第104話 有川七海の日常④

 まさかだった。

 まさか、再会するなんて思っていなかった。しかも、大学で・・・・・・。

 憧れの人が同じ大学にいる。

 そんな展開想像もしていなかった。

 たまたまだった。たまたま、大学内で桜にカメラを構えてる彼のことを見かけた。

 そんな彼の姿から私は目が離せなかった。だから、私は思わず声をかけてしまった。


「あの・・・・・・」

「・・・・・・はい」


 彼がカメラのファインダーから私の方に視線を移した。

 彼は声をかけたのがこの前の人だということに気づいたのか優しく微笑んだ。そんな彼に私は軽く頭を下げた。


「この前はどうも」

「あの時の・・・・・・。同じ学校だったんですね」

「みたいですね。私も驚いてます」

「偶然ですね」

「ですね」


 あまりにも凄い偶然に私はくすくすと笑った。

  

 

「ところで何を撮ってたんですか?」

「え、ああ。桜です・・・・・・」


 そう言って彼は目の前の満開の桜に視線をやった。

 彼は桜を撮るのが好きなのだろう。私も桜の木を撮るのが大好きだ。

 私の彼の視線を追うように桜の方に視線をやる。

 桜の花びらがひらひらと舞い落ちる。

  

「あの、写真見せてもらえませんか?」

「写真、ですか・・・・・・」

「ダメ、ですか?」

「いいえ。構いませんよ」


 そう言って彼は私にカメラを渡してくれた。 

 写真家にとってカメラは命の次に大事なものだ。そんな大事なカメラを私ならあんまり人に触ってほしくない。

 でも、彼はなんの躊躇もなく渡してくれた。私は彼のカメラを大事に受け取り、彼が今撮ったであろう満開の桜の写った写真を見た。

 

「ごくっ・・・・・・」


 私はその写真の美しさに息を呑んだ。

 やっぱり、凄い・・・・・・。

 彼の霧也さんの写真は完璧だ。何もかもが完璧。こんなにすごい写真を撮る人私は知らない。

 

「凄いですね……」

「そんなことないです。僕の写真なんてまだまだです」


 霧也さんは自分の撮った写真に納得がいっていないといった感じでそう呟いた。

 こんなに凄い写真を撮れるのに、まだ満足してないなんて。この人は本当に写真を愛してるんだなと思った。

 私はそこまで写真を愛しきれているだろうか。


「あの……。もしよかったら、私に写真の撮り方を教えてくれませんか……」

「写真の撮り方……。僕がですか?」

「はい。桜井さんに教えていただきたいんです」

「僕なんて大したことありませんよ」

「そんなことありません! 少なくとも私にとっては……」


 憧れの人。夢を与えてくれた人。人生を変えてくれた人なのだから。

 私が大きな声を出してしまったせいで、霧也さんは驚いた表情で私のことを見ていた。


「自分のことを低く見ないでください。桜井さんは凄い人なんですから」

「そんなに、真っ直ぐに見つめられて言われると照れます……」

 

 霧也さんは私から視線を逸らして頬を少し赤くしていた。

 

「そんな風に思ってくれる人がいるなんて嬉しいですね」

「たぶん、そう思ってるのは私だけじゃないですよ」

「だといんですけどね」

「私が保証します!」


 私は自信満々に言いきった。

 きっと私と同じように霧也さんの写真を見てカメラマンになろうと思った人がいるはず。元気づけられた人がいるはず。


「それで、ダメですか?」

「そうですね。ここまで言われて断わるわけにはいきませんね」

「じゃあ!?」

「力不足かもしれませんが、それでもよければ……」

「やった! ありがとうございます。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 霧也さんが優しく微笑みかけてくれた。

 私はその表情に思わずドキッとしてしまった。


 




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