湧いてきました。
「天界へのお土産とか買っておいた方がいいですよね。そうですよね」
完全に旅行感覚になってしまった私は適当に決めた露店にふらふらと立ち寄ってみました。
品物に目をやると、綺麗な石のようなものがきちっと列をなして並べられていました。きっと店主さんは几帳面な方なんでしょうね。
「おや、お嬢ちゃん。宝石に興味がおありで?」
じっと綺麗な石を眺めていると恐らく店主と思われる方から声を掛けられました。目線を上げると、白髪混じりの男性が朗らかな笑顔を私に向けて立っていました。
「あ、あの。宝石って?」
恐らくこの綺麗な石のことなのでしょうが、反射的に質問をしてしまいました。いきなり人見知りに話しかけるから言うつもりの無いことを言ってしまうんです。次から私に話しかける際はこう、もっと、上手いことやってください。
「ああ、この綺麗な石たちのことさ。中々に高価なんだよ?」
なるほど。私が人間界に来る際に、「まあこれだけあれば暫くは生活できるんじゃない」程度の金額を貰っていますが、何となくそれでも手が届かない気がします。
縁がなかったとして諦めましょう。という事で、踵を返して立ち去ろうとすると店主さんが世間話を展開してきました。帰さない気でしょうか、もしかしてカモにされているのでは。
「最近、人攫いが増えてて物騒だよねぇ」
世間話に持ち込まれても上手く会話を繋げられる自信が無いので黙って相槌を打ち続けました。
「そういえば、天使様に貢ぎ物はもうしたのかい?」
「はい?天使様?」
気になる話題が出てきました。どうやら何のことかさっぱりというのが顔に出ていたのか、店主さんは嫌な顔せず一から説明してくれました。
どうやら、よく街に天使を名乗る者が現れて、幸福を約束する代わりに金銭等を受けるとるのだとか。
要は天使の名を使って、お金儲けをしているということでしょうか。だとしたら見過ごす訳には行きませんね、制裁を加えなくては。
「それでな、そこに人が溜まってるだろ?」
「どこを見ても人だらけに見えますが」
「そうなんだけど、あそこを見てごらん。皆天使様に贈り物をしているんよ。」
店主さんの指さす方向には、確かに異様なまでに人だかりができていました。良くは見えませんがアソコに天使様がいるんですね。
「ありがとうございます。少し見てきます」
踵を返して人だかりに向かおうとすると、想定外だったのか少し慌てた様子で「宝石、半額にするよ」と止められました。
「半額でもそこそこなお値段なのでは」
「なら三分の一でもいいよ。思い出を作って欲しいからね」
善意、にも捉えられますがそこまで価格を下げられると不信感を感じてしまいます。そもそもそんなに高価なものを露店で販売しても大丈夫何でしょうか。盗難とかリスク高くないですか。
もしかしてあまり価値のない物を明らかに購入することの出来ない金額で販売し、顔色を見て値段を提げ、お得感を出させて購入させようとするアレなのではないでしょうか。
三分の一に至ってはフレーズを用意してたかのように早かったですし。不信感を感じます、都会の闇です。
「ね?買って天使様に贈るのもいいと思うよ?」
「あ、忘れてました、天使様!」
すっかり店主さんに気を取られ天使様の存在が頭から抜け落ちていたことを思い出し、店主さんに「すみません」と頭を垂れて踵を返し、露店を出ました。
後ろから「まって! 買っていかないの!」ときこえましたがこれ以上会話を続けられる自信と金銭に余裕が無いので、心は痛みますが聞こえない振りをしました。なんだか怪しい雰囲気も感じましたし。
露店を出て、てくてくと人だかりに近付いてみると「天使様、こちらお納めください! そして私に幸福を!!」という欲望に満ちた大人たちの声がしました。
人の多さに、どうなっているのかイマイチ理解ができず立ち往生している私の袖を誰かがくいと下に引っ張りました。
振り返ってみるとそこには十歳程度の小さな女の子がくいくいと私の袖を引っ張っていました。
「あのぉ・・・・・・どうかされましたか? 」
「お姉ちゃん、あれが気になるの?」
女の子は人だかりを指さして言いました。実際気になっているので教えて頂けると助かるのですが、小さな女の子となんて話したことがなかったので、なにを話せばいいのやら。
いざ、私の人生初の幼子との対話が始まろうとしていました。
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