第5話 送る
ドーレマ三回生。ロザリアンの年中無休な日々の努力が報われる、一季咲きのバラが花盛りの季節、じいちゃんが亡くなった。
『朝、起きたら死んどった、ってな死に方をしたいな』
『死んどったら起きられないじゃん』
よく冗談半分に言ってた。もちろん半分は本気だけど、その通りの死に方だ。花の水やりの時間だよ~って起こしに行ったら死んでた。
・・・・・悲しむどころではない。
じいちゃんを無事に(?)あの世へ送ってやらねばならない。
えーっとえーっと・・・
と、と、とりあえず、九時になったら役所の葬祭課長に電話だ。
「あの・・・北の墓守りの家の者ですが」
「あーおはようございます。パトスさんちのドーレマさんですね。いつもお世話になっております~。ご依頼しております無縁
いやぁ助かったぁ! ってな調子だ。なんか仕事の予定があったのか? じいちゃん。
「い、いえ、こちらこそ・・」
じゃなくて、
「えっと、あの、パトスが亡くなりまして・・・」
「えっ? ・・・」
なんだと? それは困った。無縁
「本当ですか? いつお亡くなりに?」
「それが・・・今朝起きたら死んどりまして・・・」
「あーそれはそれは大往生で・・・いや、お悔み申し上げます」
「ありがとうございます。それで、わたくしは、パトスの魂をあの世へ送らねばならぬのですが、なにしろ初めてのことゆえ、段取りを考えきらずに困っております」
はっきり言ってパニクっております。助けてください~課長!
ドーレマは要領を得ない感じでしどろもどろだったが、むこうはさすがにプロ。さっそく担当者を一人よこしてくれるという。葬儀の打ち合わせだ。
それからドーレマは、ユキちゃんに電話をかけ、二~三日授業を休むことを連絡した。電話越しに一緒に悲しんでくれたユキちゃんは、
「それ、忌引きだから欠席扱いにならないよ」
あーそうか。
「私が学生課へ行って手続きしといてあげるから、あんたは家のことに集中しなさいね。落ち着くのよ」
なんだか頼もしい。
あと、パラメノじいちゃんの娘たちと、いちおうグル・クリュソワと、他の油売りのおっさんたちへも、連絡先がわかる人たちに電話をかけた・・・んだと思う。よく覚えてないけど・・・
まず葬祭課の営業スタッフ、フュネラさんが分厚いファイルを小脇に抱え、駆けつけてくれて、お隣の火葬場の職員たちもとりあえず弔問に来て、昼頃までには顔見知りのおっさんたちが連絡を繋ぎ、集まってきた。
フュネラさんは、じいちゃんの死に顔を拝み、事件性のない、老衰による死亡である、と判断し(あたりまえやん!)警察を飛ばして直接、呪医につないだ。
ご自身もよぼよぼな呪医さん(おそらくこのかたもOB)が、意外にも手際よく死亡診断書を作成し、じいちゃんの身体を清めて死に装束を整え、冷却処置を施してくれた。
「先に逝っちまいやがって・・」
と呟くのが聞こえたぞ。競争してたのか?
「
フュネラさんがサクサクと事務手続きを進めながらドーレマに聞く。
「やはり・・・私が
「うーん。そのほうがパトスさんもお喜びになるかもしれませんが、資格の問題もありますしね・・・」
フュネラさんも心苦しいみたいだ。
ジュピタンで冠婚葬祭の諸儀式を執り行う呪術師には免許が必要なのだ。呪術学部で必要な単位取得の見込みを証明したうえで、国家試験に受からないといけない。
フュネラさんは、グル・クリュソワ師匠がパトスのところへよく遊びに来ることをご存じで、それをはっと思い出し、
「そうだ! 師匠の奥様のレイヤさんにお願いしてみましょうか」
と提案し、電話をかけてくれた。
午後にはグル・クリュソワ師匠とレイヤさんが来てくださった。師匠は、
「じいさん、うちのゼミの学生が爆発させてこしらえたおニューの駒をひとつ持ってきた。近年稀にみる駄作だ。こいつでようやく勝ち越せると思っていたのに残念だ。あの世での対局を楽しみにしている。腕を磨いておこう。アディオス」
と、いつものように訳のわからないことを言いながら、怪しい物質の駒をじいちゃんの手に握らせる。
レイヤさんは、
葬儀用の祭壇セット一式が届き、設営スタッフさんたちをてきぱき動かしながら、レイヤさんはいろいろとドーレマに声をかけてくれる。
「ドーレマちゃんは、呪術学部なのね。何回生になったの?」
「三回生です」
「そう。パトスさん、あと一年半粘ってくれたら、ドーレマちゃんが
レイヤさんとこんなふうに、挨拶以外でおしゃべりするのは初めてだけど、呑気なお母さんみたいなお人柄がとても温かい。心細いドーレマに優しく寄り添いながら、それでも頼もしく準備を整えていく。
ベテラン呪術師のレイヤは、こういう場合、基本はお仕事モードだけれど、夫がいつも遊んでもらってるじいさんの家のことだから、身内のような感じもする。
ただ、自分ちの息子も第五大の三回生であることや、娘も呪術学研究生である、といったプライベートな事情は、頭のなかですっかり別回路のなかにある。
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