第3話 夜会に参加する (滞在時間は数分)
夜会の会場に入る。すると、予想と言うよりゲームの流れと同じように入口から少し離れた位置に公爵令嬢の婚約者である第2王子とゲームの主人公である子爵令嬢がこちらを確認していた。
私はその様子を確認して直ぐにそこへ向かった。
「こんばんわ、グレテリウス王子。この場は夜会ではありますが、婚約者がいる身で未婚の令嬢と親密に会話をするのはどういう事ですか?」
ゲームだと公爵令嬢が王子の様子に気付くのはもう少し時間が掛かっていたけど、いちいちあれこれやって時間が掛かるのは面倒なので、一気に話を進めて行こう。
ゲームとは違う流れでやってみたけど、この後の反応はどうなるのかな?
「え? ああ済まないミリア。えっと、私との婚約を破棄して欲しいんだ。私は…真実の愛を見つけたんだ!」
「あ、お願いします。私は王子を本当に愛しているんです」
王子は何だろうか、台本を読んでようやく全部のセリフが言えたって感じの、よく出来ましたって言いたくなる話し方だった。
ゲームだと何故か公爵令嬢の視点で婚約破棄の話になるからわからなかったけど、もしかしたらゲーム内で王子と主人公が話しているシーンは完全に仕込みだったのかもしれない。
主人公である子爵令嬢に関しても王子が言い淀んだことに何か思うところがあるのか、ゲーム内の話から少し違う言い方だった。
「そうですか。なら邪魔な私はこの場を去りましょう。では王子、それと取り巻きの皆さん」
私はそう言ってさっさと夜会の会場を後にした。手を振ってその場を去る前に周囲を確認すると取り巻きの野次馬が集まり始めていた。もう少し話すまでに時間が掛かっていたら野次馬に扮した取り巻きに囲まれていたかもしれない。それを考えると直ぐに外に出てきたのは正解だった。
夜会会場から出て直ぐの所に先ほど付随して来ていたメイドが待っていた。まあ、待つように指示したのだから当然だけど、居なくなっていないことを考慮すると少なくともこのメイドは王子側ではないのだろう。もしかしたら公爵家のメイドなのかもしれないけど。
「お嬢様。お早いお帰りでしたね。何かございましたか?」
「ええ。まあ、予想通りだったけどグレテリウス王子から婚約破棄の申し出があったわ」
「は? ええ? 何故そのような事に?」
「よくわからないけど、王子は真実の愛を見つけたそうよ」
「は?」
さすがに理解できる限界点を越えてしまったのかメイドはそれ以上言葉を出すことは無かった。
「とりあえず控室へ戻りましょう」
「あ、はい!」
控室に戻ってくる頃にはメイドが大分冷静になり状況を理解したようだった。明らかにさっきとは異なり怒気を隠せてはいない。この様子からこのメイドはこのミリア公爵令嬢のお付きのメイドのようだ。
「この話は旦那様に通しておかなくてはなりませんね」
「そうね。でもその内王族側から婚約破棄についての書面が届くと思うわ」
「そうでしょうね。この婚約は王族とレフォンザム公爵家との公式なやり取りで取り成ったものですから」
メイドもこの婚約破棄についてお冠のようだ。まあ、このやり方だと公爵家としての顔を汚されたようなものだし、そもそも正式な場面でもないのにその話を出したのもマナー違反ではある。
今後の展開を知っている身からしてみれば、ここまでの展開は予想通りなのでそこまで怒りは湧いてこないのだけど、今後のことを考えればどうにかしなければならないことははっきりしている。
「ああ、そういえば王子ルートのバッドエンドで王国は乗っ取られていましたね」
あのゲームは基本的にバッドエンドがない。ただ、王子ルートだけは何故かバッドエンドが存在していた。4つあった王子ルートで普通だったらあり得ない選択肢を選び続けることで行きつくバッドエンドは、隣国のアルファリム皇国に侵略されて王国は滅ぶというものだ。
その際に主人公と王子は一緒に居るところを皇国の兵士が放った矢がお互いに刺さって死ぬという展開だ。そのシーン自体突っ込みどころが満載で、何で室内なのに矢が2本以上飛んできているんだとか、王子なのに率先して部屋に逃げ込んでいるのはどうなんだ、などと言われている。
私はそのシーンの段階でこの世界観だとそういう物として扱っていたので何とも思わなかったけど。
「お嬢様、何か言いましたか?」
「独り言よ。気にしないでいいわ」
「そうですか」
とりあえずバッドエンドルートになるように画策していこう。
おそらく、これ以外でミリア公爵令嬢がまともに生きられるルートは存在しなさそうだからね。
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