僻覚え
嘘
プロローグ 胤裔
いつからだろう、こんなにも世界を憎んだのは。望んだのは君が僕の手を引く未来。真っ赤に染まった麩の廉がどうにも僕を侮蔑 する。
確かに手のひらにあったはずだった。ちゃんと握りしめていないから、呆れたそれはとうとう逃げ出してしまった。罰も罪も、全ては深淵の底に放り捨てるつもりだった。
どうか微笑まないで。あの笑顔を思い出してしまうから。どうか手を握らないで。君の温かさに慣れてしまうから。
どこにも行けない。逃げられない。忘れたい。忘れたくない。
〈ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。〉
君の声が甦生する。頭の中でぐるぐるぐるぐると唸り続けている。何故そんなに謝るんだ?もうその言葉を口にする必要なんてどこにもないのに。こんなにも沢山謝ってるんだ、そろそろ許してやれよ。なぁ、おい。聞いてんのかよ。
僕は誰に向かって口にしているのかわからないまま、分からなくたっていいと割り切って無意味な怒りを吐き出した。それが例え僕に対しての謝罪であっても、僕には関係のないことなんだ。君が許しを請う相手が僕だとしても。それは今ここにいる僕ではないのだから。だってそうだろ?僕に君を許すなんて権利そのものがそもそも存在しない。
こうして手に持つ一丁の銃でさえ、虚勢を張った憂いにしか縋れ無い惨めな僕の装飾品に過ぎないのだ。
現実を呪った。世界を壊した。君を殺した。
優しい人に優しい社会に失望したなんて大言吐いたところで、僕にできることなんてそれっぽっちだったんだ。これじゃ笑われちゃうよな。ちゃんとしないとって思うよ、いつも思ってる。
僕、割と好きだったんだよ。現実も世界も、もしかしたら君のことも。
世界中の人皆幸せになって欲しいなんて綺麗事は言えない。綺麗事すれすれのR15閲覧制限日記にも書いた。現実はクソだよ。でもクソだから呪うってなんか厨二くさいじゃん。なんかこう、もっと清貧で派手で残酷な夢を語りたかったんだ。結局上手くいかなかったんだけどね。結果論、僕は失敗したさ。そしてやっぱり現実を呪ったんだ。
僕に心臓を射抜かれた時、君は何を想ったのかな。出来れば恋に落ちてくれてたら嬉しいけど。
僕が君を殺して、君に愛を誓って、黒く滲んだ虚構ですらとっても愛おしく思えた。ドクドクと流れる赤黒い血を持つ僕が君の胤裔だったなんて、知らずにいればよかった。ヒトって、「知る」ことができても「知らない」に戻ることはできないんだよ。不思議だよね、吐き気がする。
でももう大丈夫。
辛いのも苦しいのも、全て僕が終わらせてあげる。
もう何も君を苦しめるものはないんだ。
正直言ってね、僕も少し疲れたんだ。だからせめて、いつか詠った和歌を君に贈らせてくれ。もうあの日々には戻れない。だから、だから。
間違いだらけのこの世界の中で、どうか君だけには笑っていて欲しい。君にだけ、僕を殺す資格があると思った。
君になら殺されてもいいと思った。
胸が弾む。目が光る。
答えが欲しかった。
僕が誰なのかを、知りたかったんだ。
僻覚え 嘘 @tomato46
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