引きこもり天使の救済奇譚
しゃる
第1話 17歳になった私と人間の村
『人は困難に立たされた時、意識せずとも何かに縋りつこうとします。それは神だったり、私たち天使だったり』
いい?そんな人間を救済へと導くのが私たち天使の役目なのよ。
子供の頃、親に私が口を酸っぱくして言われてきた言葉です。
あ、申し遅れました。私、レミリエルと申します。
簡潔明瞭に自己紹介をしますと天使です。腰までかかる透き通った白髪に翠色の瞳に黒い襟のついたワンピースを着込んでいるのが特徴です。
ちなみに天使ならば白衣装では?という意見が多数ありそうなので逆張しました。
・・・・・・自己紹介を終えたところで、今私のテンションは地の底です。
十七歳になった私は、不本意ながら親の言いつけで人間界で困っている人々を救済へと導かなければなりません。
なぜ、慣れない土地で見知らなぬ種族を何の見返りも無しに助けなきゃ行けないのか。
日頃家の外に出ず読書にふけるor眠る以外の事をあまり進んでしたくない私にとってそこそこ苦なんですが。
まあ、文句を言っても何も変わりません。たくさんの人間を救済しなければ天界には戻れないんですから。
前向きにです、そう前向きに、旅行とでも思えばいいのです。
「まずは、街に向かいましょう。宿を確保しませんと、初手で野宿とかありえないです」
既に人間界に到着しているのですが、いくら辺りを見回してもそこはだだっ広い草原しかなく、人間がいる気配すら全く感じられません。
「今なら羽を広げても大丈夫かも」
気だるげに私は天使の特徴の1つの羽を広げ広大な大地を突き進みます。
「結構進んだのに、まだ何も見えないですね」
私が飛び立ってから早二時間、未だに目に映るのは草木のみ。
次第に日は沈み始め、冷たい風が吹き荒れ、このままでは人間界初日に寒さで死んでしまうのでは?
「天界では寒さに困るなんて事はなかったし、この世界はとてもハードなんじゃ」
マイナスに偏った思考と焦りで、なりふり構わず飛ぶ速度をぐんぐんと速めました。
さらにもう一時間たち、すっかりあたりが闇色に包まれた頃、草原だらけの景色に終わりを告げました。
「あれ、もしかして街ですか? あれが?」
私の目に映ったのは街と呼ぶにはあまりに寂しい厳密に言うと小さな村がありました。
助かった、泣きそう。
「今夜の寝床を探さないと」
羽をしまうと私はボソリと呟き、そして今まさに初めての人間との触れ合いが始まろうとしていたのでした。
「上手くコミュニケーション取れるでしょうか」
村の質素とも言える門をくぐり、中に入ると小さなお家が幾つかひしめき合うように建っており、その中に一つだけ明らかな目立つ大きな家がありました。
「アソコのお家は裕福なのでしょうか? 天使一人泊めるくらいわけないのでは」
結果、私は救済どころか救済されよう精神で大きな家の扉をドンドンと叩きました。
「ごめんくださーい」
「はいはい、こんな夜更けにどなたですか?」
私が扉を叩くと中から肩までかかった黒髪、鳶色の瞳が特徴的な妙齢の女性が出てきました。
いざ、初めての会話です、堂々と行きましょう。
「あのっ、わたひっ!!」
噛みました。辛い死にたい再先不安。
「えっと、大丈夫ですか?」
「まあ、なんとか」
今まで独り言や独白のみでしたが実は私あまりコミュニケーションが得意ではありません。行動力はあるのですが、トーク力は突拍子もない事を言ってしまったりそこそこに低いのです。
「その、天使なんですけれども今晩泊めて頂けませんか?」
「はぁ、天使ですか?」
女性の私を見る目が一気に不信感に変わるのを感じました。
そうだ、相手は人間、天使だなんて言って信じてもらえるわけが無い。
「なんでもないです。申し遅れました、私はレミリエル、旅の者です。実は今夜の宿がなくてそのぉ⋯⋯」
とりあえず仮の身分を作った私に女性は何を言いたいのか察したようにこう言いました。
「あら、旅人さん? もう夜も遅いしよければ泊まっていって」
お優しい方なのか、すんなり話が通りました。有難いけど警戒心・・・・・・。
「私の名前はね、ユーリよ。こう見えてこの村の村長なの」
お家に上げて頂き、温かいコーヒーを淹れて頂いた所で彼女はユーリと名乗りました。
「村長さん? 随分とお若いんですね」
「ええ、先月父が亡くなってその代わりに私が・・・・・」
一瞬彼女の表情が暗く沈んだのを見て、ろくな返答が思い付かなかった私は、これ以上の追求をやめました。
「明日になったら村を案内します。と言っても狭いし少しだけ荒れているんですけど」
「荒れている??」
「私が村長になってから、魔物が作物を荒らすようになって、そのおかげでストレスの溜まった村民同士での喧嘩が多くて。父が存命の頃はこんな事なかったのに」
ユーリさんは大層落ち込んでいる様子でした。初対面の私でも分かるくらいに、 実際うなだれています。
聞く所によるとユーリさんの父親は生前、魔道士だったそうで、存命の頃は魔物を祓っていたため村には何も寄り付かなかったそうです。
そして村人の喧嘩ならそこまで気を落とすこともないのではなんて思いましたが彼女からしたらとても重要な問題のようでした。
落ち込むユーリさんを尻目に天使の使命感を感じました。
これは、私の初仕事なんじゃないかと。
「ユーリさん、その問題、私に解決させて頂けませんか」
「ええと、解決って言ってもアナタはこの村に来たばかでそんな事を言われても⋯⋯」
「ええ、確かにまだこの村の事を何も知りません。けれど任せてください」
突然の提案にユーリさんはかなり困惑している様子でしたが、結局時間をかけてかなり強引に言いくるめました。
この村の問題解決さえすれば救済になります。そうすれば私の実績も増え、天界帰還も早くなるというメリットがありますので正直この件に関してかなり乗り気でした。
私も伊達に天使じゃありません、ただ魔物を祓い、村人たちの中を取り持てばいいのです。
案内していただいた二階の寝室のベッドにぼふりと横になり、だんだんと瞼が重くなっていくのを感じました。そういえば、慣れない地を長時間の飛行でとても疲れていたんでした。
「頑張りましょう、明日から」
私の意識は来るべき明日に備えそのままだんだんと沈んでいきました。
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どうもしゃるです。カクヨムに来たばかりで右も左も分からない駆け出し者ですが頑張って描きました。
主人公、レミリエルの成長や奇譚と言うように珍妙なキャラクターたちと物語をかけたらなと思っております。
ブックマーク、評価、レビュー等々良ければお願いします
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