第85話

 合格発表当日。

 俺と陽彩は『蓮』に、正確には俺の部屋で結果を見ることにしていた。

 合否の確認はインターネットで見ることができる。


「どっちから先に見る?」

「わ、私からでもいい?」

「分かった。じゃあ、まず陽彩から見るか」

「う、うん」


 当然のように緊張している陽彩。

 俺はそんな陽彩の手を優しく握る。手が震えているのが伝わってきた。相当緊張してるな。

 俺は陽彩が受けた大学のホームページを開いて合格発表のページを開いた。

 合格者の番号がズラッと並んでいる。この中に陽彩の番号は……。


「どうだ?」

「う、うん……」

 

 その反応はどっちなんだ。俺は陽彩が手に持っていた受験番号の書いてある紙を覗き見た。「1253」それが、陽彩の受験番号だった。視線をパソコンに移して、1200番台を上から順に見ていった。


「あ、陽彩……」

「う、うん……」

「おめでとう」

「う、うん……」

「それ以外の言葉をしゃべってくれませんか?」

「う、うん……」


 陽彩の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「よかったな」

「翼。ありがとぉ~」


 陽彩が俺の首に手を回してきて抱き着いてきた。そして、わんわんと子供みたいに泣き出した。嬉しいよな。よかったな。俺は陽彩の頭をそっと撫でた。

 陽彩が泣き止むまで頭を撫で続けていた。


「次は翼の番だね」

「そうだな」


 次は俺が受けた大学のホームページを開いた。

 そして、合否を確認する。

 まあ、落ちるとは思っていなかった。


「受かってるな」

「ほんとに?」

「うん」

「よかった~。これで春から二人とも大学生だ~!!!」


 陽彩は自分が受かってると分かった瞬間よりも喜んでいた。


「七海たちにも知らせるね」

「じゃあ、俺はお母さんに言ってくるよ」

「待って、私も一緒に行きたい!」


 陽彩は素早く合格した旨を有川と雛形にメッセージで送ると、俺と一緒に朝美のところへと向かった。


「お母さん、結果分かったよ」

「どうだったの? って、聞くまでもないんだけどね。陽彩ちゃんの声、下まで聞こえてきてたし」

「え! それは恥ずかしい……」


 陽彩は顔を赤くすると下を向いて顔を隠した。


「二人とも合格おめでと。お祝いしないとね!」


 そう言って朝美は俺と陽彩をぎゅーっと抱きしめた。


「お母さん。ありがとう」

「朝美さん。ありがとうございます」

「二人が頑張ったからよ。お疲れ様。春から大学生思いっきり楽しむのよ」

「はいっ!」


 俺は二人を残して蓮夜のいるキッチンに向かった。


「お父さん。受かったよ」

「そうか。おめでとう」

「ありがと。お父さんと同じ大学に行けてよかったよ」

「翼なら大丈夫だって思ってたよ。お前は頑張り屋だからな」

「俺なんかまだまだだよ」


 蓮夜の背中に一歩近づけた気がした。

 それでも、まだまだスタートラインに立ったに過ぎない。蓮夜は大学三年生の時に世界大会で優勝してる。蓮夜を超江藤と思ったら、二年までに同じ大会で優勝しないければならないと、勝手に自分で思っていた。

 大学に合格したからには次の目標はそれだ。なんとしても、その大会で優勝したい。 


「翼は、自分のことを過信しすぎだぞ」

「そんなことないよ」

「それが、そんなことあるんだよな。まあ、そのうち分かるだろうよ」


 蓮夜が言ったことの意味は分からなかったが、喜んでくれているということは分かった。

 その姿を確認すると、俺は陽彩たちのもとに戻った。

 ホールに陽彩はマダムと話をしていた。


「陽彩ちゃん。おめでとう」

「ありがとう~。マダム」

「あら、翼ちゃん。翼ちゃんも合格したんだって?」

「はい。無事に合格してました」

「いや~。今日はめでたいわね。何かお祝いをあげたいけど、残念ながら今は持ち合わせてないのよね~」

「気持ちだけで大丈夫ですよ。これからもお店に遊びに来てやってください。それだけで俺たちは嬉しいので」

「そうだよ~。マダム。私も明日からまたお店のお手伝いするから、たくさんお話ししようね」

「二人とも嬉しこと言ってくれるわね~。これはまだまだ死ねないわね」


 マダムは微笑むと俺たちのことを抱きしめた。

 

「数年後にはお店を持ってると思うので、その時まで生きててくださいね」

「あら、そうなの? 翼ちゃんのお店楽しみね~。分かったわ。それまで、頑張って生きるわね」

 

 『蓮』から出ていくマダムに俺と陽彩は丁寧にお辞儀をした。

 こうして、大きな試練を一個乗り越えた二人だった。きっとこの先もいくつも試練が目の前に現れるだろう。

 だけど、陽彩と一緒ならどんな試練だって乗り越えていけそうな気がした。

 有川と雛形も無事に合格したというのを陽彩から聞かされた。


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