第58話
「翼がいいと思う!」
「そうね。獅戸君しかいないわよね」
「つー君。クレープ作れるの!?」
最後の雛形と同じ意見のこもった視線を俺はクラスメイト達から向けられていた。
陽彩のやつ、絶対にわざとだろ。俺が目立ちたくないのを知ってるくせに。あの様子だと有川もグルだな。
後で、同お仕置きしてやろうか。そんなことを考えながら、俺はこの状況をどう穏便に済ませるかということを考えていた。
「いや、俺にはできません」
「嘘はダメだよ。翼、この前できるって言ってたじゃん」
陽彩はあくまでも俺にクレープを作らせたいらしい。陽彩はニヤニヤとした顔で俺のことを見ていた。
「ほんとに無理ですから」
あくまで俺と陽彩は教室ではただのクラスメイト。だから、俺はみんなの前では陽彩に敬語で話す。そんなことも知ってるはずなんだけど、陽彩は俺のことをいつものように呼ぶ。
俺が目立ちたくないってこと知ってるだろ、と陽彩に視線を向けたが、陽彩は気にする様子もなく、勝手に話を進めていった。
「さすがに、生地作りを翼一人にすべてを任せるのはダメだから、私も一緒に作る役に回るね」
陽彩は俺に向かってそう言った。
なんで俺に向かって言うんだよ。てか、俺はやらないからな。
「じゃあ、私もやろうかしら」
「二人がやるなら私もやるー」
勝手に話が進んでいって、生地作りは俺を含めて四人ですることになった。俺は了承してないのに。
そして、クレープに盛り付ける係は残りのクラスメイトが順番で回すことになった。
はぁ~。諦めるしかなさそうだな。
「じゃあ、当日はそういうことで、もちろん、みんなの目指すなら優勝だよね」
陽彩がそう言うと、クラスメイトはなぜかやる気になった。さっきまで、俺に『なんでこんな奴が陽彩さんと仲良くしてんだ』とか『あいつ陽彩さんとどんな関係?』とかひそひそ話してたくせに。ちゃんと聞こえてるからな。俺は気にしないけど、陽彩の耳に入ったらあとが怖いぞ。
そんなやつらすらもたった一言で気持ちを変えてしまうなんて、やっぱり陽彩は凄い奴だよ。自分では自覚してないみたいだけど、その誰でもやる気を出させるのは魅力の一つだと思うぞ。
「翼もよろしくね」
陽彩が俺の方を向いてそう口パクした。
「わかったよ」
俺は同じく口パクでそう返した。
高校生最後の文化祭くらい参加するのも悪くはないか。俺は開き直ってそう思った。
そうそう。ここでちょっとだけ説明。
陽彩がさっき言った『目指すなら優勝』というのは、実は三年生だけ、模擬店での売り上げで勝負するということになっているらしい。これは春桜高校の伝統で、何でもこの勝負で優勝したクラスにはクラス全員が、大学に合格するという、なんともよくわからないジンクスがあるらしい。
というわけで三年生、しかも進学をする生徒たちはこぞってやる気を出すのだ。
まあ、俺には関係ないけどな。だから、正直俺がやる気を出す理由もないんだけど。
陽彩のあんなに生き生きとした顔を見てるとまじめにやるかと思ってしまう。それは、それとして、『蓮』のバイトの後で陽彩にはみっちりとお返しをしないとな。
文化祭のあらかたの内容が決まったところでチャイムが鳴って授業は終わった。
「翼、帰ろ!」
「そうだな」
俺たちは学校を後にして、『蓮』に向かうのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで読んでいただきありがとうございます!
【フォロー】【いいね】【☆】いつもありがとうございます。
読者の皆様の応援が書くモチベーションになります!
基本的に作者が読みたいものを書いてるだけなので温かい目線で読んでいただけると嬉しいです。
Twitterもしてるのでよかったらフォローお願いします!。
【@kuga_kakuyomu】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます