第4話 父親(公爵)を巻き込む


 翌日、昼頃に公爵家の屋敷に戻って来た。屋敷の中の雰囲気からどうやら婚約破棄の話は既に伝わっているようだ。


「戻りました。お父様は執務室かしら?」

「ええ、執務室の方にいらっしゃいます。ですが今から行くのはよした方が良いかもしれません」


 ミリアの父親であるレフォンザム公爵にもしっかり婚約破棄の話は伝わっているようだ。ミリアと第2王子との婚約は父親である公爵が進めた物なのだから、断りもなしにいきなり破棄してきたら、それはもう怒髪天ものだろう。


「いえ、大丈夫よ。行ってみるわ」


 私を心配そうに見ていたメイドにそう言って断ってから、父親の執務室に向かった。



「お父様、ミリアです」


 執務室のドアを軽くノックしてから中に居るはずの父親に声を掛ける。


「ああ、ミリアか。少々立て込んでいるのだが……いや、入りなさい」


 まあ、夜会での出来事に関することで抗議文やら何やらで取り込んでいるのだろう。ただでさえ公爵である以上、貴族としての責務は大きいし、持っている領地もある。おそらく夜会の情報が回って来てから一度も休んでいないのだろう。

 ドアを開けて執務室に入る。予想通り少し疲れた様子のレフォンザム公爵、ミリアの父親が執務机に大量の書類を抱えて、その書類を処理していた。


「戻りました。お父様」


 普段、この親子がどのようなやり取りをしているかわからない以上、それっぽい感じに進めて行く。下手に怪しまれると今後の計画に支障を来すので慎重に話を進めて行こう。


「ああ、お帰り。昨日の夜会は散々だったらしいな。こちらにも色々と話が入って来ている」

「色々…ですか? 昨日の夜会ではそこまで言われるほど長い時間は参加していなかったので、そこまで言われるほどの内容は無いと思うのですが」

「む?」

 

 どうやら在ること無いことを言い触らしている輩が居るようだ。まあ、ゲームの内容から精神的に追い込んで自殺させているくらいだから、まだ序の口だと思うけど。


「私の所には第2王子から直接婚約破棄を言い渡された、新興子爵家の令嬢に言い負かされた、何も言い返せずに泣きながら会場を後にした、など、他にもいくつか細々としたものまで届いているが、どこまでが本当なのだ?」

「最初の婚約破棄の話以外は嘘ですね。子爵令嬢に関しては王子の隣に居ましたが、話は一言も話してはおりませんし、泣きながら会場を後にもしていませんね。誰がそのような事を言い出したのでしょうか?」

「…ふぅむ?」


 虚偽の報告を受けていたことに対して考えているのか、それともその話の出所について考えているのか。どちらにせよこちらから王国を乗っ取り計画の話を切り出すにはもう少し、タイミングを見計らは無いといけないわね。


「とりあえず夜会のことは理解した。しかし、婚約破棄についてはどうなっているのだ? 私には何の話も通されていないが」

「それに関しては私もわかりません。昨日、突然言われたことなので私も驚いているのです」

「そうか。王族への抗議文は今朝がた送ってはいるが、さてどうなるか」


 抗議文を送っても良い返事が来ないことは理解している。それは公爵も同じようだ。貴族である以上、こういった無駄な行動でもやっておかないと下に見られる可能性があるから形だけの抗議文だと思うけどね。


「この際、王子との婚約に関してはもういいと思います。それよりも私の今後のことを考えなければなりませんね。すでに嫌な噂が出回っているようですし」

「ああ、確かに。だがどうするつもりだ? 今まであった他の家のことを考慮すると簡単にはいかないはずだ」


 なるほど、今までもゲーム内のミリア・レフォンザムと同じように自殺に追い込まれた令嬢ないし令息が居ると言うことか。ゲームのシナリオだと不要な部分だから語られてはいなかったけどそう言うことね。どおりで場の作り方や協力者の手配なんかが慣れた手口だった訳だ。


「おそらく火消は間に合いませんね。そもそも手数が違うので太刀打ちできないとも言えますが」

「ふむ、まあそうだろうな」

「なので、やるだけ無駄なので噂に関しては何もしません。その代わり私はこれ以降療養か何かを理由にして表に出ないようにします。そうすれば下手な噂は出回らなくなるでしょう。まったく無くなると言うことは無いでしょうけど」


 まず計画を進める上で最初の段階でこの国の貴族に関わる必要は無い。なので引きこもっていることを理由にして表に出てこない理由を作る。その上で変装なんかをした上で暗躍を進める。

 計画を進める上で最初に会わなければならない相手は、隣国であるアルファリム皇国の皇子であるオルセア・アルファリムだ。こいつに会わないと計画が進まないので早めに会いに行きたい。


「それとお父様には申し訳ないのだけど、私はこの王国に見切りを付けました。お父様は私を王子に嫁がせて内部から影響力を高めようとしていたようですが、もうそれでどうにかなる段階は過ぎてしまったと思います」

「な!? 気付いていたのか!?」

「気付かない訳がないでしょう? あれだけ王国に尽くして来たのに、王が代わって直ぐに大臣だったお父様を王城内から追い払われたのです。それにも関わらず、王族に嫁がせようとするならそれぐらいの理由があって然るべきですから」

「そうか。すまない。そうしなければこの国は留まることなく腐敗していくと想いそうしたのだ」


 まあ、やり方は色々あっただろうけど、少なくともこの公爵家は今の王宮にとどまっているゴミ貴族から警戒されている。そんな状況でどうにかしようとしたら娘を影響力を持つようなところに嫁がせるくらいしかなかったのだろう。


「いいのです。そうしたことも理解できますから。ただ、もう王政に関わる貴族たちの暴走はどうにもできない段階に来てしまっています」

「なら、どうすればいい?」


 このレフォンザム公爵は長く王政に関わって来た。それも公爵である以上、成人する前から関わっていただろう。だから今の王国の現状をどうにかしたいと常に考えているはずだ。しかし、自身よりも王政に近い位置に居た娘にどうすることも出来ないと断言されて、どうしていいかわからなくなってしまったのかもしれない。

 だからこそ今が計画の話をする絶好のタイミングだ。


「ならお父様」

「なんだ?」


この国・・・乗っ取ってみませんか・・・・・・・・・・?」

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