第57話 【青春のクレープ】

 高校三年生の俺たちにとって最後といってもいい学校行事が始まろうとしていた。

 文化祭。三年生にとっては受験という大きな試練を前にある唯一の心を開放できるイベントだ。


 ある者はステージ上ではちゃけて、ある者は思い人に想いを届けて、ある者はクラスの模擬店に力を入れるだろう。

 そして、俺たちは今、その模擬店で出店する食べ物を決めている最中だった。


「ほかに何かやりたいものがある人はいる?」


 黒板の前で仕切っているのはクラス委員長の有川だった。今のところ出た食べ物は、唐揚げ、フライドポテト、焼きそば、といかにもな感じのやつばかりだった。正直、俺としてはどれでもいいと思っていた。なぜなら、俺は文化祭に何も関わるつもりがなかったからだ。

 俺は、先に挙げた三つのどれにも興味がなかった。


「はい!」

「はい、陽彩」


 陽彩が威勢よく返事をして、手を挙げた。

 なぜだろう。陽彩のその行動に、俺は嫌な予感がした。


「私はクレープがいいと思う」

「クレープっと」

「ほかに意見はない? なかったら、この中から多数決で決めるけど?」

 

 クラスメイトからはほかの意見は出なかった。

 ということで有川が唐揚げから順に読み上げていって多数決を取ることになった。正直どれでもよかった俺は、唐揚げに手を挙げておいた。唐揚げに手を挙げた生徒は俺を含めて五人だった。

 これは、唐揚げはなしだな。

 次にフライドポテト、これに手を挙げたのも同じく五人。

 おいおい、待てよ。残りは焼きそばとクレープだぞ。俺的にはどっちになっても関係ないんだけど、このクラスにクレープなんて作れるやついるのか? まあ、いなくても練習すれば、誰でもできるか。生地を焼くだけだしな。


「じゃあ、次は焼きそばね」


 焼きそばに手を挙げた生徒は三人だった。これはクレープで確定だな。

 そう思った瞬間、陽彩と目が合った。俺の中で嫌な予感がどんどんと大きくなっていくのが分かった。


「最後はクレープね。聞くまでもないと思うけど。クレープがいいと思う人は手を挙げてください」

「はい!」

「はーい!」


 陽彩と雛形を筆頭にほとんどのクラスメイトが手を挙げた。

 まじか、そんなにクレープって人気なのか。知らなかった。そういえば、前に陽彩に連れて行ってもらったクレープ屋にも結構高校生が並んでたな。

 

「じゃあ、私たちのクラスはクレープで決まりね。それじゃあ、次は誰がクレープを作るかだけど、そんなの一人しかいないわよね。陽彩」

「だね~」

 

 そう言って、二人は俺の方を見てきた。

 まさか、俺にやらせる気か!? このクラスで空気の俺に!?

 これが、さっきから感じていた嫌な予感の正体か。


「翼がいいと思う!」

「そうね。獅戸君しかいないわよね」

「つー君。クレープ作れるの!?」


 最後の雛形と同じ意見のこもった視線を俺はクラスメイト達から向けられていた。

 陽彩のやつ、絶対にわざとだろ。俺が目立ちたくないのを知ってるくせに。あの様子だと有川もグルだな。 

 後で、同お仕置きしてやろうか。そんなことを考えながら、俺はこの状況をどう穏便に済ませるかということを考えていた。


「いや、俺にはできません」

「嘘はダメだよ。翼、この前できるって言ってたじゃん」


 陽彩はあくまでも俺にクレープを作らせたいらしい。陽彩はニヤニヤとした顔で俺のことを見ていた。


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