第24話 【背中を押すマカロン】

 ゴールデンウィークが終わり、一ヶ月が経った。夏の強い日差しが徐々に頭を現し始めてていた。

 陽彩には週四回で『蓮』の手伝いをしてもらっていた。本人も楽しんでいるようで、俺は誘ってよかったなと思っていた。ゴールデンウィークに比べるとお店に来るお客様の数は減るが、それでも夕方はいつもイートインスペースは満席になる。これまで、三人で回していたのが四人になったことによって、比較的楽になった。

 その一ヶ月の間に中間テストも行われた。もちろん、俺は当然のように一位を取ったが、驚きだったのが、二位のところに書いてあった名前だった。


「陽彩は頭よかったんだな」

「それ、翼が言うの? 学年一位のくせに!」


 俺たちはいつものようにお昼ご飯を屋上で食べていた。

 もはや、陽彩と二人っきりでご飯を食べるのは定番化しつつある。一ヶ月でここまで変化するんだな。

 雛形や有川と一緒にご飯を食べなくていいのかと聞いたら、大丈夫~、と笑顔で言った。


「テストの結果なんて正直どうでもいいけど、なんか翼に負けるのは悔しいから次は絶対に勝つからね!」

「負けるつもりはないけど?」

「じゃあ、もしも私が勝ったら私のいうこと何か一つ聞いてね」

「いいぞ。その代わり俺が勝ったら何か一つ言うこと聞いてもらうけどいいのか?」

「も、もちろんだよ。エッチなやつじゃなければ」

「それは、ないから安心して……」

 

 ということで俺たちは次のテストで勝負することになった。

 次のテストは夏休み明けだ。

 夏休みか……。もう、そんな時期なんだな。夏休みにはある場所に行くと俺は決めていた。


「翼に聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」

「ん?」

「翼の将来の夢ってある?」

「俺の将来の夢か。もちろんあるよ」

「聞いてもいい?」

「いいけど。どうしたんだ?」

「ちょっと、最近、将来のことについて考えてるから」

「なるほどな。俺の夢は、自分のお店を持つことかな。お父さんに負けないくらいの来てくれた人が幸せな顔になてもらえるような、そんなお店」

「いい、夢だね」


 俺の夢は子供のころから決まっていた。ずっと、追いかけてきて、見てきた蓮夜の背中を超すのが俺の夢。そのためには、蓮夜よりも素敵なお店を持たなければいけない。さらに言えば、蓮夜の作るスイーツ以上に、俺の作ったスイーツで人々を幸せな気分にさせなければならない。そのために俺は夏休みの二週間、ある場所に行く。今よりももっともっと美味しいスイーツを作れるようになるために。


「私はどうしよう……」

「まあ、そんなに焦って決めなくてもいいんじゃないか?」

「そうなのかな? お姉ちゃんにも同じこと言われた」

「そっか。まあ、俺の場合は特殊だから、小さな頃からお父さんが目標だったし。もしも、俺があの家の子供じゃなかったら、まだ将来のことなんて何も考えてなかったと思うぞ」


 実際、蓮夜の背中を追い越すって夢がなかったら、俺は他にやりたいことなんて何一つ思いつかなった。それが、今の俺の生きる意味で、叶うまで投げ出したくない夢だったから。

 陽彩もいろいろと悩んでるんだな。

 

「なんか、最近いろいろと考えるんだよね。ほら、私たち三年生じゃん。来年の私は何をやってるんだろうって、不安になることがあるんだよね。大学に進学してるのか、それともどこかの会社に就職してるのか」

「……」

「結局、どれだけ考えても答えがでるわけじゃないんだけどね。お姉ちゃんに言われたんだけど、やりたいことが見つかるときは人と同じようなもので一期一会なんだって、ふとした瞬間にこれを将来仕事としてやっていきたいって思うような時がくるって」

「そうかもしれないな。俺も初めてお父さんさんのスイーツを食べた時に、いつか俺もこんな美味しいスイーツを作れるようになりたいって思った。その時から、将来は自分のお店を持つんだって思ってたかな」

「そうなんだ……」

「まあ、あんまり気を張りすぎるなよ。そればっかり考えてたら、俺にテストで勝てないぞ」


 俺は少し緊張を解いてやろうと冗談めかして言った。


「ありがと。てか、テストで勝つのは私だから!」

「そうそう、そうやって笑ってる方が陽彩らしい」

「え……」

「負けるつもりはないからな」

 

 俺はそう言って立ち上がって、教室に戻ることにした。


「私だって、負けないから」


 陽彩は大きな声でそう言って、俺の隣に並んで笑顔ではにかんだ。

 そんな陽彩に俺は何か力になってやりたいと思うのであった。

 

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