第2話 未熟と心

昨夜の疲れを癒すがごとく、泥のように眠る私を起こしたのは朝一番の鳥の鳴き声・・・・・・ではなく眩しいくらいに窓から入ってくる日差し・・・・・・でもなくかなり強めに身体を揺さぶってくるユーリさんでした。




「目が覚めました?おはようございます。レミリエルさん」




「おはようございまっ、ちょ、もう起きましたから揺らすのやめてください」




「朝ごはん出来てますよー」




「そうですか、あの揺らさないで・・・・・・うええ」




 何故か執拗に身体を揺さぶってきたユーリさんは「下で待っています」と言い残して部屋を出ていきました。




「とりあえず着替えましょう」




 天界から持参したバッグの中から黒服を取り出し着て、寝癖を直します。




 眠気がまだ残るまま美味しそうな匂いに釣られ、ユーリさんの待つリビングへ行くとテーブルの上にとっても美味しそうな朝食が並べられていました。






「遠慮せずに召し上がってくださいね」






「はい、頂きます!」




 昨日からろくに食事を摂っていなかったので一気に空腹感が押し寄せ、せわしなく料理に手を付けようとしている私をユーリさんは優しそうな笑みで見つめています。




 なんかもう貴女が天使なんじゃ。




 頭の中でごちゃごちゃ考えながら料理に目をやります。エッグトーストにベーコンやサラダ、これぞ朝食というメニューが並べられてます。




「どうかしら?お口に会いますか??」




「ええ、バッチリです」




ぐっと手でグーサインを作ってみせます。




「それは良かったわ」




 かなりハイペースで朝食を平らげると早速私は本題に入るべく質問を投げ掛けます。




「昨日仰っていたこの村のいざこざの話、聞かせていただけますか?」




「その事ですか?きっと、私がいけないんです」




 それってつまりどういうことです?と疑問を恐らくそのまま顔に出していた私にユーリさんは語ってくれました。




 自分が村長になってから魔物が作物などを頻繁に荒らしに来ること。ストレスの溜まった村人同士で言い争いが起こるようになり、ついに手を出すまでに発展し、さらにエスカレートするのではという不安。




 村長として全く上手く立ち回ることの出来ない無力感。




 そして前村長はとても優秀な魔道士で魔物を村に寄せ付けずに、村人に対する気遣いも完璧で悩んでいる方がいたらとてもに親身に相談に乗り見事に解決に導き、自分と比べてしまうほどにできた方だったようです。




「とりあえずユーリさんの人の良さは父親譲りだったんですねぇ」




「それは照れますね」




 きっとこの村の方々は村長に頼りすぎていたのでしょうね。




「とりあえず村の様子を見てみましょう」




 私はユーリさんに連れられ、家を出るとすぐに怒号が飛んできました。






「何度言ったら分かるんだ! 夜にも関わらずいつもいつも大声で叫びやがって!」






「はぁ!? 普通に話してるだけだろうが!いちいち難癖つけてくるんじゃねえよ」




 怒号の先へ視線を向けると成人男性が2人。物凄い剣幕で言い争いをしていました、こわい。




 とにかくこのままではユーリさんが仰っていたように殴り合いになりそうな雰囲気でしたので止めに入るべく二人の間に割って入りました、




「あの、ちょっとすみません」




「あぁん!? アンタ誰だ!!」




 完全に頭に血が上っているようで初対面の私にも火が飛んできました。




「ちょっと! 喧嘩ばかりして、頭を冷やして下さい!」




 いきなり怒鳴られて狼狽えてる私を庇うかのようにユーリさんは喧嘩の仲裁に入りました。




 なんとなく情けない気分になりましたが、この村の現状は十分把握できました。




「恐らく、魔物といっても農作物を荒らす程度でしたら低級な魔物でしょうし聖水を生成して村の周囲に振りまけば問題はないでしょう」




 仲裁を終えたユーリさんにできるだけ綺麗な水を持ってくるように伝え、私はユーリさんの家に戻ることにしました。






「レミリエルちゃん、言われた通りお水持ってきたけど何に使うんですか?」




「それはですね⋯⋯魔物を寄せ付けない聖水を作るんですよ」




 持ってきて頂いた水は特に汚染されている訳でなく、透き通っていました。これならそこそこの聖水が作れそうです。




「聖水?それって作れるんですか?」




「ええ、綺麗な水さえあれば簡単にっ!」




 水の中に天使の加護、小さな金色の光を水の中にちょちょいと加えました。




「はい!これで完成です」




「一瞬光っていたけど、特に見た目に変化はないわね」




 半信半疑、と言った表情で見つめるユーリさんを尻目に私は家を出て村の周りにバシャバシャと聖水を撒き散らしました。




「これでもう向こう百年は魔物は近寄れないと思いますよ?」




「ちょ、百年て・・・・・・そのお水、じゃなくて聖水? 本当に効果あるんですか?」




 どうやらあまり効果を期待していないようですので、またユーリさんの家で一晩止めて頂き魔物が近寄れない事を私も見届ける事になりました。




「レミリエルさん、疑うような事言ってごめんなさい」




 食事の用意をしながらユーリさんはぽつりと私に謝罪の言葉を述べました。




「気にしていませんよ。疑うのも無理ないですから」




「ありがとう。 ダメね、私結局何一つとして上手くいかなかったなぁ。これから村長としてやっていけるのかしら」




 せっかく問題が解決しそうなのに何故か浮かない顔をして独り言のように呟くユーリさん。


 まあ魔物が近寄らないと分かれば自然と元気も取り戻せるのではないでしょうか。




「レミリエルさん、次にまた村でいざこざが起きたら私、村長として解決できる自信が無いの。今回だってろくに役に立てなかったわ」




「まあ、これからではないでしょうか」




 とりあえず救済はできたでしょう。今は自分に自信がなくて不安でも明日には魔物が近寄れなくなったことを知り、また元気が出ることでしょう。




 結局、その日魔物が現れることはなく聖水の効果は敵面でした。




 次の日の朝、役目を終えた私は荷物をまとめて村を出ることになりました。




「レミリエルさん、本当にありがとうございます。これ、良かったら食べてね」




 ユーリさんは別れ際に優しそうな笑みで餞別でパンをいくつか持たせてくれました。




 そしてやっぱりどこか寂しそうな、いや不安そうな暗く沈んだ表情をしていました。


 それが少し引っかかりましたが天使としてやるべき事はやったと自負しているので私は村を後にしました。






「ここなら飛べますね」




 周囲に誰も居ないことを確認すると翼を広げて再び広大な大地を飛び立っていきます。




「ユーリさんが言うにはこの先に大きな街があるはずなんですが、まだ見えないですね」




 かなり長時間飛び続けていたので休憩として餞別で貰ったパンを食べながら、気掛かりだった事を考えていました。






「何故あんなに浮かない表情だったんでしょう」




 すっかり冷めきったパンをかじった瞬間、「あ」 と気付いてしまいました。




 きっと本当に救うべきものは、魔物でも村人の喧嘩でもなく、心。これから先若くして村長になった自分がやっていけるのかという不安、それを取り除いて自信に変えてあげることだったのでは。




 残念ながら私の魔物さえいなくなれば万事解決という勝手な思考により、ユーリさんの気持ちに全く寄り添えていないことに、悩みを打ち明けてくれていたのに蔑ろにして親身に聞かなかったことに酷く後悔の念が襲いました




「今更戻っても、何も出来ないでしょうね。あんなに良くして頂いたのに」




 すみませんと誰に聞かせるわけでもなく小さく呟き、自分の天界帰還の事しか考えずにいた未熟さを噛み締め、再び先の見えない広大な大地を飛ぶのでした。






 次は心の底から誰かに寄り添えるようにと強く願いながら。


後書き

レミリエル最初の物語の一区切りでした!!




感想くださると励みになったりならなかったり、




いえめっちゃ励みになるのでよければください。土下座!

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