第3話 忙しない良い朝

ピ ピ ピ ピピ ピピ ピピ ピピピピピピ


『ふぁ~~もう朝か。もう少し寝かせてくれ』


重い体を起き上がらせアラームを消す。よし!二度寝といこう!もう一度布団に潜り込もうとした時、部屋のドアが開く


そこにいたのはなぜか俺のエプロンを着た明里(あかり)。手には包丁をとフライパンを持っている。


『あ、私が最初に起こそうと思っていたのですがアラームに先を越されましたか。明日からはもう少し早めに来ますね。それはそうと、おはようございます!』



ん?包丁?



『ああ、おはよう‥‥じゃなくて、なんで包丁なんか持ってんだ!ま、まさか俺を暗殺しようとしたんじゃないだろうな?』




『ちがいます!起こしに来たんです!』



『いや、それなら普通包丁じゃなくてお玉だろ!』



『そうですね。これだと少しフライパンが叩きにくいですね』



いや、指摘してるのそこじゃないよ!もはや包丁を研いでるようにしか見えないんだが‥‥殺す準備は万端ってことかよ‥‥



すると明里は眩しく笑って言う


『でも、私のおかげで目が覚めたようですね!』



『やかましいわ!そりゃ包丁なんか持ってたら嫌でも目が覚めるわ!て、てか、なんで俺のエプロン着てるんだ?』




すると明里は何故かガッツポーズをして答える



『何故かって?そんなの朝御飯を作るからに決まってるじゃないですか!』



『朝御飯?俺の家の冷蔵庫はほとんど何もないはずだぞ?』



『ふっ、食品があるのは冷蔵庫だけですか?』


なんか無駄にテンション高いんだが

朝なんだからもう少しゆったりいこうぜ~



『いや、冷蔵庫のとなりの棚にカップ麺があるが。ま、まさか!?』




『勝手ながら使わせていただきました!』



俺はあるものが使われていないか焦る



『な、何を使ったんだ?カップヌードルだよな?そうだよな?』




『ええ、小さめの円柱型のラーメンですが‥‥』


はぁ、よかったー。実は冷蔵庫のとなりの棚には、俺が1ヶ月のお小遣いを全て使った贅沢な超高級カップラーメンが入っているのだ。ちなみに値段は1000円。俺にはあまりにも高すぎてさすがに親からの仕送りで買おうとも思ったが、高級ラーメンは自腹という苦しい行程を経てたどり着くものだという俺の謎のモットーがそれを許してくれなかった。でも実際その方がより美味しく感じられるんだよな。



『ならいいが』


すると明里は笑顔で言う



『はい!京太郎の朝御飯も作ったので一緒に食べましょう!』


====================================


『な、なんだこれは?これは食べ物か?』


リビングに来た俺の目の前に出されたのは、伸びたカップ麺の中に昨日の残り物のカレーとご飯、どこから持ってきたか分からないニンジンの角切り、チョコレートが入っている。


『嬉しいです!』


え?なんで喜んでるんだ?今どちらかといったら悪く言ったよね?


『私の朝御飯が宝石のように輝いて見えるんですよね!?』



満面の笑みで自信満々に言う。



いや、見えねぇよ。この子の思考回路絶対どこかで違うところに繋がってるだろ。

でも、まあ辛うじてニンジンが宝石に見えなくも‥‥いや、やっぱり見えない。この笑顔に騙されないで!



『あ、ああ。てか、何でチョコレートが入ってているんだ?』



『隠し味ですよ!』



『いや、隠れてないし!ふつうにご飯の上にのってるだけだぞ!』



まあ、でもなんだ。人間中身が大切なように料理も中身だからな。味だよ味。見た目じゃない。


『まあ、細かいことは気にしない!一緒に食べましょう!』



『気にするよ‥‥』



二人で合掌する



『いただきます』



姿勢が綺麗な明里はただラーメンを食べるだけなのに様になっている。そして類い稀な顔立ちがより一層この場を上品にしていく。こんな謎な料理出されたのに、俺一瞬高級レストランにいるかと思ったもん。

それはそうとこれは上手いのか?

さすがに先に食べないと悪いよな。


俺はチョコを避けつつラーメンに手を出す


ズルズル


んーー、不味くもなく美味しくもない反応に困る微妙な味。まあ、不味くないだけましだからとりあえず誉めておくか。


『意外とおい』 『うっ!!』



突然明里が目を×にして声をあげる



『うー、これ、全然美味しくないです。』



えー。これ普通他の人は不味いって言って、作った本人だけ美味しいって言うパターンじゃないのかよ。


『いや、でも全然食えるよ』



俺はラーメンにがっつく



『絶対無理してますよね。それぐらい私にも分かるんですからね。もう食べなくて大丈夫ですよ。』



『いや、本当に!美味しくはないけど不味くもないよ!』



『はぁぁ‥‥やはり美味しくないですか。京太郎には恩を返そうと思っていたのに‥‥』


ん?俺恩に着られるようなことしたっけ?



