第13話 食事の誘い
「そう…ですか。なるほど、それは好都合だな。しかし、そこまで王政の統率が取れていないとは、想定以上に時間が無いようですね」
納得してもらえたようで安心ね。でも何が好都合なのかしら? うーんまあ、それは別にいいかしらね。さて、何か考え込んでいるようだし、皇子の疑問もこれくらいみたいだから宿に戻りましょう。
「あ、すまない。待ってくれ」
……また? できれば早く休みたいのだけど、今度は何かしら。
「ああ、何度も呼び止めてしまい申し訳ない。デュレンとミリアさんは食事の方はどうするおつもりで? もし宜しければ、一緒にどうでしょうか。まあ、基地の中なのでそれほど良いものが出せる訳でもないのですが」
食事の誘いかぁ。本当なら断りたいところだけど、皇子からの誘いだし断り辛いな。まあ、宿より良いものは出してくれそうだけど、宿の方はもうお金払っているのだけどどうするべきか。
「あの、宿の方にもう料金を支払ってしまっていて」
「それでしたら私がこの件について宿の方へ言ってまいります」
「え、あ、そ…そう。なら良い…のかしら?」
うぐぅ、私が断ろうとしたところでデュレンに逃げ道を塞がれてしまった。いや、明らかに断ろうとしているのになんでそんなことをしてくれるのかしら?
「ああ、それは良かった。では私に付いて来てくれ。デュレンはここに案内役を置いておくから、用が済んだらここに来てくれればいい」
「了解しました」
くそぅ。これは分が悪い。と言うかデュレンは私よりもオルセア皇子の方の優先度が高い気がするのだけど、どういうことなのかしら。まあ、お父様の部下であって私の従者とかではないのだから、私の意見は優先度が低いのかもしれないけど、それでも皇子よりも優先度が低いってやっぱり皇子と元から関係性があったってことなのかもしれないわね。
そうしてオルセア皇子に付いて今までいた兵舎とは異なる建物の中に入って行った。そこには既に食事が人数分用意してあった。そう、私の分まで用意してあったのよ。
それは、最初から私を食事に誘うつもりだったという事であり、逃げることも出来なかったのだと私はその光景を見て理解した。
夕食は普通においしかった。確かに公爵家で食べた料理に比べれば味も見た目も落ちる。だけど、国境付近にある基地の中でと考えれば十分な質だった。それに、屋敷に専属料理人として仕えているならまだしも、基地の中に居る料理人は兼業のはずだ。まあ、皇子が居るから腕がいい人が料理しているだろうけど。
「おいしかったわ。想像していたよりもずっと」
「そう。それはよかったよ」
皇子はとても安堵した表情でそう漏らした。まあ、自分から誘った点前料理を出して不味いと思われたら嫌だろうしね。
と言うか、結局デュレンはここには来なかった。確かに料理は用意してあったからそのうち来るだろうと思っていたら、使用人だから一緒に食べることは出来ないとか言って別室に料理が運ばれていった。いや貴方、皇子と親しそうに話していたよね? 明らかに使用人とかの範囲は超えていたと思うのだけど!?
もう過ぎたこととは言え、その所為で皇子と2人きりで食事をする羽目になった。まあ、食事中に話をするのはマナーに反するのであまり会話は無かったのが救いかしらね。その代わり食事中頻繁に私を見て笑顔を見せつけられたのだけど。結局あれは何だったのかしらね?
「でも、さすがに普段からこのような感じの物が出て来る訳ではないのでしょう?」
「ははは、やはりわかってしまいますか。確かに毎回このような物でしたら、予算が直ぐに尽きてしまいます。これはあくまで要人などの重要人物が来た時だけですよ」
「ふふ、そうですよね」
重要人物ねぇ? デュレンのことかしら、それとも私? まあ、ここまでの反応的にはデュレンのことだと思うけど。どうなのかしら。
「ミリアさん。貴方も十分に重要人物ですよ。むしろデュレンより重要度は高いのですからね?」
「え…そ、そうかしら?」
もしかして表情に出ていたのかしら。考えていたことを言い当てられてしまったわ。
「…そうだと良いのですけど」
ミリアの記憶を辿った感じで今までの扱いを鑑みると、公爵家の者とは言え所詮は家を継ぐことは無い小娘だからってかなり軽く扱われていたみたいなのよね。まあ、王国に居る貴族の多くが腐っていたとは言え、ずっと雑に扱われていれば期待もしなくなる訳よね。私はこの体になってあまり時間も経っていないから何とも言えないけど、ミリアにとってどんなに努力してもいつも同じような反応しか返ってこないって言うのは、かなり精神的に堪えていたみたいだし。思わせぶりな態度とかにはあまり良い感情が出てこないわね。
「本当のことですよ」
「あ、いや…でも」
「僕を信じてください。…って今日会ったばかりの僕の言葉はあまり響かないでしょうね。なので、何れ今言ったことが本当だったと信じてくれるまで僕は努力し続けますね」
え? これって何かオルセア皇子に目を付けられたという事なのかしら? と言うかこの皇子もちょっとおかしい方だったのかしら。
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