第13話 類を嗅ぎ取る先入観
時間が限られている放課後のなか、インタビューはどんどん進む。
次の相手は青団の二人だ。部屋を変えて迎え入れる。
副団長はご存じ
そして幸滉の影からひょっこり出てきたのは、低身長でなんだか丸いシルエットをした一人の少年。
「幸滉君だけじゃなくて、ボクみたいな球体男を呼んでくれてありがとうね。恐れ多くも青団団長を拝命させてもらってます、
短い足でひょこひょこ揺れるように歩いてくる様がなんだか可愛らしい。
こう見えて
謙遜する
「団長なんですから
「でも幸滉くんのが華があるよ。ボクなんか花を生ける瓶と間違えられるほうだよ」
嫌味なくきょとんとした瞳で幸滉を見上げる。
絵本の中のマスコットと王子様のコンビみたいな微笑ましい二人に、
「お待ちしておりました、お二方。こちらへどうぞ。すぐ準備しますから」
団長を先に座らせて、幸滉がふと視線を止めた。
「こちらこそよろしく。あれっ、君は確か……
「こっ、こちらこそ……」
幸滉が王子スマイルを向けると、さすがの裕子も照れたように赤くなって顔を伏せた。
そんな王子が一向にカブリモノをした弟に気づかないままインタビューが始まる。相手の受け答えに合わせて若干の変更はあるものの、質問内容は黒団の団長副団長の時とほぼ同じだ。
だからこそ、表情や指の動きに注視できる。
「では意気込みをどうぞ」
「意気込みはもちろん。せっかく任せてもらえたし、優勝を目指していくよ。妥協してたら満足のいく字は一生書けないからね。どんな結果だろうと目指すものは一つさ。ボクなんかにみんな付いてきてくれればだけど……」
「団長の人徳は皆さん知っての通りです。青団は一致団結して勝利を目指します。僕も精一杯団長を支えていくつもりですよ」
ネガティブを見せる
体育祭の団長と副団長は、アンケートで一定の得票があった生徒の中から生徒会が選抜する。組み合わせもバランスを考えてのことだ。
(
十瑪岐の中で生徒会長の株がうなぎ登りで大気圏突破を目指しつつある。
「他の団で気になる人はいますか?」
「ん~、黒団の団長してる
「そういう気になるではなく体育祭のライバル的なのが聞きたいのですが……。
「……黄団の
「おや、
「え? ああ、えっと……。
「体育祭はチームプレイですからね。確かに幼い頃から互いを知っている黄団のコンビは強敵かもしれません」
なるほどと納得する
他に考えねばならないことがあるからだ。
(しっかし、ここは明らかにハズレっぽいかあ)
そう推測を立てる。事前に幸滉から聞いてはいたが、やはり青団はテロ予告と無関係に思えた。
というより
思案しているうちに時間はあっという間に過ぎ去り、ついに三組目のお相手、黄団の番となった。
◇ ◆ ◇
黄団の団長と副団長は異色のコンビだ。
団長は
女子にしては背が高くスポーツに向いていそうな体型をしている。長い髪をリボンで結いあげ、いつも笑顔の印象が強い。
一方の副団長は、二年生の
ウェーブがかったショートボブの可憐な少女で、低身長で低血圧、オーバーサイズの制服に着られているように見える。それに加え机の上に突っ伏しだらける姿が散見された。
十瑪岐は隣のクラスなので見かけることも多い。彼女は常に年上のはずの
二人は
「ではインタビューを始めますね。本日のインタビュアーを務めます、一年生の
「ん、メイカです。どうもね」
小柄なほうが眠たげに適当な返事をする。すると隣の少女が頬を膨らませた。
「もうっ、
二人は見た目も正反対なら、その中身も真逆らしい。
「
「メイカは
「なに言ってるの
「……
「そうだよ。私なんて
「あ、あはは……。そうですか」
「あれっ……」
当惑した声に
「どうしたの?」
「いえ、カメラの調子が……。気にせず続けてくださ──」
「貸してみて。ああこれなら。ちょっと開くね。えっと……たぶんここをこうで…………こうかな」
腰に付けたポーチからドライバーを取り出し中を開いたと思うと、細かに弄って手早く元通りにしてしまった。
「あっ、すごい。動く。ありがとうございます」
「いやいや、どういたしまして。簡単なことでよかったよ。けっこう古い型だね。また動かなくなったら専門店で見てもらったほうがいいかも」
「まぁ……。あの通り器用だし基本ハイスペックだしお節介焼きで人助け好きだし、近しいとこから感謝集めてるのは理解できなくもないけどね」
「なるほど。あの自然さが人望を集める秘訣なんですね」
「そーじゃない? 知らないけど」
「
「別に。
「?」
「…………」
戻って来た
「……さっさと再開して終わらせよ。インタビュアーさん次の質問は?」
「あっ、はい。えっと……では体育祭に向けての意気込みをお願いします」
「意気込み? えっと……」
なぜか
「任せられたからには仕事はするよ。勝てるかなんて知らないけど」
「も、もうっ、
胸の前で両拳を握って気合を入れて見せる。
その後は滞りなくインタビューは進み、順番は最後の赤団へと回っていった。
◇ ◆ ◇
「つーわけで第一容疑者は黄団のコンビなあ」
「どーいうわけでです!?」
突然出された結論に
「まだ赤団のインタビューの話を聞いてないんですけど」
「別に面白みなかったぜえ。熱血と冷血を混ぜたらぬるま湯になってた」
「それはそれで気になりますが」
校門へ続く並木道の途中、すでに太陽は沈みオレンジの残光だけが西の空を照らしている。他に誰もいないから莟は遠慮することなく、歩き続ける
「赤団は置いておいて、なんで犯人の目星ついてるんですか。聞いてて全然分からなかったんですけど」
「あいつらが仲間ハズレだったからだあ。『勝つ』と言わなかったのは黄団だけだった。体育祭での勝利は学外での名声にすら直結する。それでなくても
「他にも理由があるんですね」
「…………いや、直感。なあんかあの副団長ってば同じ匂いがすんだよなあ」
「はいぃ?」
「まあ任せえとけえ。今週中に容疑を固めてやるからよお」
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