『恩ってなんだ?』



『あなたは私にアイスを買ってくれたり家に泊めてくれたりしたじゃないですか。これで、朝御飯を作らなかったらなんて不躾な女!って思いまして‥‥だ、だから朝も優しく起こしてあげようとしたんですよ!』



『いやいや朝は絶対殺そうとしてただろ。俺の心に全く優しくなかったよ』




『殺そうとなんてしてませんって!』




『ああ、それに、なんだそれは俺が勝手にやったことだし。そこに君が恩を感じる必要はないよ』




『そ、それでも、貰った恩は返したいんですよ!』



『いや、返さなくて大丈夫だよ。』



俺は少し無愛想に答える。こうでもしないと聞かなそうだからな。


すると明里は上目遣いで尋ねてくる



『迷惑ですか?』



か、かわいい‥‥上目遣いってすごいな‥‥




『い、い、いや、迷惑ではないけど‥‥』




あまりのかわいさに言葉が淀んだ




『そうですか‥‥‥‥迷惑では、ないんですね。

では、京太郎が私にしてくれた恩は勝手にしたことだと言うのなら、私も勝手に京太郎に恩を返します!これでいいですか?』



結局聞かなかったな。まあ別に恩返しされる位いいか



『ああ、勝手にしてくれ』




『では決まりです!これから恩を返していきますね!』



これから、か‥‥

明里は今日自分が叔父の家に帰ることを忘れているのだろうか。


『なぁ、君はさ』



『さっきから気になってましたが君じゃないです!明里です!』



『明里はさ、今日叔父さんの家に帰ること、覚えてるよな?』



『えっ?なんのことですか?私は帰りませんよ?』



はぁ‥‥やっぱり分かってなかったか



『いや、昨日電話でき、明里のお父さんに一晩だけ泊めてくれって言われたんだよ。一晩だけ。だから、明里とは今日でお別れなんだよ』



『えっ?本当ですか?』



戸惑っているのが顔から伺える



『ああ、凄い短い間ではあったけど、叔父さんのところでも元気でな』



すると明里は俺の胸に飛び込んできた



『嫌です!京太郎には恩を返すって決めたんてす!それに、私の知らない日本語をたくさん教えてくれるって言ったじゃないですか!それに、あと、日本のことも私は京太郎から教えてもらいたいです!』



いや、でも俺なんかのところに居るよりは叔父の家へ行った方が絶対良い。俺の家はお金もないし、親もいないし、安心して楽しく暮らせる余裕がない。それに比べて叔父の家は俺の家よりはお金があるだろうし、叔父さんの妻が母親代わりになってくれて、温かい環境で過ごせるだろう。


でも、それでも、俺の心の中の何処かが明里を手放してはいけないといっている。俺はいつも自分の心に従うタイプだ。周りなんて関係ない。



『俺は叔父さんの家へ帰った方がいいと思う。でも、君と一緒にいて楽しかったのも事実ではある。だから、一回お父さんに電話を掛けてもう少し俺の家に泊まれるか聞いてみるか?』




『それは私と一緒にいたいってことですか?』




『いや、まあ、話し相手がいるのも悪くはないなと思っただけだ』




『それだけですか?』




『も、もう少しだけ一緒にいてから決めるのもありかなと思った。明里のお父さんが何て言うか分からないけど‥‥』


なんでこんな恥ずかしいことまで言わされるんだ?



『そうですか‥‥‥‥引っ掛かりましたね!?』



引っ掛かる?なにを言ってるんだ?



俺が不審な顔をしていると明里が説明を加える



『今朝お父さんから電話があったのですが、実はまだ叔父さんと連絡がとれていなくてですね。私は再び帰る場所がなくなってしまったわけですよ。それで、あの人は京太郎との一晩はどうだったかと聞いてきたので、「安全に眠れた」といったら「やっぱりな。では少しの間彼に任せよう」と言ってたのです!』



「やっぱりな」か‥あの人絶対俺のことバカにしてるよな




『叔父さんは本当に連絡つかないのか?なにか残してたりしないのか?』




『ええ、恐らくなにも残してないでしょう。

でも、叔父さんがいても京太郎とは一緒に住んでいたでしょうね』




『なぜだ?』



明里はあざとく言う



『だって、京太郎は私と一緒にいたいんですよね?』




『い、いやそれはなんだ庇護欲をみたいなもんだ。叔父さんがいなかったらの話だ。』




『おお、照れてますね!耳たぶまで赤いですよ!ゆでダコですよ!』



『うるさい!からかうなと言っただろ!』



俺が赤面してることは分かっている。

でも、それはきっと騙されて恥ずかしいとかもあるけど、なにより一緒にいれることが嬉しかったのが大きい


『あっ、どこへ行くんですか?朝御飯を食べましょうよ!』



『少し日光浴をしてくるだけだ。先に食べてていい』



俺は足早にリビングから出ていった。この気持ちが明里にばれないように
























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