第105話 有川七海の日常⑤

 あの日から私は霧也さんと一緒に写真を撮り始めた。

 基本的に私は霧也さんの後について行って、どんな風に、どんな瞬間にカメラのシャッターを切るのかを見ているだけだった。

 霧也さんはあんまり口を開く方ではなく、教えるのも苦手らしい。また学べという形で私はカメラの技術を教えてもらっていた。

 それでも、かなり勉強になる。 

 超一流の霧也さんの写真の撮り方は独特だった。

 そんな瞬間にシャッターを切るのかと何度も驚かされた。


「どうだい? 勉強になりそうかい?」


 霧也さんは苦笑いを浮かべてそう聞いてきた。

 

「はい。すごく勉強になります。驚かされてばかりです」

「それなら、よかった。僕はあんまり説明とか上手じゃないから、心配だったんだ・・・・・・」

「そんなとこ。私としては、桜井さんと一緒に写真が撮れるだけで、凄く勉強になるので」


 本音だった。嘘はついてない。 

 霧也さんと一緒に写真を撮るだけでも凄いことなのだ。それをさせてもらってるだけでもありがたいことだった。幸せなことだった。


「桜井さんっていつから写真を撮り始めてたんですか?」

「うーん。初めてカメラを触ったのは幼稚園の頃だったかな。それから、カメラに夢中になって気がつけば、今に至るって感じですかね」

「そうなんですね。カメラは独学で?」

「いえ、父から、教えてもらいました」


 そう言った霧也さんの目は少しだけ寂しそうに見えた。

 

「ところで、どうですか? いい写真は撮れてますか?」

「どうでしょう。見てもらってもいいですか?」

「もちろんです」


 私は霧也さんにカメラを渡した。

 霧也さんが私の撮った写真を見てくれている。私の撮った写真は霧也さんの目にどう映るのだろうか。楽しみだった。

 しばらく、霧也さんは私の撮った写真を見ていた。

 そして、右の口角を少し上げて霧也さんは顔をあげた。


「うん。とてもよく撮れてますね。構図もいい感じです」

「ほんとですか?」

「はい。有川さんは誰かにカメラを教えてもらってたんですか?」

「いえ、独学です。ある人の写真に惹かれてからずっとカメラの勉強をしてきました」

「そうですか。独学で……」


 霧也さんはそう言うと、もう一度私の写真に視線を落とした。

 憧れの人に自分の写真を褒めてもらえた。それだけで私の胸は幸せいっぱいになった。


「独学でこれほどの写真が撮れるとは、凄いですね。有川さんを写真の道に引き込んだその写真家の人に感謝しないといけませんね」


 その人はあなたなんですけどね。

 私は心の中でそう呟いた。


「さて、もう少し撮ったら帰りましょうか」

「はい!」


 私たちはもう少しだけ桜の写真を撮ると家に帰った。



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