第13話 抱く
デューンが車で迎えにきて、一緒にグリンの赤ちゃんを見に行く。
ヒュィオスと名づけられた、グリンと同じサファイアブルーの瞳を持つ男の子だ。
生まれた直後、〈誕生祝いの
グル・クリュソワも、仔猫をじゃらすように孫をくすぐったりしながらちょっかいをかけ、面白がっている。
「沐浴ならワタシにまかせなさ・・・」
「ダメよ! 師匠は。沐浴は」
グリンが生まれた時、グル・クリュソワがへその緒をカットし、グリンに産湯を使わせ、湯切りしようとしたら、
「振っちゃダメ! キャベツじゃないんだから」
と怒られていた。
「やぁ~、毎日すったもんだで寝不足で、グリンもイライラしちゃってるものだから、誰かが来てくれて、ヒュィオスを抱っこしててくれるだけでも助かりますよ~、精神的にも」
と、グリンの夫。初めての育児はどこの家も大変だ。
ほやほやのヒュィオスをデューンが抱っこするさまは、お供え物を捧げ持つみたいだ。ヒュィオスがすぐにぐずり始めると、グルが横から、デューンの腕のなかへすっぽり収まるように手を貸した。堅物も変人も、赤ちゃんに見せる顔は優しい。
神様からの祝福が体温を与えられて受肉した命が赤ちゃんだ。ほかほか
ドーレマもヒュィオスを抱っこさせてもらい、無意識に顔がほころんでしまうが、ふと、こんな赤ん坊の姿と命を持ったまま、自分もモイラも捨てられていたのだな、と思った。
自分たちを捨てた親は、何をどう思いながら、生まれたばかりの赤ん坊を墓に捨てたのだろう・・・
ヒュィオスを抱っこするドーレマの肩をデューンが抱き寄せ、ふたりでヒュィオスをこちょこちょしながら愛でている。
「こっちもパパとママみたいね」
束の間、育児ストレスから解放されて、余裕の冷やかしを飛ばすグリン。
赤ちゃんの真っ
肉親から無条件の祝福を受けて生まれてきたヒュィオスと、墓に捨てられたドーレマ。じいちゃんが拾って愛情を注いでくれて、人らしく生きることができたのは、たまたまラッキーだっただけだ。
生まれながらの格差・・・というものがあるのだな・・・。
ジュピタンのサラブレッドのデューンと、どこの馬の骨だかわからない自分を比べて、卑屈な気持ちになった時のことを思い出した。
家の祭壇に並ぶ
墓地の西端に、じいちゃんとドーレマが
じいちゃんが発見する前に死んでいたら、警察に届け出られた後、〈無縁魂〉として葬られていた。
だれか他の人が見つけて届け出て、保護施設で育ち、公費で教育を受け、仕事を得てそれなりに自立していた。
実の親が名乗り出て引き取られたはいいけれど、虐待を受けて傷ついた。
なにかの拍子に生き別れになった肉親と涙の再会を果たすが、お互いギクシャクして思ったほど幸せでない。
実は月世界のお姫様だった、なんてお伽話は
大きすぎるリビングのテーブルの隅っこに肘をつき、〈もうひとつの運命〉を、ドーレマはあれこれ思い描いてみる。
その夜、ドーレマの夢に怪しいやつが入ってきた。こちらから頼んだわけでもないのに、勝手に入り込んできやがった。
『ドーレマさん、いじけてる場合ではありませんよ。明日は農協さんが
『あーそうだった。・・・・・・だれ?』
『アナザフェイトです』
『あー、生きられなかった〈もうひとつの運命〉ね。わざわざマーズタコ湖から、ご苦労なこった』
『通し番号を訊いてくれないのですか?』
『どうせ覚えてないんでしょ?』
『それがぁ~、ワタクシ、自分の番号を覚えておるのですよぉ~』
『えっ?』
〈それはすごい! 自分の個体識別番号を覚えてるアナザフェイトなんて・・そんなやつがいるのか?〉
『・・・では何番?』
『10の*********乗』
『・・・・・・・・』
『ジャストな数字なので・・・あ、そんなにびっくりしないでください』
『あ~たまげたぁ~。宝くじに当たるより凄い天文学的確率だ』
『でしょ?』
『で、なにしに来たの?』
『明日は早朝から忙しいでしょうから、寝不足になってはいけないので、単刀直入に申し上げますがぁ~』
『どうぞ』
『ドーレマさんのアナザフェイトは、〈はずれ〉です』
『へ?』
〈えーっと、えーっと・・・どういう意味だっけ?〉
『個体識別番号が大当たりすぎて、あなたのアナザフェイト総体は大はずれ。以上、取り急ぎ用件のみにて失礼いたします』
なんだ? こいつ・・・。
早朝、目を覚ましたドーレマは、アナザフェイトとのやり取りを思い出し、その意味に合点がいくと、ひとりでクスリと笑った。
「さ、働こ」
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