第7話 忙しい
忌引きの休みを取ったドーレマは、週明け、レイヤの自宅兼オフィスへお礼に出向いた。
祭式の費用は役所へ支払う決まりになっている。呪術師へは役所がピンハネしたあと、報酬が振り込まれるのだ。だから金銭のやり取りはできないので、バラをどっさり摘んで花束を作り、持って行った。
レイヤは、この日は別の
「まだ気が張ってるでしょうけど、落ち着いてきたら淋しくなるわ。辛くなったら、無理せず、お友達や周りの人たちを頼っていいのよ。これからは、うちの子たちもたまに派遣するから、使ってね」
そんな・・・グリンさんやデューンさまをよこしてくださるなんて、もったいない・・けど嬉しい。・・でも悲しい。
墓地の仕事には、役所が雇ったパートのおばちゃんが週三日、通ってくれることになった。ドーレマも、学業の傍ら、朝夕は花畑の手入れをしたり、無資格でもできるちょっとした
しかし・・・頼もしい助っ人がいるのだ。
週末ごとに一緒にリビングで勉強するユキちゃんが、バラの手入れを手伝ってくれている。大学でも毎日のように会っているが、ここへ来ると、平日とは違った表情になるのが面白い。
すでに、じいちゃんとはロザリアン同志として仲良くなっていたし、ここのバラ園のバラたちをすっかり覚えてくれている。
バラ野原東征への野望は、じいちゃんを凌駕するほどじゃないかと思うくらいだ。
ほんとにもう、ユキちゃんには頭が上がらない。いっそここに永住してくれないかな。部屋も空いてるし。
ゼミの仲間たちも、そろそろ実習の予行演習(?)がてら、ってことで、空いた時間に墓地へやってきて、ちょっとした仕事を手伝ってくれるようになり、前から出入りしている人々も相変わらずやって来るし、なかなか賑やかな北部霊園墓地になってきた。
でも、グル・クリュソワは対局相手がいなくなってしまい、たまにじいちゃんの墓に向かってぶつぶつ言いに来るくらいで、以前ほど頻繁に顔を見せなくなった。
グリンさんは、じいちゃんの葬式以来、大学で出会うと声をかけてくれるようになり、
『またおじゃまするわね~』
なんて言ってくれていた。
デューンさまは、キャンパス内で錬金術学部エリアが離れていて、お目にかかることはなくなっていた。
二回生までは基礎占星術学の講義で週イチの頻度でお見かけして、ときめいて、ユキちゃんたちときゃっきゃっ言いながらはしゃいでいたけれど、三回生になって接点がなくなり、さ、いよいよ国家試験に向けて専門頑張らねば、さらば青春。
そしたらなんとじいちゃんの葬式でばったり。しかも師匠の息子だとわかってびっくり。ドーレマの気持ちも忙しかった。
そんなこんなで、あまり悲しむ暇もなくバタバタしていたある週末、グリンさんとデューンさまが訪ねてきてくださった。
デューンさまのお友達も何人か、墓地清掃ボランティアに志願して、ついてきてくれた。
(デューンさまにだけ敬語を当てるのは不公平なので、ここらで敬語を撤収します)
コンサバトリーは、平日は墓地の仕事関係者で賑わっているが、このところ、休日は学生たちのサロンになっている。
その日も、ユキちゃんはじめ呪術学部の友人たち男女数人が集まってワイワイやっており、そこへ大学院生のグリンさんと錬金術学部の有志たちがやってきたものだから、みんなで『お~っ!』っとなって、さらにワイワイ盛り上がった。
ドーレマがデューンに憧れてることを知っている友人たちは、ふたりが親密に話ができるように、それとなく、うまいこと、状況を操作してくれた。
ふたりをバラ野原に放ち、みんなで墓地清掃へ散らばっていった。
ドーレマはどきどきしながらしどろもどろで、なにをしゃべったかよく覚えていないが、ひとつわかったのは、デューンがバラになかなか詳しいこと。ユキちゃんと勝負できるほどではないが、バラの扱いに慣れているみたいだ。
もうユキちゃんなしではバラ野原を管理しきれなさそうなドーレマだけど、デューンがバラを扱えるのなら私も頑張らなきゃ、と、ちょっとばかりモチベーションを得ることができた。
みんなが引き上げたあと、家に泊まってくれるユキちゃんと露天風呂に入り、リビングの大テーブルの角を挟んで腰かけ、お茶を飲みながら寛いだ。
「私ね、今日デューンくんと一緒に来てたスィデロくんが好きなんだ。都会擦れしてない感じがいいなぁ、って・・・」
おっ。ユキちゃんから恋バナが! これは珍しい、と傾聴する。
その日、ドーレマとデューンをバラ野原へ放ったあと、ユキちゃんはスィデロくんとふたりでおしゃべりすることができたらしい。
がっしりした体格の、見るからに素朴なカントリーボーイっぽいスィデロくんは、辺境の村ドワフプルト出身なのだそうだ。ドーレマが知っているかぎり、一番遠いところから来た人だ。
ソーラーシステム全世界の首都のような大都会テッラのユキちゃんと、ソーラーシステム世界の範疇から外されたド田舎のドワフプルトのスィデロくん。なんだかよくわからないけど、お似合いのカップルだ。
その日は夜遅くまで萌え語りまくった、やっぱり女の子なふたりだった。
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