第44話
花火大会が終わって家に帰ると、リビングにお母さんがいた。
「陽彩おかえりなさい」
「ただいま」
お母さんがなぜか私のことを見て笑っている。
「なんで笑ってるの?」
「いや、だって、あんた、もしかしてずっとその状態だったの?」
「え……」
「洗面台に行って鏡を見てきなさい」
私はお母さんの言う通り、洗面台に向って鏡を見た。それで、お母さんが笑っていた理由が分かった。
恥ずかしい……。私こんな状態で翼たちと話してたなんて。でも、誰も何も言ってこなかったってことは、気づいてないってことだよね……。大丈夫だよね……。愛理とか、気づいてたら絶対に言いってきそうだし……。
私は真っ青になった舌を見てそう思った。
「あれのせい、だよね……」
祭りの途中で食べたかき氷。そういえば、ブルーハワイのやつを食べた。かき氷なんて食べたの久しぶりだったし、翼たちと花火大会に行けて楽しくて、すっかりと舌が青くなることを忘れていた。まあ、考えてもの祭りっだよね。
私はそのまま、お母さんのいるリビングに戻った。
「もうちょっと、気にしないと。年頃の女の子なんだから、そんなんじゃ、翼君に嫌われるわよ~」
「大丈夫だよ。翼はそんなことじゃ嫌いになったりしないから」
私はお母さんの前に座った。よく見ると、ほんのりと頬が赤くなっていた。お酒を飲んで帰ったきたみたいだった。
お母さんは営業マンなので、そう言った接待ももちろんあるのだろう。あまり飲みすぎて体を壊さないといいけど。お母さんはあまりお酒に強くない。今も、もう眠そうに頬を机につけて、だらっとしていた。そして、お酒に酔ったお母さんは雰囲気が変わってしうのだ。営業マンの時のようなきっちりとした雰囲気から、ほわほわしたおっとりとした性格に。
「あら、随分と自信があるのね。で、いつ彼にちゃんと会わせてくれるわけ? この前は結局、陽彩が連れて行っちゃって、お話しできなかったし」
「だから、それはそのうちだってば。今じゃないの」
「そんなに陽彩が会わせてくれないなら、翼君のお父さんがやってるお店に行っちゃおうかしら」
「え、なんで、そのこと知ってるの……?」
「なんでって、獅戸蓮夜って言ったら世界的に有名なパティシエじゃない。獅戸って珍しい苗字だし、もしかしたらって思って調べてみたら、この近くでお店開いてるって書いてあったし、陽彩と同じ学校てことは翼君もこの辺に住んでるんってことでしょ。てことは翼君は獅戸蓮夜の息子だろうなって」
「凄い推理力……。営業マンじゃなくて、探偵にでもなればいいのに……」
翼のこと名前以外は何も言ってないのに、そこまで分かっちゃうなんて。
「それに、あんなに美味しいガトーショコラを作れるんだもん。それと獅戸って名字を聞いたら、スイーツ好きなら誰でも分かるんじゃない。桃も分かってたみたいだし」
「うそ!?」
「みたいよ。だから、今度一緒にお店に行って見ようって話をしてたのよ」
「絶対にダメ! 翼を連れてくるからお店には来ないで!」
「陽彩。あんた私に何か隠し事してるわね?」
お母さんがジト目で私のことを見てきた。
まずい。あの姿をお母さんとお姉ちゃんに見られるわけにいかない。もしも、見られるようなことがあったら、私は二人に一生からかわれる。それだけは何としても阻止しないと。
「な、何も隠してないよ……」
「ほんとにー? 怪しいなー」
「ほんとに何もないから!」
「陽彩、必死すぎ。分かったわ。あなたがそこまで言うなら信じてあげる。けど、その代わりちゃんと翼君に会わせること! いいわね」
なんで、お母さんがこんなに翼に会いたいのか分からなかったけど、私はコクっと頷いた。
「やったー。翼君に会えるー」
「なんで、お母さんはそんなに翼に会いたいの?」
「だって、もしかしたら私の息子になるかもしれないじゃない。それに、翼君のガトーショコラをもう一度食べたいの!」
それが本音かー!
てか、まだ、私たちはそう言うんじゃないし! たしかに、プロポーズみたいなことは言われたけど、まだ、お母さんの息子じゃないから!
「まだ、そこまでいってないから・・・・・・!」
私が恥ずかしがりながら言った言葉は空に虚しく消えた。目の前に座っているお母さんはぐうぐうと寝息をたてて眠っていた。
「まったく・・・・・・」
私はお母さんの部屋からブランケットを持ってきてそっとかけてあげた。
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