第25話
翼の将来の夢を聞いた日の放課後、私は愛理と七海と一緒にいつものファーストフード店でおしゃべりをしていた。
「二人に聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「何~? ひーちゃん」
「何かしら?」
「二人は将来の夢ってあったりする?」
「私はない~」
「私はあるわよ」
二人から予想通りの返答が返ってきた。
愛理はないと言って、七海はあると言った。
「七海の夢って何?」
「カメラマン」
「そうなんだ。七海ならきっとなれるよ。いつも、綺麗な写真見せてくれるもんね」
七海は自前のカメラでいろんな景色や私たちのことを写真に収めていた。その写真を何枚か見せてもらったけど、どれも素敵なものばかりだった。私たちを撮った写真なんかは、どれも笑顔が素敵なものばかりだった。
「てことは、大学に行ったりするの?」
「一応、そのつもり、カメラの勉強するために行こうかなって思ってる」
「なーちゃんは凄いな~。私はまだとうしようか迷い中だよ~。一応、大学に進学するつもりではいるけどね~」
「そっか。二人とも進学するんだ」
「陽彩はどうするのよ?」
「たぶん、私も進学すると思う……」
まだ、正確には決まってないけれど、おそらく大学に行くことになるだろう。自分のやりたいことを見つけるためにはもう少し時間が必要だと思うから。
「そうなのね。で、獅戸君は?」
「え、なんで、ここで翼の名前がでてくるの!?」
「だって、好きな人のことは知っておかないと。離れ離れになっちゃうわよ」
「そうだよ。ひーちゃん。つーくんにも聞いとかないと」
「一応、聞いたよ……」
「そうなのね。で、なんて言ってたの?」
「就職なのか進学なのかは分からないけど、翼は自分のお店を持つことが夢なんだって」
「へ~。つーくん。凄い~」
自分で言ってて、翼は卒業したらどうするんだろうと思った。将来の夢は聞いたけど、直近のことは何も聞かなかった。もしも、翼が大学に進学するのなら、私も同じ大学に行くのもいいかもしれない。
「まあ、どれだけ考えても未来のことは誰にも分からないわ。私だって本当にカメラマンになれるかどうかも分からないし。でも、今の私のことは分かる。今の私はカメラで写真を撮ることが好き。もしかしたら、未来の今はカメラで写真を撮ることが嫌になってるかもしれない。でも、今だけは、カメラで写真を撮ることを好きと思ってる今だけは、その夢を持って生きていきたい。私はそう思うわ」
珍しく、七海が熱く語った。
確かにそうだなと思った。未来の自分のことなんて、誰にも分からない。だけど、今のことは分かる。何かを好きだったり、誰かを好きだったり、そういったことが生きる活力になったりするんだろうな。そして、それがいつの間にか夢になったりするんだろうな。その夢を叶えたいから今を必死に生きようと思えるようになるんだろうな。
じゃあ、私の好きなことは? 好きな人は?
そう思った時、真っ先に浮かんだのは翼の顔だった。
「ごめん。熱くなりすぎた」
「いや、いいよ。なんか、かっこいいって思った」
「なーちゃん。かっこいい~」
そう言って、愛理は七海に抱きついた。
それに少し鬱陶しそうな顔をしながら対応する七海。
「だからって、わけじゃないけど。夢がなくても、やりたいことがなくても、そんなに悩む必要はないと思うの。結局、大事なのは自分の気持ちに正直に生きること。愛理みたいにね」
「そうだよ。ひーちゃん。私みたいになってもいいんだよ?」
愛理は無邪気な子供のような笑顔でそう言った。
自分の気持ちに正直に生きる、か。
「そうだね。なんか、心が軽くなった気がする」
「そう」
「ひーちゃん、今はつーくんのことだけ見てればいいのだー」
そう言って、愛理はガハハと笑った。
そんな愛理の頭に七海が軽くチョップをする。
「痛い~」
「調子に乗らないの。その通りだけど」
「ちょ、その通りって……」
私は恥ずかしくなって、二人から顔を逸らしてポテトを一つ摘まんで口に運んだ。
塩味のよく効いたポテトがなんだか、いつもより辛く感じて、翼の甘いスイーツが食べたくなった。
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