第2話 夜会の準備(記憶の確認)
思い返してみれば、記憶があるのはそこまで。
あの後何があったのだろう。とりあえず、そこで意識が途切れている感じだから、気を失った? そういえば凄く雷が鳴っていたような。もしかして雷に当たったとか? まさかとは思うけど、否定も出来ない。
まあ、夢なら冷めるまでは公爵令嬢として過ごさせてもらおう。
そんなことを考えているとさっき鏡を持ってきたメイドがブラシ何かを持って隣で待機していた。
「本当に大丈夫でしょうか。何やらいつもと雰囲気が違うように感じられますが」
「大丈夫よ。髪の方、直してもらっていいかしら?」
「はぁ、わかりました。何かあったら言ってくださいね」
そう言ってメイドは私の髪を整え始めた。すごい髪がサラサラなのがわかる。いつもだったらすぐにブラシが止まるくらい癖毛だったのに、何の抵抗もなくブラシが通っていく。やっぱり貴族の令嬢ともなると相応のケアはしているんだね。
そんなことを考えている内に髪の手入れは終わったようだ。
「そういえば、グレテリウス王子の姿が見えませんがどうしたのでしょう。夜会の時は何時もお出迎えに来られておりましたのに」
メイドは辺りを見回して他の人が居る痕跡を探しているようだ。
グレテリウス王子。確かメインの攻略対象だったはず。夜会と言うとゲーム内だと何回かあったけど公爵令嬢が夜会に出て来るのはゲームの中盤だけだった。しかも立ち絵の登場がそれきりで次に出るのは公爵令嬢が自殺したという1行の文章だけだ。明らかに重要人物のはずなのにそれしか出ないのはおかしいけど、ストーリー上はそうなっている。
そうなるとゲーム内の時期から考えれば、今がちょうど主人公が王子をちょろまかしたくらいになるはずね。
あれ? と言うことはこの後この公爵令嬢は婚約破棄されてフェードアウトしていく展開になるのでは? しかも、知らないうちに自殺する展開だし。
そもそも今の私の状況を考えてみればネット小説に良くある展開? もし、現実に戻れないとなると、ここで今後の展開をどうにかしないと私(公爵令嬢)は死ぬってことになってしまうのでは?
状況をみて考えを巡らせる。
少なくとも現状はあまりよくない状況かもしれない。
この後の話の流れは、公爵令嬢は夜会に出て、そこで王子とゲームの主人公の子爵令嬢が仲良くしている所を見つけて問い詰める。すると、突然王子から婚約破棄の話を持ち出される。って感じ。当然ゲームの展開上主人公の方を持ち上げる取り巻きが出て来て、公爵令嬢は何も出来ずに婚約破棄を呑まなくてはならなくなる。そして公爵令嬢はフェードアウトと言う流れだ。
はっきり言って、このゲームをやっている時はバカバカしい流れだと思った。普通に考えても、夜会の最中に公爵令嬢に婚約破棄の話を持ち掛けるように王子に諭す主人公がどこに居るのだろう。まあ、このゲームの中には居たんだけど。
そもそも何で王子はこの話に乗ったのかも理解は出来なかった。まあ、このゲームに出て来た登場人物の大半はどこか変なところがあったから、この国の国民性がそんな感じなのかもしれないとも考えた。いや、それでもおかしいと思ったけどね。
ともかく、この後の展開を考慮した上で行動しなければ、起きた時に目覚めが悪い感じになりそう。
どうするべきかを考えている内に時間になったので、夜会の会場に向かう。
案の定王子は公爵令嬢の控室には来なかった。と言うことはあのゲームと同じ展開になるのだろう。今は公爵令嬢になっている以上、貴族の令嬢としてなるべく顔に出さない様に意識しているけど、いやな気分にはなるよね。
この後いきなり婚約破棄してくるのがわかっていると、いやでもそれを意識してしまう。
これが完全に馬鹿な王子とかだったらなんとも思わなかったけど、ここの王子は別に嫌な奴という訳じゃない。常に嫌味を言っているよう俺様王子とかではなくて、単に思考回路が緩いだけのダメ王子と言うだけで。
グレテリウス王子は王子としては失格と言えるけど、結婚相手と考えれば性格は優しい方だし、器量も良いし、そこまで悪くはないと思う。それにダメ男好きのコアなファンが居るとも聞いたことがある程のキャラクターなのだ。
この話の流れは、設定上流されやすい性格だったからこその展開だと思うけど、この後の流れはゲームと同じ展開になるようにしなければいけないのかなぁ。
いっそのこと直ぐに引き下がった方が精神的に楽になるよね。だったらさっさと終わらせた方が良い。
話の流れからどう対処していけばいいかを考えている内に夜会の会場に到着した。
ゲームの背景にあった見覚えがある扉だ。この先は令嬢たちの戦場。我先にと言い男に言い寄ろうと裏で画策し、ライバルを蹴落とすと言ったことを平気でやる令嬢が多くいる場所だ。ゲーム内で体験したから知っているけど、今の王宮内も貴族内もかなり腐った環境だった。そんな中の夜会。面倒だから、はっきり言って入りたくはない。
でも入らないと話が進まないから、今の私に拒否権は無いのよね。
「では、お嬢様。行ってらっしゃいませ」
そう言って付随して来たメイドが会釈してから下がった。
「ええ、行ってくるわ。ああ、でももう少しここに居てくれる? 何となく嫌な予感がするのよ」
「え? あ…いえ、了解しました」
少し戸惑ったような対応をしたメイドだったけど、私の言葉の意味を感じ取ったのか今までに見せた態度よりも畏まった様子で頷いてきた。
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