第86話 【陽彩のガトーショコラ】

 受験も無事に終わり、後は高校を卒業するだけとなった。

 受験の終わった三年生は基本的に自由登校だ。

 俺は、学校に行くことなく、家でスイーツ作りに勤しんでいた。

 時間はあっという間に過ぎていく、一秒だって無駄にしてる時間はなかった。

 

 俺が今、頭を悩ませてるのは新作のスイーツを生み出すことだった。

 まだ、誰も見たことのない俺だけのスイーツを作るのは簡単なことじゃない。

 蓮夜ですら、頭を何日も悩ますのだから、俺なんか、何週間もかかるのは目に見えている。だから、こうして、『蓮』の手伝いを終えてからずっとキッチンにこもっている。

 ちなみに、陽彩も『蓮』の手伝いを再開していた。


「翼、またやってるのか」

「お父さん。まぁね」

「あんまり頑張りすぎるなよ」

「分かってるよ」

「ずっと考えてばっかりでもいいアイデアは浮かばないからな。たまには、息抜きしろ」

「そうだね。そうするよ」

 

 俺はノートを閉じて一息つくことにした。  


「この前の俺が作った新作はどうだった?」

「うん。作ったよ」

「さすがだな」

「あれを考えつくお父さんの方がすごいよ」

「お前は謙遜しすぎだ。もっと、自分がすごいことを自覚しろ」


 そう言って、蓮夜は俺の頭をポカっと殴ると、二階に上がって行った。

 謙遜って、俺はまだそんなレベルじゃないよ。

 

「とりあえず、今日は終わるか」


 自室に戻ると、陽彩からメッセージが届いた。


『明後日、学校に行かない?』


 なんで、学校に?

 なんで明後日? 

 と思ったが、明後日が何の日か思い出して納得した。


「そうか。明後日はバレンタインデーか」


 俺は『いいよ』と返信をするとお風呂に向かった。


 

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