第43話
花火大会の会場に到着した時には、すっかりと暗くなっていて、あたりを照らすのは、屋台のきらびやかな明かりだけだった。
空を見上げれば、花火がよく映えそうな真っ暗なキャンバスが広がっていた。
「花火が始まる前に屋台回っちゃお~」
雛形の提案で俺たちは屋台を見て回ることなった。とはいったものの、これだけたくさんの屋台が合ったら、どこから回ろうか迷う。そして、俺は会場い来たことが無かったので、どこに何があるのか全く分からなかった。
「ということで、私たちは二人で回るから、ひーちゃんとつーくんで屋台回ってきていいよ~。それで、後で、集合しよう」
「分かった。じゃあ、また後でね」
陽彩がそう言うと、雛形と有川は人ごみの中に消えていった。
そして、陽彩が俺と手を繋いで、行こう、と言った。
「迷子になったら困るからね。翼、来たことないっぽいし、私についてきて!」
「そうしてもらえると助かる」
ということで、俺は陽彩の案内に従って屋台を回った。射的をしたり、ヨーヨー釣りをしたり、綿あめを買ったり、りんご飴を買ったり、かき氷を買ったりとどれも新鮮な体験で面白かった。
最後に、焼きそばと唐揚げを買って、二人との集合場所に向かった。
「なんだか、楽しそうだね」
「そう見えるか?」
「うん! 翼、めっちゃいい顔してるよ!」
「楽しいからな」
「それならよかった!」
「誘ってくれてありがとうな」
「どういたしまして」
集合場所に到着するとすでに二人の姿があった。
「二人ともお待たせ~」
「こっち、こっち~。ここで見ようよ~」
そこは、視界を遮るものが何一つない四人掛けのベンチだった。右から俺、陽彩、雛形、有川、という風に座って、花火が始まるまで、屋台で買ったご飯をそれぞれが話をしながら食べていた。
ヒゥー。バン。バン。
夜空の静寂を切り裂くように花火の音が会場中に響き渡った。と同時に、真っ黒なキャンバスに色鮮やかな色彩が広がった。
「綺麗~」
「ほんとにな」
「あ、赤色の花火!」
そう言って、陽彩が夜空に最多花火を指す。
「ほんとに赤が好きだな」
「もちろん、大好き!」
その後も色とりどりな花火が夜空に咲いていった。
俺たちはそれを静かに心に記録するように堪能した。
「また、来年も来ようね」
陽彩が俺の方を向いてニコッと笑い言った。
その笑顔は夜空に咲いているどんな花火よりも綺麗だった。
「来年も、その先もずっと一緒に……」
「見れたらいいね。というか、見ようね!」
「そうだな」
最後の花火が夜空に咲いて、再び静寂があたりを包んだ。
「終わっちゃった~」
雛形が名残惜しそうにそう呟いた。
「そうね」
有川も名残惜しそうだった。
「また、来年も一緒に見に来ようよ。この四人で!」
「そうだね!」
「そうね」
「そうだな」
俺たちは陽彩の言葉に頷き合って、ベンチから立ち上がった。
「明日から学校か~」
「愛理はテスト勉強したのかしら?」
「も、もちろん大丈夫だよ~」
そう言った雛形の目は泳いでいていた。
「その目は大丈夫じゃない時のやつね」
「どうしよう~。なーちゃん。助けて~」
「しょうがないわね。後で、テストに出そうなところを送るから頑張って覚えなさい」
「ありがとう~」
なんだかんだ雛形に優しい有川だった。
そんな二人のやり取りを俺と陽彩は笑顔で見ていた。
「明日は、絶対に勝つからね!」
「俺も負けないから!」
俺たちは俺たちでバチバチと線香花火のような火花を散らすのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます