第8話 わかる
週末に
そのうちに、いろいろなことがわかってきた。
デューンは幼稚園から高校までずっと、第五大附属に通っていたそうだ。レイヤはジュピタンでは中流の一般家庭出身だが、グル・クリュソワは研究者の家系。デューンはほとんどサラブレッドだ。
ドーレマは、大学とは反対方向の北部地区校区の公立小・中・高の出身だった。
グル・クリュソワは、じいちゃんのところへしょっちゅう来てたのに、家庭の話をしない。プライベートに関しては、ベジタリアンであるということ以外、ほとんどわからなかった。
じいちゃんの養女が息子と同じ学年で、娘と同じ呪術学部に入ったというのに、
『うちの子も・・・』
とか、そういうことも話さず、生活の匂いがしない、謎のセンセイだったのだ。
グリンも、呪術学部の学生が現場へ赴くのは実習の時くらいだから、実習で北部墓地へ来ても、これまではドーレマと顔を合わせる機会もなかったみたいだ。
「北の墓守の家のバラ園が素晴らしいって、ここへ実習に来た友達も口を揃えていたわ」
先輩呪術学生たちの間でも、ここのバラ庭は知られていたらしい。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「弟と私ね、ネプチュン鳥島の墓地に泊まったことがあるのよ」
テッラ産茶葉の煎茶をすすりながらグリンが言う。
「ネプチュン鳥島!?」
ドーレマとユキちゃんが驚いた。
「知ってるの?」
グリンとデューンも驚いた。
また思わぬところで接点があったものだ。
グリンとデューンは、この年度が始まる前の休暇のとき、ネプチュン鳥島へ旅行していた。
グリンの実のお父さんがネプチュン鳥島の人だという。グリンのサファイアブルーの瞳と、バラのようないい香りは、ネプチュン鳥島人の遺伝子だったのだ。
レイヤが大学院生のころ、グル・クリュソワのラボでバイトしていた。ネプチュン鳥島からジュピタンへ来ていた若者二人がそこへ通い、一時期共に研究した。そのうちの一人がグリンの父親だ。
翌年、レイヤはグルのラボへ立ち寄った際、急に陣痛が来て、そこでグリンを出産した。そのままグルはグリンを育てることになり、レイヤと結婚して後にデューンが生まれた、というわけだ。
グリンの実父は結局、グリンの存在を知らないまま亡くなった。
「墓地の丘は、ビイル薔薇のお花畑のなかに彫刻作品を並べたみたいにバラ色の墓石が並んでいて、そこがそのまま天国みたいだったわ」
姉弟は、ネプチュン鳥島に滞在した初日と最終日に、グリンのお父さんのお墓の前で野宿した。
島じゅう、ビイル薔薇の花と香りに包まれ、夕焼けは息をのむほどの絶景。亡き実父の両親や友人たちと有意義な時間を過ごし、グリンは実父の魂と触れ合い、遺品からデューンは今後の研究に役立ちそうなヒントを得て帰ってきた、という。*
墓守の家の祭壇に祀ってある、じいちゃんの妻子の遺魂を、ドーレマはグリンたちに見てもらった。それは、ネプチュン鳥島の石。
「リトスロドエイデースネプタイトだね」
デューンが紙に組成式を書く。ネプチュン鳥島ではどこでも、そこらへんに転がってる石。建造物も、ついでに墓石も、そのなんとかかんとか石が使われているそうだ。
大学に近いデューンの家でよく一緒に勉強しているスィデロくんが言う。
「あれ? デューンの部屋にも、こんな感じの石、なかったっけ? 形は違うけど」
「こっそりポケットに入れて持ち帰ったの?」
パトスじいちゃんの新婚旅行のときみたいに・・・。
即答をためらっているようなデューンの横から、グリンがさらりと答える。
「
離れ離れになる家族などが、互いの魂の一部を石に載せ、二つに割って交換しあい、無事を祈りあう、
ネプチュン鳥島の親族との間に交わしたのだろうか? それならなぜグリンじゃなくてデューンが持ってるんだろう?
ドーレマの心に直感的に浮かんだ〈疑惑〉を、ユキちゃんが引き取る。
「どなたとどなたの
「えっと・・・」
およそ45度上方へ視線を泳がせ、口ごもるデューンの表情に、困惑の色を読み取ったのはグリン。感情をあまり顔に表わさない(表わせない?)デューンだけど、ちょっとばかりうろたえている。
〈はは~ん、さてはデューンのやつ、ドーレマちゃんが気になるのか?〉
グリンはちょっとからかってやりたくもなり、助け船を出してやる代わりに、デューンが自分で答えるのを黙って待つ。
ようやくデューンが続けた。
「姉ちゃんのとーさんの弟の元カノの子ども。と、おれたち」
「は?」
石の組成式の横にスィデロくんが相関図を書く。そこへグリンがその子の似顔絵を、ほっぺにぐるぐるナルトをつけて描きこんだ。ヘタクソだけど、純朴そうな女の子、ということがわかる絵だ。
「バーラちゃん、っていう高校生の子よ」
ちらっとデューンに目をやりながらグリンが言う。
家の前で拾った石を、
『面白い形できれいだからグリンちゃんたちにあげる』
と、バーラちゃんがくれた石を、グリンがデューンに持たせ、バーラちゃんの手を被せ、自分も手を添えて、
遠距離恋愛のカップルの間でも交わされる
〈デューンと、ネプチュン鳥島のバーラちゃん、か・・・〉
ドーレマにもデューンにも、こころなしか〈影〉が差す・・・ように思えたユキちゃんとグリン。
「三人の友情のしるし、ってことで・・・」
最後はグリンがフォローしてくれた。
*(もうちょい込み入った背景がありますが、そこのところは『薔薇の墓標☆ディープ・ブルー』をご参照いただけるとありがたいです)
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